第7話-2 積み重なる季節、積み重なる仕事
――
空気が暑さを帯び、工房の扉を開け放つ日が増えた頃、街は一気に賑わいを増した。
交易路が活気づき、他国の人間も目立つようになる。
獣人国家ガルド=フラから来たという露天商が、重そうな箱を持ち込んできた。
「魔道具の調子が悪い。直るか?」
差し出されたのは、くすんだ金属の道具だった。
だが、刻まれた紋様は精緻で、魔力の流れもまだ生きている。
(……いい作りだ)
コーデは、思わず目を奪われた。
(でもこの流れ、少し無理をしてる……ここを整えれば、まだ使える)
無意識に、魔力の動きを追っている自分に気づく。
「作り直しは必要ありません」
ラグが商人に向かって言った。
「効力が落ちている部分だけを整えます。
時間も費用も抑えられますよ」
ラグが説明している横で、横で補足を付け足す。
「契約自体は生きています。
噛み合わせが少しズレているだけです」
商人は二人を交互に見て、低く唸った。
「なるほど……最近の修復係は、そこまで見てくれるのか」
作業後、商人が言う。
「二人組なんだな。説明と手が噛み合ってる」
別の客が声をかけてくる。
「次はうちも頼めるか?
あの工房の二人組なら安心だって聞いた」
その一言がコーデには妙に嬉しかった。
(……ラグ、すごいな)
交渉も、段取りも、判断も早い。
自分が修復に集中できるのは、ラグが前に立ってくれるからだ。
(見習わないと)
――
日が短くなり、街を包む光が落ち着いてきた頃、学者街から依頼が届いた。
古文書の修復と付随する契約の再安定化。
作業中、学者はじっと手元を見ていたが、やがて小さく息を吐いた。
「なるほど……全部を直さないのか」
「必要な部分だけで十分です」
コーデが答えると学者は頷いた。
「昔は、そこまでできる修復係は少なかった。
いや……育てられていなかった、と言うべきか」
ラグが首を傾げる。
「育てられていなかった?」
「ああ。修復係は重要だが、“後回し”にされがちだった職だ。
それを変えようとした人がいる」
それ以上、学者は語らなかった。
だが、作業後に見せた満足そうな顔が、すべてを物語っていた。
――
冷たい風が吹き始め、吐く息が白くなる頃、雪に閉ざされかけた村から、防護契約の依頼が来る。
ラグは村長と話し合い、規模と費用を調整し、必要な物資を揃えた。
「この形なら、効果を落とさず、費用も抑えられます」
「助かる……」
修復後、結界は静かに安定した。
村人たちは深く頭を下げる。
「修復係さん、ありがとう」
その言葉を聞いて、コーデは思う。
(修復係はちゃんと役に立つ仕事だ)
ただし、それには力も知識も経験も必要だった。
昔の自分たちは、そこに届いていなかった。
だから、信用を得られなかっただけだ。
工房で道具を片付けながら、ラグが言う。
「修復係ってさ……思ってたより、ちゃんとした仕事だよな」
「うん」
胸を張れるほどではない。
だがもう下を向く理由もなかった。
二人で積み重ねた一年だった。
――そしてこの静かな日々に、
近いうち、変化が訪れる。
ふらりと帰ってくる、あの代表によって。
読んでいただいてありがとうございます!
初投稿なので、投稿設定など至らぬところがあるかもしれません…。
ファンタジーファンの一人として、面白い物語を書いていきたいので、ご愛読いただけると嬉しいです!
週に1話は投稿していきたいと思います!




