第78話 骸城村へ
バス停を下りたのが午前10時ごろ。そこから骸城村へは山道を歩いて1時間ほどかかる計算。帰りのバスは17時にしかないので、それまでに戻らないと色々と面倒くさい。そういう訳であまりのんびりしていられないので、わたし達は取り合えず歩いている。歩きながら色々と話をした。
「配信系探偵なんてあるんですねー。『あーちゃん』で調べればいいんですか?」
「『あーちゃん』『探偵』で調べたら多分出てくるよ!まあ、色々変な噂とか都市伝説を知らべる様子を配信してるだけなんやけどね~。今は電波が圏外だから見れないけど、山下りたら見て見てよ!」
「すごーい。ナツさんはどんな探偵なんですか?」
「いえ・・・そんな、わたしは・・・話すほどの事では・・・」
「そっか!探偵さんだと、『守秘義務』ってやつもありますもんね」
「え?ええ・・・」
あーちゃんは気さくに話してくれるが、ナツさんは照れ屋さんのようだ。帽子を深くかぶり、眼鏡もかけているのでなかなか表情も読めない。まあ照れ屋さんにいきなり知らない人と沢山喋れって言っても大変だよね。
「ニニカちゃんは探偵でもないのにゾンビ探しに行くの?何で?肝試し?」
あーちゃんが私に質問をしてくる。まあ流石にアピリス先生の名前は出さない方がいいよね。
「わたしゾンビが大好きなんです!暇さえあればゾンビの噂があるところに行ってるんです!」
事実である。
「え~!ゾンビ推しの女子高生!?ウケる!おもしろ~!」
「いやぁ、それほどでも、エヘヘ」
あーちゃんみたいに綺麗な人に褒められると照れちゃう。
「ゾンビネタは今福岡で流行っとるもんね。配信でもやってる人増えてるから、ウチも最近チャレンジしてるんだ。でも結局『本物のゾンビを見つた』ってわけにはいかないからね~。結局普通の肝試し系動画と同じになっちゃう」
「あー、分かります!わたしもそう言う動画よく見るけど、期待して見ても、『怪しい影を撮影!』とか、そこ止まり。でもその影もやらせ臭かったり。あとは捨てられた食べ物が食べ荒らされてるのを映して『ゾンビの痕跡を見つけた!』って言ったり!いや、それカラスが荒らしただけだろ!みたいな。それなのに『ゾンビの真相に着実に近づいております!』って言ってるんですよね!」
「あはは、耳が痛かね・・・」
わたしがゾンビ系動画の不満を喋ると、あーちゃんは何故か微妙な表情をした。
しかし実際そうなのだ。配信者系の動画は視聴者数伸ばすために嘘、やらせ、おおげさが多い。ゾンビの噂で個人的に信憑性が高いのは、ふつうの一般人の目撃情報。夜道や山道で不意に会ってしまった系。大抵ビックリして動画撮る暇が無いから、証言情報だけになる。たまに慌てて動画を撮ってアップしてる人もいるが、バッチリ映ってることはまずないから、結局真偽不明になる。逆に配信者みたいに「撮るぞ!」って意気込んでいくと、やっぱりゾンビも出ていきたくないのだろう。
まあそもそも、誰が見ても間違いなくゾンビだと証明できる映像が撮れたとしたら、世間全体が大騒ぎになっちゃうわけで。ネットに上がっている映像系で絶対間違いなく本物!なんてものは今のところないのだ。
「ウチも本物のゾンビ撮影してドカンと視聴率稼ぎたいんだけどね~。あー、早く本物のゾンビに会えないかな~」
いるさ!ここに一人!わたしが本物のゾンビだ!
と言いたい衝動を抑えて、わたしは「ですね~わたしも会いたいです」と相槌を打った。
ちなみに今回行く骸城村も、特別珍しい噂があるわけではない。この村でゾンビを見た、という報告があるだけだ。ただ、最近その数がやけに多くなっていて、目に付いたのだ。
「ニニカちゃんもネットの噂見て来たんだよね~?でも骸城村のゾンビ目撃情報って~、内容自体は普通だけど、ちょっと不思議じゃない?」
「どういうことです?」
「だってあの村の事調べた~?山奥だし別に観光地でもないし、別の場所への通り道でもない。住んでる人くらいしか行かない場所だよ~?それなのにやけに目撃情報が多くない?」
「わたし達みたいに噂聞いてやって来たんじゃないの?」
「噂が広まってからはそうかも知れないけど、噂の出始めが不思議だなって~」
そういうものか。探偵というだけあって、色々考えてるんだなぁ。
「あとまあ、村の名前がすごかよね~。骸城村って」
「それは思った!なんであんな怖そうな名前なんでしょうね」
「骸城村の名前の由来ですか・・・!?」
突然、今まで静かだったナツさんが声を上げて会話に入ってきた。その目は爛々と輝いて見える。
「お・・・面白い名前ですよね・・・!あの村の名前の由来は戦国時代にまで遡るんですが、当時本州の方から流れ着いた武将崩れが、あの村の元の住人たちを襲い、全員殺して乗っ取って自分たちの村にしちゃったんです。周囲の領主が討伐しようとしたけど、逆に返り討ちにあって・・・。手が付けられないってことで放置されて、最終的にその村の支配者として定着したんです・・・!あまりの残虐無法ぶりで、周囲の村には鬼のおとぎ話として残るほどです。略奪した村人や返り討ちにした兵士たちの骸が山のように積み上がる村。ということで、その武将崩れは周りを脅すためにその村を『骸城村』、そして自分の家名を「骸神家」と名乗るようになったとか・・・」
すごい、今までの無口が嘘のように語りだした。ナツさんはこういう話が好きみたいだ。
「ええ・・・?そんな怖い名前を今も使ってると?その村・・・」
「そ、そうですね・・・。まああくまでおとぎ話ですし・・・。長い時が経って、一応普通の村になったみたいです・・・。ちなみに骸神家は昭和の頃には炭鉱経営でさらに金持ちになって、今も村の支配者的な立場にあっるみたいです」
「骸神家か。さっきのバスの運転手さんもなんか言ってたよね。『骸神家の呪い』とかなんとか」
「ええ・・・。権力者の一族ということで、昔から跡継ぎ争いなどで血なまぐさい話もあったみたいですし・・・。先祖の逸話も手伝って、あの家には人を不幸にする『呪い』の噂が付きまとっているんです・・・」
ナツさんの話し方、そして、山の中のひんやりとした空気と相まって、少しその話にゾットする・・・。その時・・・
「・・・きゃあ!!」
わたしは思わず声を上げた。道から少し外れた薄暗い山の木々の中、着物を来たおかっぱ髪の若い女性が立っていたのだ・・・!
「どうしたのニニカちゃん!?」
「あ、あれ・・・!」
わたしがその女性の方を指差す。だがその時すでに、その場所には誰もいなかった。周りを見渡しても誰もいない。
「え・・・あれ・・・?」
見間違い?いや、そんなはずは・・・。
「どうしたんですか・・・ニニカさん・・・?もうすぐ村に着きますよ・・・?」
ナツさんが心配そうにそう聞いてくる。彼女が指差す先には木々が開け薄暗かった道に明かりが差しているのが見える。確かに、その先に骸城村が待っているのが予感された。




