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ゾンビは治せる病気です~Dr.アピリス診療所~  作者: 長多良
第9章 ゾンビナイトフィーバー
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第91話 ゾンビの戦い

 私、蘭葉メアリは元々運動神経がいいわけではない。しかし、ゾンビになったその瞬間から、身体能力は常人を遥かに凌ぎ、まさに人間離れした動きが出来るようになった。

 ひと跳びで数階建ての建物の高さに届き、車程度の重さなら持ち上げることが出来る。さらに私は自らの髪を糸状に伸ばして、それを足掛かりに空中を自在に飛び回る事も出来た。糸は集まって日本刀の形を成し、武器のように振るう事も出来る。

 それだけでも十分不思議だが、私が一番奇妙だと思ったのは、私自身にそのような能力が備わったことが、ゾンビになった瞬間に何となく分かっていたことだ。体に染み込んでいるというか。

 自分の体をどう動かせるか感覚的に理解することを『身体地図』というらしいが、ゾンビになった瞬間、それが書き換わったかのようだった。


 ゾンビになる事で驚異的な身体能力と運動センスを身に着けることが出来る。それは私だけではなく、相手もおなじことだった。

 骸神梅子と呼ばれた、私の母親と同じような歳の気弱そうなその女性はその見た目に反して巨大な鎖付き鉄球を振り回して私に迫って来る。


「やめてください・・・!酷いことしないでください・・・!」

「あなた達こそやめてください!ゾン神だか何だか知らないけど、村全体で旅人を襲うなんて極悪非道な事を!」

「お父様やゾン神様に逆らうなんてできません!!」


 そう言ってまた攻撃してくる。鎖付き鉄球なんて冗談みたいな武器だと思うが、実際相手にすると恐ろしい。ボーリングの球が凄い勢いで飛んでくるようなものなので当然だが。それもゾンビの力とスピードで。

 私の糸で絡めとろうとしても、質量と勢いの差で上手くいかない。鉄球を振り下ろした後は隙が出来るが、そのタイミングを見計らって周囲の手下のゾンビが迫って来るので、非常に厄介だ。

 だが無視して逃げようにも、向こうはこちらを逃がす気は無いらしく、取り囲んでくる。


「こんな風に人を襲うなんて、正気じゃないですよ!村人の皆さんも、やめる気はないんですか!?」

「当たり前ばい!」

「ゾン神様の命令ば破るなんて許されんとよ!」

「そげんことしたら村八分にされるとたい!」

「くそ、なんて不埒な・・・!」


 最初は状況が分からなかったが、ここまで話してこの村のゾンビ達が善人とは程遠いことが分かった。そうなれば、()()()する理由はない。いや、言い方が正確じゃないか。本来やりたくはないが、()()を出さないといけない。


「悪いのはあなた達ですからね!」


 そう叫びながら、私は刀を振るい糸を操る。地面スレスレを這うように。

 今までは相手を出来るだけ傷つけないように「縛る」ために使っていたが、これからは違う!糸が梅子やその他のゾンビ達の足に絡みついたことを確認し、そのすべての糸が繋がった私の刀を思いっきり振りぬく!


 ザシュパァアアアン!!!


 鈍い裂切音と共に、彼女たちの脚を切断する!片脚だったり両脚だったりいろいろだが、とにかく全員その場に崩れ落ちた。


「うあああ!」


 梅子が特に大きな呻きを上げて地面に叩きつけられる。


「そんな・・・こんな、こんなことが出来たなんて・・・!」


 そう言いながら彼女の脚は、すでに再生が始まっていた。切断された脚は灰のように崩れ散っていき、同時に体側の切断面からメキメキと新しい脚が生えてきている。

 他の村人ゾンビ達も同じだ。新しい脚が生える者や、切断された脚が近くになった場合は、消える前にくっつけてしまう者もいる。

 とにかくゾンビは死なない。体を斬られてもこのようにすぐ再生するか、くっつくかしてしまう。私はかつて、ゾンビになったばかりの時、同じくゾンビになった友人たちの首を切断してしまったことがある。だがそれでも死んでいなかった。


「こんなことが出来たのになぜ今までやらなかったの・・・!?」


 梅子は憎らし気にこちらを見つめる、が、私はそんな事も分からない彼女の思考に嫌悪感を覚えた。


「いくら再生するからって、人の体を切断なんて、本当はしたくないんですよ・・・!」


 それだけ言って私は走り出す。アピリス先生と合流するため、村の奥の一際火の手が大きい一角へ。


 何しろ梅子たちは今まさに再生しようとしている。のんびりしていたら、復活した彼女たちにまた追いつかれてしまうのだ。


「アピリス先生、無事でいて・・・!」


 これほどに驚異的な身体能力を持つゾンビ達だ。ただの人間であるアピリス先生の身が心配だ。


 ◆


「ふふふ・・・人間相手にドスを使える時が来るとはね。ちょっとゾクゾクするわね」


 竹子と呼ばれた中年の女ゾンビは、高そうな着物に似合わないチンピラのようなセリフを吐いてニヤニヤしている。そして彼女と同じように俺の周りを村人ゾンビが取り囲んでいる。


