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ゾンビは治せる病気です~Dr.アピリス診療所~  作者: 長多良
第8章 ゾン神家の一族
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第80話 第一被害者発見

「さあ、皆様こちらへどうぞ」


 骸神松子さんに案内されてわたし達は骸神家にお邪魔した。外から見ても豪邸だったが、中から見てもやっぱり立派だった。純和風のお屋敷。廊下も広くて部屋も沢山ある。縁側に中庭など、市内に住んでるわたしは見たことも無いような家だ。失礼だけどこんな何もない山奥の田舎で、どうしてこんなにお金持ちなんだろう、と思う。ナツさんの話によると昔は色々儲かっていたらしいから、その名残なのかな?


「竹子さん、梅子さん、お客様にお茶をお出ししてください」


 松子さんがよく通る声でそう言うと、廊下の奥から一人の女性が現れた。足早に近寄って来るが、足音は立てない。上品さを感じさせる。松子さんに顔の雰囲気の似た女性だ。50代くらいだろう。こちらも和服を着ている。松子さんは紫色系の、派手ではないが華やかさもあるいで立ち、梅子さんとやらは薄茶色の和服で少し地味な印象だ。


「はい、松子お姉さま。もうすぐお出しできます」

「そう、よろしくね」


 松子さんは、さも当然というように大して感謝した風もなく、短くそう言う。そうこうしていると廊下の奥からもう一人、これまた顔の雰囲気の似た女性が現れた。こちらも50代くらいだろう。彼女は藍色の和服を着ている。


「あら、お客様なのね。松子お姉さまも梅子も、よく頑張るわねぇ。特に梅子は、そんなに松子お姉さまに媚びを売っても、《《もうすぐ全部無駄になる》》かも知れないのに」


 上品で丁寧な松子さんと梅子さんに比べて、こちらは随分感じが悪い。


「そんな・・・媚びを売ってるだなんて・・・」

「竹子さん、お客様の前ですよ。おやめなさい」

「はいはい、ごめんなさいね。お嬢さんたち、こんな田舎村までよく来たわね。もうちょっと後に来たら『骸降ろし』が見られたかもしれないのに。まあ、梅子のお茶とお菓子だけでも楽しんで行ってよ」

「竹子さん!!」


 松子さんが強い口調でそう言うと、竹子さんとやらはヘラヘラと笑って家の奥へと引っ込んでいった。


「(なんかすごい家に来ちゃったかもね。修羅場って感じばするね~)」


 あーちゃんがヒソヒソ声でわたしに話しかけてくる。ちょっとワクワクしているな。まあ気持ちは分かる。知らない人たちがケンカしてるのは、居心地悪くもあるけど、ちょっと野次馬根性も沸いてくる。


「お姉さん、ってことは、みんな姉妹なんですか~?」


 あーちゃんは営業スマイルで松子さんに質問する。


「はぁ・・・。恥ずかしい所を見せてしまいましたね。それに自己紹介もまだでしたね・・・。はい、私達は骸神家の三姉妹です。高齢の父に代わり、今はこの家の雑務を取り仕切っています。私が長女の松子、さっきの失礼をしたのが次女の竹子、この子が末の梅子でございます」


 紹介されて梅子さんが小さく会釈をする。全員50代の、マダム三姉妹だ。


 ◆


「皆様、ゾンビの噂でいらっしゃったんでしょう?」


 応接間に案内されたわたし達は、梅子さんがお茶を用意している間に松子さんが話し相手になってくれた。


「はい!そうです!ゾンビいるんですか!?どこにいるんですか!?」

「ちょっと、ちょっと待ってニニカちゃん!撮影しながらインタビューしたいからさ~。松子さん、撮影させてもらっていいですか~?」

「そんな、撮影だなんて、照れてしまいますわ」

「じゃあ目線にモザイク入れますから~」


 あーちゃんは食い下がったが、結局断られていた。まあわたしはゾンビの話が聞ければそれでいいんだけど。


「それでゾンビは!?」

「いやですわ、ゾンビなんて本当にいるわけないじゃないですか。あ、ごめんなさいね。あなた達を悪く言ってるわけじゃないのよ。噂を聞いて来てくれただけですものね」


 ガーン。

 ゾンビ情報が聞けるかと楽しみにしてたのに、アッサリとそう言われてしまった。松子さんは丁寧な態度で微笑んではいるが、その目はぶっちゃけ冷めているように見える。


「ネットだとゾンビの目撃情報が結構あるんですよね~。村の人で見たって人はいないんですか~?」

「おりませんよぉ。そんな事件あったらこんな小さな村じゃ大騒ぎでございますよ。でも、あなた達みたいに村に来てくれる若者が増えたんで、ガッカリして帰らせるのも悪いと思ってですね。それに、ちょっとした村興しにもなるんじゃないかと思って、色々おもてなしを考えてるところなんでございますよ」


