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ゾンビは治せる病気です~Dr.アピリス診療所~  作者: 長多良
第8章 ゾン神家の一族
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第83話 骸降ろしの儀式

むくろ降ろし』


 謎めいたその言葉を説明するため、竹子さんはわたし達を屋敷の一室、応接間へ案内した。わたし、あーちゃん、ナツさん、そしてレイ刑事がソファに座るのを待って、竹子さんはその向かいに座った。池で見つかった死体は隣の部屋に安置しているという。あーちゃんとナツさんは居心地の悪そうな顔をしていた。


骸神むくろがみ家の一族には、古くから伝わる特別な儀式があるの・・・」


 竹子さんが語ったのは、骸神家の奇妙な伝統と、そして呪いの物語だった・・・。


 ◆


骸城むくろぎ村は大昔、本州から流れ着いた武将一族が住み着いて出来た村なの。正確に言うと・・・自分たちの口で言うのは憚れるけど、元々あった村を襲い、奪い取って住み着いた村。当初は周囲の領主が討伐しようとしてきたらしいけど、全て返り討ちにし、そのうち黙認されるようになった、という血なまぐさい由来がある村なの。骸城村、骸神家という名前も、当時周囲を威嚇するために敢えてそう言う名前を名乗ったと聞いているわ」


 ここまでは以前ナツさんから聞いていた話と同じだ。


「そのような歴史もあり、この村、この家は、骸神家の当主が強い力を持ち続けるための仕組みがあったの。それが『骸降ろしの儀式』。それは、当主が代替わりする時、後継者を決めるための儀式・・・。次期当主後継者同士による、殺し合い・・・」

「こ、殺し合い!?」


 レイ刑事がギョッとして身を乗り出すが、竹子さんが慌てて制止する。


「もちろん今は殺し合いなんて行われていなわよ。これはただの言い伝え」


 それを聞いてレイ刑事は一応安心したのかソファに座り直す。ナツさんは先ほどまでの不安げな表情から一転、真剣に竹子さんの話を聞いていた。あーちゃんはスマホで撮影を続けている。(意外にも竹子さんは撮影することは気にしてないようだ)


「それは、元々は骸神家に降りかかった『呪い』を鎮めるための儀式だったらしいわ」

「『呪い』ですか・・・」

「そう、先ほどお伝えしたように、骸神家はその成り立ちから血塗られていた。最初の当主が年老いて、その子供の中から後継ぎを決めようとした頃から、不可解な事件が立て続けに起こるようになったらしいわ。何人かの後継ぎがいたけど、一人、また一人と、命を落としていった・・・・。一人は突然炎に包まれ焼け死に、一人は底なし沼で溺れ死に、そして一人は沢山の野犬に襲われて喰い殺された・・・!」


 竹子さんは熱が入ったのか、段々とおどろおどろしい喋り方になってきた。


「ついに後継ぎは残り一人になった。彼は、多くの人を殺して村を建てたことへの山の神の祟りだと考えたそうよ。お祓いをしようと。でも初代当主は非常に粗暴で、祟りの事なんて信じる男ではなかった。実際被害に遭っているのはその当主自身ではなく、後継ぎの子供たちだったから。次は自分の番ではと恐怖したその後継ぎは・・・祟りを鎮めるために、当主の男を殺したのよ」


 あーちゃんがゴクリと唾を飲み込むのが聞こえた。それ以外は全員、何も言葉を発さず、竹子さんの次の言葉を待った。


「当主の暗殺は、激しい抵抗にあったものの何とか成功したらしいわ。でも当主はその苛烈な気性から、死に際に呪いの言葉を残していったそうよ。『山の神の呪いを恐れて、生贄として俺を殺したならば、これからも代々生贄を捧げ続けるがいい。後継者のうち、次期当主以外を全て生贄に捧げよ。もしそうしなければ、山の神などではなく俺自身の怨霊がお前らを呪い殺してくれよう。その代わり、生贄を捧げ続ければ一族は栄え続けるであろう』と。それ以降、祟りを恐れ、そして繁栄を望んだ骸神家は、後継者を決める時に後継者同士が命を奪い合う『骸降ろし』の儀式を行うようになったそうよ。時々それを拒否する代もあったけど、恐ろしいことに、結局は不可解な死に方をして後継者は一人しか残らなかった。それも、その死に方は全て、最初の祟りの時と同じように、火で死ぬか、水で死ぬか、犬に喰い殺されて死ぬか、そのどれかだった・・・」

