表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

クリスマスの誘惑

作者: 耕路

お気に召しましたら、評価いただけますと、幸いです。

 クリスマスだった。

 圭一は、商店街にある洋菓子店でケーキを買うと、同じ並びにあるリカーショップでワインを買ってアパートに帰った。

 袋から取り出したワインのスクリューキャップを開けると、グラスに注ぐ。

 口に含んで味わうと、芳醇な香りが広がった。ボトルのほうは、ケーキと一緒に冷蔵庫にしまった。暖かい部屋での冷えたワインも格別である。

 ドアをノックする音がした。ドアチェーン越しに訪問者を確かめた。

 赤い衣装を着て、赤い帽子を被った白いあごひげのサンタクロースがドアの前に立っていた。

「なんですか?」

 圭一は、不審に思ってそのサンタクロースに尋ねた。何かのセールスと思ったのだ。

 サンタは言った。

「クリスマスシティへのご招待でうかがいしました」

 圭一は、ききかえして、

「クリスマスシティ? あなた不動産屋さん?」

 サンタは首を振って、

「毎日がクリスマスの街を知っていただきたいのです」

 サンタは、カードを取り出すと、圭一に渡して去った。ドアを開けて、その姿を追ったのだが、廊下には冷たい空気がたまっているだけだった。

 圭一は、室内にもどると、そのカードをしげしげと見た。一年中クリスマスのクリスマスシティ、と表記されている。裏返すと、スクラッチになっている。圭一は、財布から十円硬貨を取り出すと、テーブルの上でそのスクラッチの銀色の部分をこすった。

 文字が現れた。

【今夜11時に中央公園でお待ち下さい。お迎えにまいります】

 と、書かれている。

 まず、普通なら行かないだろう。だが、圭一の場合には好奇心がまさっていた。時間の少しまえには、ダウンジャケットを着込んで、指定場所の公園に立っていたのである。やがてその時刻になった。空気が深々と冷えている。

 ……と、上空に不思議な物体が無音で現れた。闇の空を背景に物体は、微かに青白く発光している。

(宇宙船!)

 圭一は、寒さも忘れて、その降下してくる物体を見上げていた。やがて、物体は公園の芝の上に着地した。

 貝殻のようなかたちをした、その物体の表面にスリットが入り、人の背丈ほどの四角い穴が開いた。ステップが下から伸びる。

 少しの間を置いて、その穴から人が出てくるのが認められた。

 なぜ、人と思ったのか。

 その姿が美しい女性だったからである。

 女性は圭一に近づくと微笑んで言った。

「圭一さん、お迎えにきました。さあ、まいりましょう」

 そして、圭一の手を握った。

 圭一は、そのとき、深く考えることができなかった。催眠術にでもかかったように、女性に従おうとしていた。圭一は、女性の横顔を見た。アイドルのような整った顔立ちだった。そして、女性の背後を見たときである。

 尻の位置から、爬虫類のような尾が伸びていたのである。

 圭一は、瞬間、恐怖に襲われ、駆け出した。背後からは野鳥のような叫び声が追ってきた。捕まったら生きては帰れないと思った。全速力で駆け出した。つまずいて転んだ。とっさに植え込みに隠れた。

 見ると、離れた位置には、あの爬虫類の尾をもつ生き物が徘徊している。


……どこかで電子音が鳴っている。

 圭一は、目を開けた。薄暗いアパートの天井が見えた。テーブルの上でスマホのアラームが鳴っている。

 アラームを止めると、時刻を確認した。

 テーブルのグラスには飲みかけのワインが残っていた。ホットカーペットの暖かさが、眠気を誘ったようだった。

 夢だったのか。奇妙な夢だった。

 カーペットの上に落ちていたカードにきづいた。マンションの案内広告だった。手に取って裏返すと、銀色のスクラッチになっている。圭一は、瞬間考えたが、迷わずそれをゴミ箱に投じた。

 圭一は知らなかったが、その晩遅く、街の上空に奇妙な発光体が目撃され、騒ぎになっていた。

 

読んでいただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