 そう言うと、丁度いいタイミングで梅子さんが入ってきた。


「お茶でございます。そしてこちらが・・・」


 お茶の他に、いくつか皿を並べる。


「『ゾンビ饅頭』に『ゾンビもち』、『ゾンビ明太子』でございます」

「美味しいもの食べて、お土産にも買っていって貰おうかなと思いまして」

「うわぁ・・・」


 わたしは思わず声を上げた。促されるままに食べてみる。


『ゾンビ饅頭』はひよこ饅頭をゾンビの頭の形にしたものだ。『ゾンビもち』は筑紫もちの黒蜜を血のような赤に着色したもの、『ゾンビ明太子』は明太子に紫色の着色を施してゾンビ色のしたもの。


「全部パクリやね」


 あーちゃんが突っ込む。まあそれはそうなんだけど


「でも味はまあまあイケます!買います!」


 わたしとしてはゾンビグッズというだけで取り合えず買っておきたい!


「あら嬉しい。これはまだ試作品だから、お金はいりませんよ。ゆっくり食べて行ってくださいね」

「わぁーい!いただきます!」


 わたしは大喜びで食べさせてもらった。明太子用に温かい白米も出してくれた。やさしい。


「あの・・・すいません、私も質問していいですか・・・」


 暫く黙っていたナツさんがおずおずと声を上げる。


「なんでございましょう。ゾンビの事はもう喋れることは得に無いのですが」

「いえ・・・ゾンビの事じゃなくてですね・・・この村、この家に伝わる『骸降ろし』の儀式についてなんですが・・・」


 ナツさんがそう言うと、松子さんと梅子さんの空気が急にヒリついた。


「さっき竹子が言ってたことですか?あれは気にしないでもらってよろしいですよ。大した話ではないですから」

「いえ、私はその事を調べたくて来たんです。この村の支配者が代替わりするたびに行われるという儀式の事を・・・」


 しかし、ナツさんの言葉を遮るように松子さんは立ち上がった。


「その話は部外者の方にするような話ではございません。それに、これ以上家の事に口出しするのはお客様とは言え失礼でございますよ。お出ししたものは食べていって構いませんので、終わったらお引き取りください」


 そう言って部屋を出ようとする松子さんと、それに着いて行こうとする梅子さん。


 決まずい雰囲気になったが、そう言えばと思い出し、わたしはもう一つ質問をした。


「もう一個だけ質問なんですが、おかっぱ頭の和服の若い女の人って知ってますか?タマヨ様とか言う」

「!!」


 その言葉に、松子さんはさらに顔を険しくしてこちらを振り返った。


「あの女・・・!もういいです。これ以上話すことはありません・・・!」


 そうして怒ったまま出て行ってしまった。


 ◆


「なんかゾンビ以外で色々秘密がありそうでしたね」


 わたしは『ゾンビもち』を食べながらそうぼやく。このもちは、つまり筑紫もちなわけだが、黄な粉をこぼさないように食べるのがちょっと難しい。


「ナツさ~ん。なんか色々知ってそうやったね。教えてよ~」


 あーちゃんがナツさんにワクワクしながら詰め寄ると、ナツさんは困りながらも答えようとしていた。


「ええとですね、『骸降ろし』というのは・・・」


 そう喋り始めた時・・・・


「あれ・・・?なんか、焦げ臭くなか?」


 あーちゃんがそう言う。確かに、何か焦げ臭い音と・・・パチパチという何かが燃えるような音が部屋の外からしていた。


「なんだろう・・・」


 三人で部屋から廊下に出ると、廊下の奥、角を曲がった先から、煙と火が揺らめいているような赤い光が見えた。


「え、火事!?」

「だ・・・誰かいないんですか・・・!?」

「ちょっと見てきます!」


 わたしは状況を確かめるために煙が出ている方に駆けだす。ナツさんも戸惑いながらもついてきた。


 廊下を曲がった先には部屋への入り口があり、その中から火が出ているのがハッキリ見えた。


「大変だ!家の人は?松子さん達は!?」

「あ、あれ・・・!部屋の中に人がいませんか・・・!?」


 そう言われてわたしは部屋の中に向かって目を凝らす。煙と火の向こうに、確かに人影が見れる。倒れているようだ。逃げ遅れたのかも!わたし達は出来るだけ部屋に近づいて、中を覗き込む。


 そこには・・・・


「い、いやぁああああーーーーー!!」


 ナツさんの悲鳴が響き渡る。


 わたし達の目の前、部屋の奥に横たわっていたのは、一つの死体。しかも首を斬られた凄惨な死体だった。

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