第79話 第一村人発見
木々に囲まれた道を抜けると一気に視界が開け、そこには目的地である骸城村が広がっていた。
山の奥の村なので、勝手に凄く狭い江戸時代みたいな村を想像していたが、実際にはそこまでではなかった。村全体も木々に囲まれていて外とは隔絶されている感はあるが、結構広い。と言っても殆どが畑。その中に家が点在している。コンビニは無いけど商店らしいものはある。信号は無い。木々の向こうにも何かあるらしく、村全体が一望できるという訳でもない。一番目立つのは今いるところから村の反対側、少し坂の上になっている所にある、とても大きくて立派な日本家屋。その家のそばには大きな池もある。
まあつまり・・・。
「結構普通の村やったね~」
あーちゃんがスマホで動画を撮りながらスタスタと歩いて入っていく。
「あ、あの・・・あんまり撮影しながら村に入っていくのはやめた方が・・・」
ナツさんが気まずそうにあーちゃんに注意する。
「えー、なんで?」
「だって・・・こういう村で知らない人が撮影してたら嫌がられますよ・・・」
「大丈夫だよ~。そんなに人いないし」
確かにそんなに人はいない。そんなには。ちょっとはいる。
少し離れた場所に、畑の中で働いている人とか、道を歩いている人とか、何人かこちらの方をじっと見ている。
「こういうパターンだと、排他的な村人たちから警戒されて冷たくされるのが定番ですよね!!」
「ニニカさんは、何でちょっとワクワクしてるんですか・・・」
「あはは、そういうのも面白いよね~」
そんな話をしていると、わき道からヌッと人影が出てきた。ちょっとビックリしたが、その正体は中年のおじさんだった。麦わら帽子を被り、農作業中です、という恰好をしていた。
「どうしたとね、お嬢ちゃん達。こんな村に何の用ね?ピクニックにでも来たと?」
人のよさそうな笑顔で話しかけてきた。やっぱり目立つよね。観光地って訳でもなさそうだし。
「あ!第一村人はっけ~ん!おじさん、ちょっとインタビューしていい?」
「なんね、撮影しとると?それはちょっと恥ずかしかね」
「大丈夫大丈夫!モザイクかけるから!ねえねえ、最近この村でなんか、変な噂とか事件とかない?」
おお!あーちゃんが怒涛の勢いで質問を始めた!いきなり撮影された怒る人もいそうだけど、全く物怖じしないのは凄い。ナツさんは凄くオロオロしてるけど、まあいいか。
こういうパターンだと、最初は友好的だった村人が、村の事を詮索されると突然態度が冷たくなり・・・みたいなのが多いけど・・・。
「おお、アンタ達もゾンビの噂を聞いてやってきたとね?」
「え!?」
「ゾンビ!?ゾンビの事知ってるの!?おじさん!」
思いがけず突然出てきた「ゾンビ」の言葉にわたしは思わず体を乗り出す。
「あはは、やっぱり!最近若い人がやけにこの村に来ると思って話を聞いたら、なんかゾンビの噂が流行ってるって聞いたとよ。だからアンタ達もそうかと思ったけど、図星やったね!」
「それで、ゾンビは、ゾンビは本当にいるの?おじさん見たことある!?」
「いやいや、まさか。ゾンビなんておるワケなかたい。でもアンタ達も、自分で色々調べたかとやろ?人んちや畑に勝手に入ったりせんかったらよかよ」
「え!いいんですか!?」
「よかよか。せっかくこんな村に来てくれたっちゃけん、少しでも村を楽しんでいって欲しかって、骸神様が言っとるけんね」
「骸神様!?」
突然出てきた骸神の名前に、ちょっとびっくりしてしまった。
「神様が?言ってるんですか?」
「え?違う違う。骸神様っていうのは、この村の村長たい」
「ほら、さっき話してた、骸神家の事じゃないですか・・・?」
後ろからナツさんが小声でフォローしてくる。
「そうそう、よう知っとるね。あっちのほうに大きい家が見えるやろ?今もいると思うから、案内するよ。こんな村やから気の利いたグルメも無いけん、骸神のお家の人がおもてなししてくれとるとよ」
「へぇー。わざわざ村長さんの家の人が」
「面倒見のよか人やけんね」
「いいね~。では我々は、この村の長に話を聞きに行きます~!」
あーちゃんがスマホで撮影しながらナレーションを入れる。
おじさんの案内で村を歩いている間、何人かのおじさんおばさん達とすれ違った。皆人がよさそうに笑顔で挨拶したり「ゾンビ探しがんばるとよ」とか話しかけてくれる。とは言え、休日の昼間のわりには人は少ない。若い人も子供もいない。田舎はそんなものなのかもしれないけど。
あーちゃんはおじさんに色々インタビューをして、おじさんはそれに笑顔で答えながら歩いている。
「そういえば」
わたしはある事を思い出しておじさんに声をかけた。
「この村に入る直前に、着物の若い女の人を見たんですけど、おじさん知ってます?おかっぱ頭の」
「!!」
わたしの質問に、おじさんは先ほどまでの笑顔から一転、目を見開いた真顔になり、足を止めて私の方を見た。
「アンタ・・・見たのか、タマヨ様を・・・!?」
「た、タマヨ様・・・!?」
突然の事に、わたしは流石にちょっと気後れしてしまう。おじさんはしばらく考え込むように沈黙した後、また前を向いて歩きだした。
「おいの口からはなんも言えん・・・。骸神の家に着いたら、家の人に聞いてくれ・・・」
「え・・・あ・・・はい・・・」
「あ、あの・・・、私も骸神家の家に伝わる伝説について聞きたいんですけど・・・」
「それもおいからは言えん。全部家の人に聞くんだな」
「そうですか・・・はい・・・」
ナツさんの質問もかわされてしまった。
そうしてわたしの質問から一気に気まずい雰囲気になったまま、わたし達は村一番の大きな家、骸神家の前にたどり着いた。
家と言っても、先ずは大きな木造の門が待ち受けている。おじさんはその傍にあるインターホンを押して、中の人と小声で会話を交わすと、「ここで待ってな」と言って帰っていってしまった。
そしてすぐに門が内側から開く。中にいたのは和服の、中年の女性。派手なわけではないし、年相応の見た目ではあるが、とても美人だ。
「ようこそ、遠いところまでよく来てくれましたね。骸神松子です。せっかくですので、お茶でもお出ししましょう」
彼女は微笑みながら、しかしその目は少し冷たいものを感じたのは、気のせいだろうか。
そうしてわたし達三人は、骸神家に足を踏み入れた。