「それってもしかして・・・!」


 あーちゃんがハッとして声を上げる。


「今回の殺人事件も一人目は火事の中で、二人目は池の中で死んでいたって事は・・・・見立て殺人って事!?」

「私も、それが思い浮かんだからこの話をしたのよ・・・」


 竹子さんは重々しくそう答える。そんな彼女に対して、次に口を開いたのはナツさんだった。


「ところで・・・その『骸降ろし』。昔話として語っていましたが・・・、先ほど竹子さんが松子さん、梅子さんと話していた時に、「もうすぐ『骸降ろしの時期』」と言ってましたよね・・・・?あれはどういう意味だったんですか・・・・?今はもう殺し合いなんてしていないとは言ってましたが・・・?」

「あれは・・・後継者を決める儀式の事よ。さっきも言った通り今更殺し合いなんてしないけど、今でも後継者を決める時は、選ばれなかった者は廃嫡となって権力も財産も失うのよ。今代のお父様は私達三姉妹しか子供がいないから、私達の中から一人選ばれるはずだったんだけど・・・」

「つまり・・・」


 竹子さんの言葉を遮ったあーちゃんは、続く言葉を少し躊躇ったようだが、そのご意を決したように続けた。


「後継ぎに選ばれるために、竹子さんには松子さんと梅子さんを殺す動機があったってこと・・・?」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!私じゃないわよ!!」

「でも、二人が死んで一番利益があるのは竹子さんじゃなかと!?」

「違うって言ってるでしょ!それに、後継者候補はもう一人いるのよ!動機があるって言うなら、そいつの方があるわ!!」

「後継者候補がもう一人?三姉妹しかいないって・・・」

珠代たまよって女よ!」


 タマヨという名前が出てきてわたしは驚いた。わたし達がこの村に入る前に会ったおかっぱ頭の赤い和服の女性。松子さんも彼女のことは憎々し気に話していた。


「アイツは最近この家にやって来たのよ!父の隠し子かなんかじゃないかって噂だけど、本当の事は父もあの女も話さない。でも、アイツも後継者候補の一人だって父が突然言ったの!私たち三姉妹を殺そうとしてるなら、アイツが一番怪しいわよ!!もしそうなら、次に狙われるのは私なのよ!?言い伝えの通りなら、私は犬に襲われてしまう・・・そんなのイヤよ・・・!」


 丁度その時、遠くから犬の遠吠えのようなものが聞こえて、竹子さんはビクリと身を竦めた。


 タマヨ、珠代。私はその姿を見ているが、実際に言葉を交わしたことは無い。どんな人かも分からないので、竹子さんの言葉の信憑性もよく分からない。


「分かりました!その珠代さんにも話を聞かないといけませんね!どこにいるんですか!」


 レイ刑事が勢いよく立ち上がる。


「ちょっと、レイ刑事、先に死体を見ないといけないんじゃないですか?」

「おっと、そうだった!怪談話に夢中ですっかり忘れていたよ!ありがとうニニカちゃん!」


 忘れちゃいかんでしょ。


 とにかく、ようやく死体のある部屋へとわたし達は案内された。のだが・・・・。


 先にその部屋の扉を開けた竹子さんが悲鳴を上げた。


「死体が、死体が無くなっている!?」

「えええ!?」


 レイ刑事を筆頭に、慌てて部屋に入る私たち。そこは、火事になった物置部屋と同じような作りで、つまり、入り口の他には高いところにある小さな窓以外は外に出る場所が無い部屋だった。部屋の中には死体を覆っていた竹子さんの上着が残されていたが、死体そのものは無くなっていた。


「ちょっとアンタ!死体を持ち出したの!?」


 竹子さんは部屋の外で待機していた村の男性に詰め寄っていた。


「そんな事してませんよ!それに、俺はずっとここで、死体が人に見つからないように見てました!!誰も入ってません!!」

「それじゃあ・・・」

「また密室から死体が消えた・・・!?」


 現場は騒然となった。ただ、あーちゃんは段々テンションが上がって来たのか、カメラを回しながら「これは凄いスクープになるばい・・・!」と呟いていた。


「スクープもいいけど、探偵なんだからちゃんと密室トリック解明してくださいよ!?」

「ええ!?だからウチはそう言うのは専門じゃなくて・・・。刑事さんがいるんだからそっちに任せればよかやろ~」

「うーん、でもレイ刑事はあんまり期待できないって言うか・・・」


 そんな事言ったら失礼だろうか。レイ刑事は今の所一生懸命現場を調べているが。


「そうなん?そんなに言うなら、ニニカちゃんが探偵になって推理してみたらよかやん~」

「えー、わたしですかー?」


 やっぱりわたしが探偵役になるしかないのか?そう言われてもわたしも殺人事件は専門じゃないしな・・・。そんな事を頭の中で巡らしていたら、ふと、わたしはある可能性に気が付いた。


「もしかしたら・・・・!?」

「どうしたと、ニニカちゃん~」


 わたしはあーちゃんが構えるカメラに向かって人差し指を突き立てた。


「真実の謎はいつも解けた!!」


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