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受け付けでチェックインを済ませ、宿泊棟の鍵を受け取る。ついでに籠と「サービスです」とトウモロコシとジャガイモも渡された。宿泊客用の専用の蒸し釜があり、温泉に入っている間にこの籠に野菜を入れて釜にセットしておけば簡単に蒸し野菜が出来上がる仕組みだ。
「やったー! わたし温泉の蒸気で蒸し野菜するの初めてです!」
すっかり上機嫌の晴香に、お前チョロすぎやしないかと葛城は若干不安になるがここでもどうにか突っ込みを堪える。せっかく機嫌が直ったのだ、あえてまた不機嫌にさせたくはない。
渡された鍵でまずは泊まる棟へと入り荷物を置く。露天風呂はそこから繋がっている、というか、元々あった露天風呂にこの棟を増設したそうだ。
「だからこんな不思議な造りなんですね」
ペタペタと素足で短い廊下を渡れば脱衣所へと辿り着く。外へ出る扉とは逆にあるガラス戸の向こうが露天風呂だ。タオルと着替えを籠に入れ、葛城は念の為にと外用の扉の鍵を確認する。きちんと掛かっているのを確認して一安心、と振り返ればそこにはすでに全裸の晴香が立っていた。
「――はえーよ!」
「え? なにがですか?」
手早く備え付けのバスタオルを身体に巻き、髪の毛もゴムで結い上げている。温泉に入る準備は万全、もいいところだ。
「ちょ待てお前いつの間にそんな脱いで……!」
「温泉ですよ? 脱がないと入れないじゃないですか」
「そうだけど!」
論点はそこじゃない、と葛城は叫ぶ。
「だってお前この数秒で!? 俺が鍵確認してるだけでなんですでに準備万端なんだよ!」
「温泉に行くから着替えやすい服にしてきたからですね!!」
なるほどだからか、とようやく葛城は納得した。今日の晴香は頭からすっぽりと被るタイプのロング丈のワンピースを着てきた。いつもならその下にズボンかなにかを穿いているのに、珍しく素足でいたものだから、これは脱がせやすくていいなどと一瞬思ったりしたのだが。
「完全に温泉のためだけかよ……」
「ん? なにがですか?」
一応付き合いだして初めての泊まりがけの旅行だ。急遽決まったものだとはいえ、あとそう浮つく様な年でもないとはいえ、全くこれっぽちもそういう意識をされていないという事実がわりと結構非常にとてつもなく面白くない。
「それにしたって勢いよく脱ぎすぎだろ」
「だから温泉入るのに服脱がなくてどうするんですか」
「……ベッドの上だとシャツ一枚脱がせるのだって恥ずかしがるくせにな」
「それはそれですね!」
器が小さい自覚をしつつ、つい腹いせにからかいの言葉を投げてみたがあえなく打ち返された。というか、晴香はもう露天風呂に意識が向きすぎていて言われた事を半分も聞いていない。
「わたし先に入ってますから! 先輩はゆっくりでいいですよ!」
「わかった……って走るな! 飛び込むな泳ぐなよ日吉!」
「大丈夫でーす! ちゃんと掛かり湯もしますから! 安心してください!」
きゃーっ、と歓喜の声を上げつつ派手な水音が響く。
「わー! 先輩すごい! 温かいです!!」
「そりゃ温泉だからな……」
「お湯もずっと出てくるんですねすごい! ぜいたくー!!」
宿泊客専用の露天風呂は二十四時間お湯が出続けている。しかも源泉掛け流しだ。この辺りではかなりの贅沢で、だからこそ葛城は気に入って何度も通っていた。
そこにこうして恋人を連れて来れたのは純粋に嬉しいが。
「あんまりはしゃぐなよ! 湯あたりおこすぞ!」
「頭の上にタオル乗せてるから大丈夫です! あとペットボトルの水も持ってきてます!」
先輩の分もありますよ! とやたらと晴香の準備がいい。それほどまでに楽しみにしてくれていたのもこれまた嬉しいのだが、なんとなくこう、今の気分は恋人との旅行という甘さを感じない。
「……なんつーか、野生動物を温泉に入れてる気分だな」
「なんですかー!?」
なんでもねえよ、と晴香が浴室に入るときに脱ぎ散らかしたバスタオルを拾い、葛城も自分の服を脱ぎ始めた。




