第69話 ゾンビを甲子園に連れてって(後編)
「俺には小学校頃から一緒に野球をやっていた親友がいるんだ」
野球ゾンビは名前を鷹さんというらしい。現在大学生。彼は、もうしばらくゾンビでいさせて欲しいというその理由は語りだした。
「小さい頃から俺たちは最高のコンビだった。親友の名前は大洋。大洋が投げて、俺が打つ。そうやって中学まで一緒にやってきた。だけど高校に入る前に、大洋は海外に引っ越してしまった。引っ越す前に俺達は約束したんだ。『お互い野球を続けて、また一緒にチームを組もう』って」
なるほど、なかなか美しい青春話だ。
「でも俺は高校で挫折して・・・野球から離れていたんだ。大洋とはネットでは時々メッセージをやり取りしていたけど、向こうは野球続けてるみたいで、俺はなんとなく言い出せなくて、俺も野球続けてると嘘をついていた」
「おいおい、今時そんな、昭和の文通みたいな嘘が通用するのか・・・!?」
「いやいや、ジョージさん、むしろ今はSNSとかでみんな嘘つきまくりだから、意外とバレないかもですよ?」
「ああ、意外とバレなかった。まあそんな毎日やり取りしてるわけでもないからか、そもそも大洋に疑う気が無いからか、騙したまま今まで来てしまったんだ。さすがに甲子園に行ったとかまでは嘘ついてないけど、ずっと野球頑張ってることになってるんだ・・・」
「ふむふむ、そのパターンだと、その友人が日本に戻って来ることになったんですね」
「ああ、そうなんだよ!」
「やっぱり」
「王道パターンですね」
「ベタベタだけど、逆にそうじゃ無いとつまらないよな」
「こういう話ってよくあるの!?日本のカルチャーはまだまだよく分からないですね・・・」
アピリス先生だけが取り残されている。先生にはこういう日本のあるあるはまだ分かりにくいのか。
「大洋が手術を受けるために日本に帰って来るんだ。」
「え、まさか難病を患って・・・?」
「いや、大洋は健康なんだけど、親戚の人に臓器移植するためなんだって。手術自体はそんなに危険という訳じゃないけど、絶対とは言えないし、やっぱり怖いって俺にも相談してきて・・・。それで、手術前に俺と野球勝負したいって言ってきたんだ。俺と勝負したら勇気を貰えるからって!」
「そうか・・・自分の病気じゃなくても、臓器移植なんて怖いもんな。勇気を出すために親友と野球勝負なんて、なんて美しい友情・・・!」
うわっジョージさんが泣き出した。おじさんはこういう話に弱いのか。
「でも野球やめてたんでしょ?ヤバいじゃん」
「そうなんだよ!このまま大洋と野球勝負したらあいつをガッカリさせちまう。そしたら手術ももっと怖くなっちゃうだろ?何とかしようと思って、最近日が暮れるまで練習してたら・・・」
「ゾンビになっちゃったと」
「そう!でもゾンビになったら身体能力上がってることに気づいて、こうなったらこの力で大洋との勝負をしよう!って思ったんだ。でもバッティング練習は、ゾンビだから人に頼むわけにもいかなくて。しょうがないから正体隠して夜中に野球練習してる人に勝負を仕掛けてたんだよ」
なるほど。・・・なるほどかなぁ?肌を隠してバッティングセンター行くのじゃダメかなぁ?まあいいや、なるほどと言っておこう。
「そういう訳で、あとちょっとだけ、ゾンビのままでいさせてくれ!ゾンビじゃないと大洋と満足いく勝負が出来ないんだ!三日後の勝負が終わったらちゃんと治療するから!!」
「いや、まあゾンビを治療した後でも、一時的にゾンビになれるんだけどね。俺みたいに」
そう言ってジョージさんは薬袋をつけてゾンビ化を解除すると、鷹さんは驚いた後に笑顔になった。
「え!凄ぇ!じゃあ治療してもいいじゃん!」
「いや、それはいいんだけど、お前はそれでいいのか?ゾンビの力なんかで親友と勝負して。親友は、お前から勇気をもらいたいんだろ?」
「・・・だって、しょうがないだろ!大洋をガッカリさせるわけにはいかないんだから・・・!」
「え、なんでゾンビで勝負したらダメなんですか?ジョージさんもゾンビの力でバイトしたりしてますよね?」
「ニニカちゃんちょっと黙っててくれないか」
「とにかく、治療した後どうするかは俺の勝手だろ!?俺はゾンビの力で大洋と勝負するんだ!!!」
◆
三日後、夜のグラウンドに、人影が二つ。
バッターボックスには鷹さん。ヘルメットをかぶり、その表情はこちらからは読み取れない。一方のピッチャーマウンドにはその親友の、大洋さん。2人の間にもはや言葉はない。ただ、目の前の勝負に集中しているのが分かる。
大洋さんは右手の球を強く握り、大きく振りかぶる。ぐっと力を溜め、そして力が十分に満ちた時、一気にその球を投げ放った!
綺麗で力強い投球だ。だけど鷹さんは慌てることなく、しっかりと構えていたバットを淀みなく振り抜ける!!!
カキィイイイイン!!!
綺麗な音が夜空に響く。
勝負は決まった。文句なしだ。大洋さんは「あー、くそ!」と悔しがりながら、しかし不思議とその顔には爽やかな笑顔も浮かんでいた。
「負けたー!あんなにキレイに打たれるなんて、やっぱ鷹はすげぇな!」
大洋さんはそう言いながら鷹さんに歩み寄る。鷹さんは、ヘルメットを脱ぐ。街灯に照らされたその顔は、健康的に日焼けした肌に、先ほどの勝負への高揚か、少し上気して赤みもさしている。鷹さんは、ゾンビ化せずに勝負していたのだ。
「へっへっへ、俺の勝ち!まあ、大洋の球も相変わらず凄かったぜ。でも勝ちは勝ちだからな!」
「こいつ!いい気になりやがってー。それならもうちょっと勝負を続けようぜ!」
「おう、いくらでも付き合うぜ!!それに・・・手術が終わったらまた野球やろうぜ!」
「おう!早く退院して、今度は昔の仲間も呼んで試合しよう!」
鷹さんと大洋さんは、お互いに肩を叩き笑い合い、再び野球に没頭していった。
◆
「結局ゾンビの力使わなかったんですねー。よく打てましたね」
「ふっふっふ、この三日間、俺がつきっきりで特訓したからな」
わたし達は鷹さん達から離れた所に停めた車の中から様子を見ていた。ジョージさんが何故か後方指導者面で嬉しそうに腕組みしている。
ゾンビの力を使わなかったとは言うが、特訓にはゾンビの力を使っている。つまり、ジョージさんがゾンビ化して投げた球を、鷹さんはゾンビ化せずに自分の力だけで打つ特訓をしていたのだ。
「あーあ、ジャパニーズゾンビ対アメリカン野球の対決見たかったのにな」
「ニニカちゃん、今回のエピソードは『ゾンビもの』じゃなくて、『青春スポコンもの』だったというわけさ」
「ジョージ、何言ってるか分かりません」
今回最初からノリに乗り切れていなかったアピリス先生が冷たく言い放つ。その後私たちを車を出してその場を離れる。
鷹さんは遠くから、私たちの車に小さく会釈したあと、また大洋さんと野球を続けるのだった。




