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第8話-2 代表の帰還


新年会の最中も、コーデは食事を運び、空いた皿を下げ、場を気にかけて動き回っていた。


その背にふと声がかかる。


「ありがとう。助かるよ」


振り返ると、アルスがそこにいた。


「少し新鮮な空気を吸わないか」


そう言ってテラスへと促される。


外は冷えていたが夜空は澄んでいた。

灯りの向こうに、静かな街が広がっている。


「乾杯の時に、驚いた顔をしていたね」


責めるでもなく、ただ雑談の調子で言う。


コーデは少し迷ってから、正直に頷いた。


「工房の名前と……代表の名字が同じだって、今さら気づいて」


「はは。そうか」


アルスは苦笑する。


「堅苦しい名前だろう」


星を見上げながら続ける。


「本当はね、アルスで十分だったんだ」


意外な言葉だった。


「私も孤児院の出身でね。元々アルスとだけ呼ばれていて、名に大した意味なんてなかった」


一拍置いて穏やかに続ける。


「魔法学園に入ったとき、友人が二人できてね。

 勝手にずいぶんと大仰な名前をつけられた」


肩をすくめる。


「アルセリオ・パリンプセストだなんて堅苦しい名前…。まったく迷惑な話だ」


そう言いながら、声音はどこか柔らかい。


「でも、どうやら――下に見られがちな出自の私が、軽く扱われないように、という気持ちもあったらしい」


コーデは黙って聞いていた。


「当初はありがた迷惑に感じていた。でも“その名で何を積み重ねるか”が大切だということに気づいてね。大事な場面では、2人が付けてくれた名前を名乗るようにしている。」


アルスは工房の灯りを振り返る。


「君たちがやっていることもちゃんと積み重なっているよ」


それだけ言って、先に戻っていった。



アルスの滞在は、珍しく一日や二日では終わらなかった。

一週間、二週間、一月以上もの間、工房や街の様子を観察しているようだった。


帳面を見て、人の配置を確認し、ラグの采配をただ静かに見ていた。


そしてある夜。


「……十分だ」


アルスがそう言った。


「判断も、交渉も、街との関係も。君はもう一人前の修復係としてやっていけるよ」


ラグは一瞬、言葉を失う。


「それは…どういう…」


「君の長年の願いである、“故郷で修復係として活躍する”ということをそろそろ考え始める頃だと思うよ」


「代表にそのような話をしたことは…。それに俺が居ないと依頼が回りません。」


「今回私が戻ったのは―― 一番弟子のフリオにこの工房を完全に引き継いでもらう準備のためだ。もちろん君が残ってくれた方がフリオも助かるが、君が抜けることも想定しておくように言ってある。」


それでも惜しいがね。と正直に言う。


「だが君は、君の人生を生きる時期にあると思うよ」



その夜遅く。

暖炉の火が小さく揺れる中、ラグとコーデは並んで座っていた。


「小さい頃さ」


ラグがぽつりと話し始める。


「危険な古文書が暴走して、故郷の街が壊れかけた」


視線は火に向けたまま。


「助けに来たのが、アルス代表だった」


声が少しだけ低くなる。


「俺はあの人に救われた。だから、工房に押しかけたんだ。」


半分無理やり弟子になった、と笑う。


「恩もある。憧れもある。

 でも……いつかは、故郷で修復係をやりたい」


沈黙。


「ここでの修行は楽しいいし、やりがいもある」


コーデの方をちらりと見る。


「お前と組んで、修復係として街の人間に認められるようになってさ」


コーデの胸がきゅっと締めつけられる。


応援したい。でも、寂しい。


「僕はどんな決断であってもラグを応援しますよ」


揺らめく暖炉の火を眺めながら、2人の思い出をポツリポツリと話しながら、夜が更けていった。

読んでいただいてありがとうございます!


初投稿なので、投稿設定など至らぬところがあるかもしれません…。


ファンタジーファンの一人として、面白い物語を書いていきたいので、ご愛読いただけると嬉しいです!


週に1話は投稿していきたいと思います!

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