 咄嗟の事でセンセイとメアリちゃんと別行動を選択したが、あんまり良くなかったかもしれない。さっさとここを突破して合流しないと。だがその前に、聞き出せることは聞いておこう。


「おい、おばさん!」

「な!誰がおばさんよ!お姉さんとおよび!大体、お前だってオジサンじゃないの!」


 オジサン・・・それはそうなんだけど、俺は一応まだ20代で、竹子とやらは恐らく50代。オジサンおばさん論争は幅が広いな。


「ゾン神様ってのは、何なんだ!何が目的なんだ!」

「あら、アンタはゾン神教に興味あるの?それじゃあさっさと大人しく掴まりなさい!ゾン神様の所に連れて行ってあげるから!」


 そう言うと竹子とゾンビ達は有無を言わさず襲い掛かってきた。会話で聞き出すのは無理か。まあセンセイとの会話の時点でそんな感じだったからな。


 俺は迫って来る村人ゾンビ達の攻撃を避け、殴りつける。先ほどからこのようにゾンビ達の相手をしている。問題は相手もゾンビと言うことだ。殴り飛ばしても痛みは少ないし、傷はすぐ治るし、すぐ立ち上がって来る。

 基本的にゾンビ同士、不死身同士の戦いは不毛だ。メアリちゃんみたいに敵を斬り飛ばすことが出来れば、再生までの時間がかかるので多少有利になるが、それでも最終的には相手を拘束するか、逃げるしかない。

 そう言った問題を無視して完全に解決するのが、ゾンビを治療してしまうことだ。つまり、ゾンビを何とかしたいなら、唯一治療できるセンセイと行動を共にするしかない。


 やっぱり別行動をとったのは失敗だったか・・・。


 一応俺にも圧縮電気という能力がある。あれで相手ゾンビの神経系を焼き切れば、しばらく動けなくなるのだが、連発は出来ないので可能な限り温存したい。まあ俺はゾンビの中でも身体能力が特に高い方らしいから、今までも何とかなったし、農民ゾンビくらいなんとか・・・あ、痛い!一発貰ってしまった!殴りつけてきた奴を蹴りで吹き飛ばすが、今度は後ろからクワで殴りつけられた!痛い!ああ、次はスコップで!あ、鎌は怖い!草刈り用の鎌だけど、普通に怖い!


「ふふふ、私の愛ドスを食らえ!!」


 竹子が満を持して、と言った感じでドスを振りかざしてくるけど、もう鎌で刺されてるんですけど!ドスも怖いけど農具も怖いね!と言うか、農家の人たちって普段から農作業して力も体力もあるから、強くても不思議じゃない気がしてきた!

 俺だって暇なときは工事現場のバイトで体鍛えてるけど、病院で受付してる時はダラダラしてるだけだからなぁ。


「よし!このまま拘束するのよ!」


 あー、もうだめだ、面倒くさい!!


「圧縮電気開放!!」


 ビリビリビリビリ!!!


 丁度敵全員が俺の体に組みついていたので、体内の電気を一気に放ち全員を感電させる。


「あが・・・がぁ・・・」


 全身が黒く焦げ、口から煙を放つ竹子達。だがこれもそのうち復活してしまう。この隙に俺はセンセイ達と合流すべく走り出した。


 松子竹子梅子だけじゃなく、村人ゾンビもこんなに強いのなら、アピリス先生がゾンビを治療できるとは言えやっぱり危険だ。何とか逃げ延びていてくれたらいいのだが・・・。


 ◆


「ば、バカな・・・」


 松子と名乗ったその女性は、私の方を見ながら恨めしそうにそう呟いた。だが、その意識ももうすぐ途切れるだろう。


「私の剣術も通じず、これだけのゾンビで囲んでも、ただの人間一人捕まえられないとは・・・」


 彼女も、その周囲の村人も、全員、細胞異常再生症の症状が急速に収まっていく。私が撃ち込んだ治療針が適切に作用しているのだ。


「銀のアピリス・・・お前は一体・・・」


 そう言って骸神松子は意識を失った。


 私は大きく乱れた息を早急に整えようと努める。さすがに、女性とは言え日本刀を持った相手と、そして大勢の村人たち、細胞異常再生症の影響で身体能力が上がった多数を相手にするのは非常に綱渡りだった。幸い、傷を負うことも無く、全員治療することが出来たが。普段からメアリさん達相手に訓練していた成果だろうか。


「早く行かないと。みんな、無事でいて・・・!」


 私は再び、村の奥に向かって走り出した。

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