第85話 因習村の恐るべき真実
「竹子様、もうよかとですよね?」
「あれ!松子様、梅子様、なんばしよっとですか!?」
「どげんしたですか!?」
田舎のおじさん、おばさん達は次々に方言強めにガヤガヤしながら部屋に入ってきた。言葉だけ聞けばのどかな雰囲気だったかもしれない。問題は、全員ゾンビだという事だ。
「絵面とセリフがメチャクチャ~~!!」
彼らの様子を撮影していたあーちゃんが、急に叫び出した。撮影は止めないまま。
「ゾンビ大量出現の映像なのに、ゾンビ達が方言丸出しで、服装も消防団の法被!雰囲気が合わない~!!」
「いやいや、日本の田舎が舞台のゾンビ作品とか結構ありますからね。田舎のおじちゃんおばちゃんが農作業姿の吸血鬼になる作品とかもあるし」
「ニニカちゃん、随分落ち着いとるね!?」
「それを言うなら、あーちゃんも、意外と平気な感じですか?ゾンビに初めて遭遇したのに」
「色々ありすぎて混乱の方が先に来とるとよ!っていうか、これもしかしてドッキリじゃなかと~?村全体でウチらをドッキリにはめてるんじゃ!?ゾンビなんて本当にいるわけないでしょ~!」
あーちゃんは最初はかなり混乱していたが、話しているうちに自分で自分を納得させていったらしい。だんだん平静を取り戻していった。まあそれはただの現実逃避なんだけど。
「いやいや、ゾンビは本当にいるんですって。ほら、わたしもゾンビだし」
「え?うわああああ!!!??」
「ええ・・・!?ニニカさんもゾンビ・・・!?」
わたしが薬袋を取ってゾンビになると、あーちゃんとナツさんは再び声を上げて仰天していた。
「ま、まさかニニカちゃんもこの村のゾンビの仲間・・・!?」
「違いますよ~。わたしはごくごく善良な一般ゾンビです。ねえ、レイ刑事」
「ええ、間違いありません!ボクはゾンビ事件を担当している刑事で、ニニカちゃんは一般人ですが善意の協力者です!」
レイ刑事がビシッと言ってくれたおかげであーちゃんとナツさんは納得してくれたようだ。こういう時に国家権力って便利。
「ええ!?じゃあ警察はもうゾンビの事実を把握してるってこと!?これは大スクープじゃなかと~!?」
「アンタ達、呑気に喋ってるけど、今の状況分かってる?」
興奮するあーちゃんを、竹子さんがズバッと制止する。今の状況と言うと、わたし達は大勢のゾンビに囲まれているわけだが・・・。凄んでくる竹子さん達に対し、レイ刑事が毅然と前に出る。
「待ってくれ!どうしてこんなことをするんだ!!」
「さっきも言ったでしょ。私達はあのお方の命令で、この村に来た人間をゾンビにしてやるのよ!この村、村人全体が、そのために動いていたのよ!!」
「じゃあおじさん達が親切にしてくれたのも?」
「アンタ達を油断させるためよ!」
「もしかして、山崩れで道が塞がれたのも・・・・!?」
「よく分かったわね。あれはアンタ達をこの村に閉じ込めるためにワザとやったのよ。実際には山崩れなんて起きてない。用意しておいた丸太を倒木に見せかけて道を塞いだだけよ。危険だって言って現場に近寄らせなければバレることも無いしね」
「じゃあスマホの電波が届かないのも、外と連絡させないためにワザと・・・!?」
「それは・・・ウチの村は昔からずっと圏外なのよ!ド田舎で悪かったわね!」
そうですか。すいません。
「とにかく!この村に入った時点でゾンビになる運命は決まってるのよ!大丈夫、ゾンビになるのは怖い事じゃない、素晴らしい事なんだから!」
その言葉にレイ刑事が強い口調で反論する。
「ゾンビにするって事がどういうことか分かっているのか!?一回その人を殺さないといけないんだぞ!」
「ええ!?」
あーちゃんが恐怖の声を上げる。ナツさんも驚いているようだ。まあ当然か。だが竹子さん達は薄ら笑いを浮かべている。
「分かってるに決まってるでしょ。だって・・・私達も全員ゾンビになってるんだから!」
その言葉に竹子さん達姉妹をはじめ、村のおじさんおばさん達も笑い声をあげる。それは田舎の気さくな人々の笑い声、というのとは違う、悪い意味でのデリカシーの無い、無遠慮で下品な笑い方に見えた。
「さあ!こいつらを連れて行くわよ!あんた達大人しくついて来るなら乱暴な事はしないけど・・・どうする?」
「そんな事は認められない!この子たちはボクが守る!」
レイ刑事が力強くそう啖呵を切る。だけど、ここは屋敷の中で逃げ場は少なく、周囲はゾンビが10人ほどもいて、こちらはレイ刑事以外はわたし、あーちゃん、ナツさん、珠代さんの四人もいる。あーちゃんとナツさんは顔面蒼白になり(あーちゃんはスマホカメラを離さないのは凄いけど)珠代さんは竹子さん達を憎々しく睨むだけ。全員、戦力になる感じではない。となると、逃げるためには、わたしも頑張るしかない!!わたしのゾンビの力とレイ刑事の力で、この逆境を乗り越えて見せる!
