第89話 ゾンビバトル勃発!
『銀のアピリス』
私をそう呼ぶ村人たち。なぜ私を知っているのか?
『銀のアピリス』と呼ぶ人間に、私は心当たりがあった。
「あなた達、まさかダンテ・クリストフの仲間ですか!?」
ダンテ・クリストフ。私の母を殺し、故郷に伝わる蘇生術を盗み、その結果、細胞異常再生症の患者を増やして世に混乱を起こしている男。細胞異常再生症の患者の事件にはほぼあの男が関わっていると思って間違いない。だとすると、この人たちは奴の関係者・・・?だが、村人たちから発せられた言葉は想像とは違っていた。
「だんてくりすとふ?」
「誰?なんば言いよっとか」
「そげん奴しらんばい」
村人たちは口々に言う。しかし・・・この人たちちょっと方言が強め・・・。博多弁という奴だ。私は日本に来る前に日本語を勉強したが、いざ福岡に来ると習った日本語とはかなり違う方言を話す人が度々いて、結構大変だった。この人たちはかなり訛ってる方だな・・・。いや、そんな事を気にしている場合じゃない。
「知らない?じゃあ、なぜ私たちの事を知っているんですか?それに、見たところ、この村のみんな、『細胞異常再生症』にかかっているみたいじゃないですか!一体どうしてこんな酷いことに!?」
私の改めての問いに、村人たち三人のおじさんは怪訝そうに顔を見合わせる。
「何ねお前達、何も知らんとか?」
「じゃあ何しにここに来たとか!?ゾン神様を狙ってきたとじゃなかと!?」
「ちかっぱしゃーしか!なんでもええけんつんのーてくばい!!」
喋っているうちに一人のおじさんが興奮して叫び出した。
「・・・・・・。何て言ってるんですか?」
「えーと、『面倒だからさっさと捕まえよう』みたいな意味かな、多分」
ジョージが自信なさげにだが翻訳してくれた。ニホンゴムズカシイ。しかし何と言うか・・・改めておじさん達の様子を見ると、本当におじさんだ。肌は再生異常再生症特有の青緑に変色しているが、それ以外は本当におじさん。50代?60代?農作業用の地味な作業服に手ぬぐいキャップを被っている。一人はお祭りの時に着るような着物を羽織っている。確かあれは消防団とかいう組織のユニフォームのはず。そして口調は荒っぽいが方言な事もあいまって、何と言うかその・・・。
「なんか、田舎のおじさんの恰好って、ゾンビと合わないですね」
ああ!メアリさんが、私がうっすら思ってたことを言っちゃった!いけないわ。患者さんの症状からくる見た目についてどうこう思うのは。あと、ゾンビなんて言っちゃいけない。細胞異常再生症という、れっきとした病気なのだから。
私は雑念を振り払うように、目の前のおじさん達にもう一度語り掛ける。こうしているうちにも、村の中は火の手が広がり、そして細胞異常再生症の患者さんがあちこちを彷徨っているのだ。どちらも放っておけるものではない。
「あなた達!ゾン神様とやらに何を言われているか分かりませんが、その症状は病気なんです!早く治療しないとどうなるか分かりません!私は医者です!今すぐあなた達を治療しますから・・・」
「はぁ!?なんば言いよっとか!せっかくゾンビになって病気やケガの心配なくなったとに!
「そうたい!ゾンビになったおかげで腰痛も胃下垂も良くなったとに!」
「五十肩もなくなったとぞ!」
「それに、よそから連れてきたゾン神教の信者たちから集めた金で俺たちの生活も良くなったっちゃけん!」
「そうたいそうたい!ゾン神様は俺達全員をゾンビにしてくれて、よか暮らしをさせてくれる、本当の神様たい!」
「そ、そんな・・・」
私は彼らの主張に私はショックを受けた。
「つまり、この村はゾン神教とやらに支配されて、村人たち全員ゾンビ、という事ですね!しかも村の外から信者を集めて金を巻き上げている!絵に描いたような悪徳宗教団体!許せません!」
不正を憎むメアリさんが強い口調で村人たちを非難する。
「まさかニニカさん達にも危害を加えてはいないでしょうね!」
「そうです!ニニカさん!それにDr.アシハラという女性も、この村にいるはずです!!」
「ニニカ?あの娘か!あいつ等なら・・・・」
「おい!これ以上余計な事言わんほうがよか!!」
何か言いかけたおじさんを、別のおじさんが止める。だが、その反応だけでも十分だった。
「やっぱりニニカさんの事、知ってるんですね!どこにいるんですか!!」
「う、うるさか!そんなに知りたかなら、大人しく俺達に捕まるっちゃ!どっちにしろ、お前らは捕まえてゾン神様の所に連れて行くように言われとるけん!」
そう言うとおじさん達はそこら辺にあった鎌や鍬を持って私たちに襲い掛かってきた!
