第11話-1 王都到着
旅の終わりは、思っていたよりも唐突だった。
街道は徐々に整えられ、馬車の揺れが気にならなくなる。
これまで身体の奥に染み込んでいた不規則な振動が、いつの間にか均一な揺れへと変わっている。
轍だらけの土の道は、いつの間にか敷石に変わり、その石もまた、精密に切り揃えられた舗装へと連なっていった。
道幅も広い。
対向する馬車同士がすれ違っても余裕があり、追い越しすら成立する。
(……あ)
その変化に気づいた瞬間、視界の先に“それ”があった。
白く連なる巨大な外壁。ただ白いのではない。石の質感を保ちながら、光を反射しすぎない落ち着いた色合い。
高さも、厚みも、これまで見てきたどんな城壁とも桁が違う。
丘を一つ越えた瞬間、景色が一気に開け、コーデは思わず声を失った。
「……」
喉が動くのに音にならない。
ただ大きいのではない。
威圧するでもない。
――圧倒される、という感覚が一番近かった。
壁には無数の文様が刻まれている。
遠目にはただの装飾や傷のように見えるが、近づくほどにそれが錯覚であると分かる。
文様は連なり、重なり、途切れることなく続いている。
それぞれが単独では意味を持たず、配置されて初めて役割を果たす。
――魔法だ。
(……街全体、が)
コーデの目には、それがはっきりと“視えてしまう”。
魔力が滞ることなく流れ、層を成し、絡まり合いながら循環している。
溜まるのでもなく、外へ逃がすのでもない。一定のリズムを保ち、街全体をゆっくりと巡る。
吸って、吐いて。
必要な分だけ取り込み、不要な分は緩やかに流す。
「これが……王都」
ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど掠れていた。
アルスは手綱を緩め、城壁を見上げながら軽く頷く。
「そう。ようこそ、王都へ」
それから、口の端を少しだけ上げて言った。
「魔法を使い倒す街だ」
「……使い倒す」
「褒め言葉だぞ?」
冗談めかした口調。
けれど、その言葉は王都の性質を端的に表していた。
ここでは魔法は秘術ではない。
生活に組み込まれ、都市そのものと不可分になっている。
城門が見えてきたあたりで、アルスが何でもない調子で言った。
「王都に来た理由はな」
コーデは、馬車の縁から身を起こす。
「世界を見て回る旅に出る。その正式な許可をもらう」
「……許可、ですか?」
「そうだ。私みたいなのが勝手に動くと、あとで色々言われる。だから最初に筋を通す」
あまりにも軽い口調だった。
まるで宿の延泊を頼む程度の話のように。
「王様に会って、『少し留守にするぞ』って言うだけだ」
(……王様、なのに)
アルスはそれ以上、何も説明しない。
あたかも、れだけが理由であるかのように。
世界を見て回る旅。
その言葉だけが、胸に残る。
城門へ向かう馬車の列に並ぶ。
周囲には商人、旅人、職人、兵士。
身なりも目的もばらばらだが、不思議と混乱はない。
(……全部、流れが決められてる)
人の動線。
馬車の停止位置。
荷下ろしの場所。
それらすべてが、見えない線によって整理されている。
検問所に近づくにつれ、コーデは別の“視え方”に気づいた。
(……重なってる)
城門付近の魔力は、城壁とは異なる層を持っている。
外向きではなく、内側へ向けた制御。
――検知結界。
しかも一重ではない。
侵入者の検知、魔力異常の捕捉、契約違反の察知。
用途ごとに分解された結界が、互いに干渉しないよう配置されている。
(……これを常時稼働?)
背筋にぞくりとしたものが走った。
検問に立つ兵士たちは、剣や槍だけでなく、腰や胸元に小型の魔道具を装備している。
中には、見たこともない構造のものもあった。
読んでいただいてありがとうございます!
初投稿なので、投稿設定など至らぬところがあるかもしれません…。
ファンタジーファンの一人として、面白い物語を書いていきたいので、ご愛読いただけると嬉しいです!
週に1話は投稿していきたいと思います!