◆
ダメでした。
わたし達はあえなく掴まって、今は屋敷から出て村のさらに奥、木々に囲まれた道を歩かされている。わたし達の周囲を村人ゾンビが囲み、松子、竹子、梅子三姉妹は先頭を歩いている。
村人ゾンビ達はハイゾンビじゃなくて、普通のゾンビだったけど、純粋に人数の差が大きすぎたよね。というか、相手がゾンビじゃなくてもこの人数差だと普通に勝てないよね、捕まっちゃうよね、あれは。アピリス先生やジョージさん、メアリさんがいれば全然勝てたと思うんだけどなー。
「レイ刑事が拳銃でドンパチやってくれると思ってたのに~」
「いやいや、悪人とは言え拳銃はそう軽々しく撃てないし・・・」
「相手はゾンビですよ!つまりもう死んでる!市民じゃない!撃っても大丈夫!」
「発想が怖すぎる!警察では一応ゾンビも人権を考慮してるから!あと死亡届が出されていない以上、書類上は死んだことにならないし!」
「そうなんだ」
「(あと、ボクの拳銃は弾入ってないし)」
レイ刑事はここからは小声で話しかけてきた。
「(え、なんでですか?)」
「(暮井先輩が。ゾンビには撃っても効果ないだろうし、逆に奪われたら危ないから、って。)」
「(なるほど~)」
まあそんな感じで、レイ刑事は体を張ってわたし達を逃がそうとしてくれたし、わたしも微力ながら目玉を外しては投げ、外しては投げしてみたが、結果は残念なものとなった。(目玉を投げるのは、村のゾンビ達も気味悪がっていたけど)
「アンタ達、随分呑気やけど、何でそんなに落ち着いとると~・・・?」
あーちゃんが、流石に不安そうにそう声をかけてくる。
「まあ確かに不安だけど、ここまで来たらしょうがないって言うか・・・。過去の陰惨な伝説が残るこの山奥の因習村で、どんなゾンビ組織が見られるか、楽しみですね!!古びた神社とかが本拠地になってるのかな!?あのお方って、やっぱり骸神家の当主の事なんですか?村を支配していた当主がゾンビの力を手に入れて、村全体をゾンビにして、さらに村の外からも人を攫ってきてゾンビ帝国を拡大させようとか・・・」
「骸神佐兵衛はあのお方じゃないわよ」
ここで口を挟んできたのは珠代さんだった。珠代さんもわたし達と一緒に歩いている。ただ、わたし、レイ刑事、あーちゃん、ナツさんは縄で縛られているが、珠代さんは縛られていない。周囲を囲んで歩いている村人ゾンビは、珠代さんに一定の敬意を払っているように見える。
「骸神佐兵衛ってのが当主?でもその人があのお方じゃない?そう言えば、珠代さんって、一体この村とどういう関係なんですか?」
「それは・・・」
「アンタ達、もう着いたわよ!」
話の途中だったが、先頭の松子さんがそう声をかけてくる。木々が開けた先にあったのは、これまでの田舎の昔ながらの風景とは一変した、鉄筋コンクリート造りの四角く大きな白い建物。学校のような工場のような、いや、学校の宿泊学習で行った合宿所が一番近いか。森の中を切り開いた広い広場に、3階建てほどのその建物が鎮座していた。
これまでの流れから古びた建物に連れていかれるのかと思っていたが、全然違ったのでしばし唖然とした。
「さあ、入りなさい!今なら集会が開かれているはずだから」
そうして、建物の中に連れられていったわたし達が見た物とは・・・。
◆
「皆さん。皆さんは選ばれた人間です。この汚れ切った現代社会の中で、あなた達だけは美しい心を忘れない、真に心優しき人たちです。そして、それ故に現代社会の中で傷つき、虐げられ、辛い立場に追いやられている・・・・。おかしいと思いませんか!あなた達のような人こそ、幸せに、穏やかに、安らかに生きていくべきだ!なぜそうなっていないのか。やはり社会が悪いのです。教育が悪いのです。政治が悪いのです。この腐った世界から我々はいち早く脱却しなければならないのです。もう一度言います。あなた達は選ばれた人間です!今日この日、この時、この場所に集った我々は同士です。生命、宇宙、魂の真理を知り、新たなステージ、新たな霊長へと進化するに足るニュービヘイバーが我々なのです。我々と一緒に心理への扉、解脱の試練を乗り越えれば、新生命体ゾンビへと生まれ変わり、老いも、病気も、怪我も、死さえも克服し、俗世の欲から切り離され、真の幸福へとたどり着くのです」