「センセイ!いいですね?」
ジョージが私に念のため確認をしてくれる。こうなったら仕方ない・・・!
「はい・・・!緊急治療を開始します!」
その声と共に、ジョージとメアリさんは首から下げた薬袋を外し、二人とも細胞異常再生症の症状を発現する。ジョージは肌を青緑色に、メアリさんはそれに加え、髪が赤く長く伸び、その手にこれまた赤く長い日本刀のようなものを握る。
「せからしかーーー!!」
おじさん達三人はよく分からない声を上げて私たちに迫って来る。そのうち一人をジョージが殴り飛ばし、もう一人をメアリさん刀を振るい、自らの髪の毛から作った糸を巧みに操り、男を縛り上げる。そして最後の一人は私に迫る、が、私は胸元からニードルガンを素早く抜き、その銃身に備えられたいくつかの目盛りを操作し、目の前の相手、患者の症状に合わせた薬を瞬時に調合する。そして、こちらを襲おうと大きく広げた両腕の間、心臓の位置に照準を合わせて引き金を引く!!
バシュン!!
空気圧に打ち出された針は相手の心臓に届くまで深々と刺さる。針は撃ち込んだ後に溶けて分解され、その場所に薬を届けるのだ。その効果により、目の前の相手はみるみると力を失い、倒れこむ。その肌は元の正常な状態に戻っていた。細胞異常再生症の症状を押さえたのだ。もっともこれは根本治療ではなく、一時的な物だ。薬を定期的に投与しないと、すぐまた発症してしまう。
細胞異常再生症を完全に治療するための知識は、私は持っていない。持っている可能性があるのは、ただ一人、Dr.アシハラだけ。だから、この村で必ず彼女を見つけなければならない・・・!
「三太郎!!」
オジサンの一人がそう叫ぶ。恐らく今治療した男の名前なのだろう。だが相手の事情に構っている暇はない。
私はジョージとメアリさん、それぞれが取り押さえた残りの二人にも同様に、心臓に治療針を撃ち込み無力化させる。あまり強くない相手で助かった。
「よし!じゃあ早くニニカさん達を探しま・・・しょう・・・・」
私はジョージとメアリさんに声をかけた、が、その途中で周囲の状況が目に入り、その気勢を削がれてしまった。
周囲は相変わらず火が上がっている。何人もの意識混濁状態の細胞異常再生症の患者が彷徨っている。だが、その中に何人か、さっきのおじさん達のように意識のハッキリとした状態の患者たちが、こちらを睨みつけて敵意をむき出しにしている。
「まいったな、センセイ。村中全員がゾンビ、全員が俺達の敵、ってのは本当みたいですよ・・・」
ジョージが冷や汗をかきながらそう呟く。メアリさんは怒りを込めて周囲を見等見返していた。
「まさに悪の組織ですね!ダンテ・クリストフが関わっていなかったとしても、壊滅させないと・・・!」
ちょっと怖いことを言う。
「とにかく、なんで火事になってるのとか、全く状況が分かりませんが、ゾン神様とやらを探しましょう!そこにニニカさんがいるみたいですし・・・!」
私がそう言っていると、遠巻きに見ていた村人たちの中から、こちらに近づいてくる人影が見えた。それも、三人。女性、40代、50代くらい。全員細胞異常再生症の症状である青緑色の肌になっている。そして、全員和服を着ている。藍色、紫色、薄茶色の着物。
着物姿をキッチリと着こなした女性三人が、厳しい視線でこちらを見ている。
「松子様!竹子様!梅子様!」
村人の一人が彼女たちの名前を呼ぶ。どうやら彼女たちがこの村の権力者のようだ。その中の一人、中心にいる藍色の着物の女性が忌々し気に呟く。
「火事で村が大変な時に『銀のアピリス』達が来るとは・・・。だが、来た以上は必ずゾン神様に捧げる・・・!竹子!梅子!やってしまうわよ!!」
その掛け声とともに、和服姿の女性三人は一気に臨戦態勢を取った!




