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先輩とわたしの一週間  作者: 新高◆恩返し兄妹2巻4/15発売
コネタ

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49/50

ラブホ




 人間慣れという物は恐ろしい。あ、そうだ、との晴香の呟きに葛城はデッドボールが飛んでくるのを察した。


「先輩、今度ラブホ女子会しましょうよ」


 察した所でどうこうできる物ではないけれど。




 たっぷり数十秒経ったあたりで葛城は「あ゛?」とだけ返した。他にどうにも言葉が出ない。


「え、なんで突然キレ気味なんですか?」

「お前は会話をデッドボールからじゃないと始められねえのか」


 なにがですか、と本気で不思議がる晴香に葛城は頭を抱える。無自覚でありそして本気の発言だ。マジか、とついぼやきが出る。


「どこで、なにをだって?」

「ラブホで、女子会」

「女子会」

「前に友達とやったらすごく楽しかったし美味しかったんですよね」


 だからしましょうよ、と無邪気に誘ってくるこいつを誰かどうにかしてくれと祈るが、就業後の残業タイムでの職場内。このフロアにいるのは自分達しかいないのだから救いを求めた所で誰もいやしない。

 机に両肘を着いて葛城は項垂れた。はあああ、と全身を使って溜め息をつけば、先輩お疲れですねと晴香は手元のバッグからそっとチョコレートを出してきた。その気遣いの前にお前はもっと他に、と出そうになる言葉をもう一度溜め息で吐き出し、葛城は遠慮なく渡されたチョコを一口放り込んだ。


「先輩女子会しましょうよ」

「あのな日吉、俺、これでも一応男なんだ」

「え、突然なに言ってるんですか先輩」

「まんま俺の台詞だなあ!」


 お互い会話が上滑りしたまま戻らない。


「先輩ラブホいやなんです?」

「嫌とかそんな問題じゃ……つかなんだよ、どうしてそんなしたがるんだよ」


 これで実はラブホに誘いたいだけなんです、などと可愛らしくも淫らな理由であれば二つ返事で了承だ。なんならこれから今すぐ行ったって構わない。けれども残念な事に、目の前でキョトンとした顔をしている彼女にそんなつもりはこれっぽっちも無い。欠片も無い。微塵も無い。いっそそれに気付かず勘違いしてラブホに突撃できたらどれだけ良かったか。己の飼育員レベルが上がっている事が悔やまれてならない。


「パンが美味しかったんです」

「あ゛ぁ゛!?」

「先輩めっちゃガラ悪い」

「うるせえよ、なんだよパンって」

「そこのラブホがですね、女子会プランで利用すると普段は食べられない焼き立てパンがサービスで付いてくるんです」

「それは普通にパン屋に行ったら駄目なのか」

「パン業界のカリスマが焼いてるパンなんです」

「力の入れ所がおかしくねえかそのラブホ!? そしてなんだそのパン業界のカリスマって!」


 突っ込みが追いつかない。異業種とは言え初耳すぎるパン業界のカリスマ。


「世界的コンクールで一位取った人? らしいですよ? その人がやってるお店で買おうとしてもまず買えないくらい瞬殺だけど、そこのラブホとは提携してるから食べられるんです!」

「なんでそんなすげえパン屋のパンがラブホと提携して……」

「オーナー同士が友達って書いてました」

「縁故つえーな」

「だから女子会しましょうよ先輩」

「だから、の繋ぎがおかしいのに気付け」


 がっくりと項垂れたまま葛城は自分の携帯を取り出した。


「そこなんて名前だ」

「パン屋ですか?」

「ラブホだよ!」


 先輩機嫌悪いなあ、と暢気な感想と共に晴香はホテルの名を告げる。それを検索ワードに入力してタップすれば、ホテルのホームページが出てきたので葛城は中身にざっと目を通す。なるほど確かに女子会プランの目玉の一つであるらしい、パン業界のカリスマ職人による焼き立てパンの提供は。


「本当にすごく美味しかったから、先輩にも食べて欲しかったんですけど……」


 いまひとつどころか、全力で乗り気でないと感じた晴香が弱々しい声でそんな事を言うものだから、葛城は思わずこの場で押し倒しそうになった。なんだその可愛らしすぎる理由。

年上としてのプライドと男としての意地と後は社会人としての良識でそれらの葛藤をなんとか抑え込み、葛城は目当ての文言をネット上に見つけて指を止める。


「女子会じゃなくてもホテルに泊まればルームサービスで付いてくるぞ」

「なにがですか?」

「焼き立てパン」

「でもそのホテル、泊まるとなるとちょっと高いよねって友達言ってましたけど。違うんですか?」

「さあな、ラブホの相場なんてよく知らねえからなんとも……でもまあこれくらいなら別にいいだろ」


 俺が出すし、と葛城は晴香を見る。


「てことは先輩一緒に女子会」

「女子会は無理だっつってんだろうが! ホテル側から断られるぞ。泊まりだ泊まり」

「やったー!」


 これはまかり間違っても焼き立てパンが食べられる、と言うので喜んでいるのではない、と思いたい葛城であるが、どこをどう見てもそれが正解であるような気がして仕方がない。


「お前分かってんだよな?」

「なにをですか?」

「ラブホに行ったら当然エロいことするぞ」

「ラブホなのに!?」

「ラブホだからだよ!!」


 お前は一体ラブホをどんな所だと思っているんだと、その後巡回の警備員が来るまで二人でくだらなさすぎるやり取りが続いた。



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