その広い集会場の前方にある一段上がったステージの上で、20代ほどのスラリとスタイルの言い男性は、手にマイクを持ち、淀みなくスルスルと言葉を紡ぎ出し続けていた。その前には30人ほどの人間がその話を直立して聞き入っている。老若男女。高校生ほどの人からおじいちゃんおばあちゃんまでいる。皆真剣に話を聞いている。中には涙を流している人もいる。集会場の中は殆ど真っ白で、人々の服も真っ白。壇上の男性はスーツのような服だが、聴衆達は動きやすい活動服のよう。
「今日もまた一人新たな解脱者が生まれました。鳥取から来たサキさん、そして鹿児島から来たミキヒサさん、前へ!!」
壇上の男性がそう告げると、壇上の脇にあった扉から中年の女性と若い男性が一人ずつ、自信に溢れた顔で現れた。この二人も白い活動服だが、聴衆とは違う所が一つ。二人とも見事にゾンビになっていた。
「サキです。私は長年、夫の母親の介護とパートでボロボロになっていました。それなのに、夫の母親が死んだら、夫は影で長年浮気していた相手と再婚するからと、私は家を追い出され、貯金も全て奪われてしまいました。途方に暮れていた所にこのセミナーの噂を聞き、ここで修行を続けたら、ついに認められ、今日ゾンビ化手術に成功しました!長年の介護でボロボロになっていた腰痛も四十肩も全て治って、今は青春時代のように活力にあふれています!」
「ミキヒサです。俺はずっと自分の境遇に疑問を持っていました。両親は大企業に勤めていることを鼻にかけ、子供の時から俺に勉強しろ、習い事をしろ、まともな人間になれと。でも俺はそんなつまらない人生は嫌だった!親の敷いたレールで普通の会社員になるんじゃなくて、オンリーワンの特別な存在になりたかった。家出して博多にたどり着いた俺に優しくしてくれたのはこのセミナーの人だった。その人が沢山のことを教えてくれた。この社会は資本主義に支配されているからぶっ壊さなきゃいけないという事を。感銘を受けた俺は、必死に努力して、今日ゾンビとして生まれ変わりました!」
それぞれの演説を聞いた聴衆達はその度に大きく拍手をして歓声を上げていた。それに続いて、最初に男がまた壇上の中央に立つ。ちなみにこの男もゾンビだ。
「皆様、今日は二人もハイゾンビとしてこの場に立つことが出来ました。彼女達のように、心から修行を続ければ、あなた達も新人類ゾンビへと昇華することが出来ます!ではこれからも、偉大なるあのお方、ゾン神様に祈りを捧げましょう!!」
「ゾン神様、万歳ーーー!!」
「「ゾン神様、万歳ーーーー!!」」
集会場の正面の壁には、大きな肖像画が飾られていた。立派な神職のような服に身を包み、陰陽師のような模様が入った布で顔を隠した人物の肖像画。それに向かって、白い服を着た人々は何度も万歳をしたり、土下座したりしていた。
その様子をわたし達は、隣の部屋の窓から見ていた。その窓はマジックミラーになっていて、集会場の中の人たちからわたし達は見えない。つまり、こっそり見ていたわけだが。
「どう、すばらしい演説だったでしょう!?アンタ達も今日からこのセミナーに参加して、一緒に解脱を目指しましょう!!」
先ほどまで怖そうな態度だった松子、竹子、梅子三姉妹、そして、村人ゾンビ達は、この集会の様子を見ている間にすっかりその表情を変え、とてもにこやかな表情になっていた。にこやかな表情で、この集会の内容が心から素晴らしいものだと思っている様子で、わたし達を勧誘してくる。
それに対して、最初に声を上げたのはあーちゃんだった。
「因習村のホラーかと思ってたのに、新興宗教のセミナーへの勧誘!!!???」




