第64話 トカゲさんをどうしよう
細胞異常再生症の巨大ザメを見事釣り上げ、そして治療を施した。そして判明したのは、巨大ザメは巨大ザメではなかったということだ。
「まさかこんなに小さなサメだったとは・・・」
先ほどまでは3メートル超えの巨体だったが今は50センチメートルくらいになっている。以前も、巨人のように体が大きくなる患者がいたが、それと似たような症状なのだろうか。
色々気になるところはあるが、先ほどの巨大ザメ一本釣りなどなど目立つ行動をしたこともあり、人が集まってきそうだったので、取り合えず急いでこの場を離れることにした。レイ刑事が持っていたクーラーボックスに小さくなったサメを入れて、私とレイ刑事の車でそれぞれ診療所へと戻るのだった。
◆
「いくらゾンビになるのが楽しいって言ってもね、多少は困る事はあるじゃないですか。やっぱり一番は『匂い』ですかね。肌の見た目とかは服で隠せばいいけど、匂いだけは隠しようがないですからね。いや、わたしはゾンビの匂いは好きですよ?でも事情を知らない人は気になる匂いみたいで・・・。後は肌がちょっとベタベタすることですかね。あ、でもトカゲさんの肌は爬虫類系だからちょっと違うのかな?そう言えばトカゲさんってゾンビの時はずっとトカゲ男なんですか?それとも、この前の巨人ゾンビみたいに、普段は普通のゾンビで、自分の好きな時にトカゲ男になれるの?いいなぁ、私もちょっと変わったゾンビにもなってみたいんですよね。いや、普通のゾンビも好きなんですが、色んなゾンビを体験してみたいって言うか・・・。特にシッッポが気になりますね!動かしてる感覚ってどんな風なんですか?耳たぶを動かせる人と同じ感じ?」
「ニニカさん何やってるんですか?」
私たちが診療所に帰って来ると、ニニカさんがずっと喋り続けていた。終わる気配が無いので声をかけると、ニニカさんは顔を輝かせてこちらに近づいてきた。
「アピリス先生!ゾンビザメ見せて!ゾンビザメ!!あ、レイ刑事さん、そのクーラーボックスですね!見せてください!うわぁ!ほんとうに小さくなってる!いいなー、釣り上げるところ見てみたかったのに!」
「あのー、それで、さっきは誰と喋ってたんですか?」
「え、そりゃトカゲさんとですよ」
「起きてるんですか!?」
「ちょっと前に起きました」
私は慌ててトカゲさんを閉じ込めている部屋を見に行った。のぞき窓から見ると、確かにトカゲさんは起きているようだ。その顔が力なくグッタリとしているのは、睡眠薬が残っているからでも、相変わらず縛られているからでもなさそうだ。
「ずっと一方的に話しかけれられて、ウンザリだ・・・。もう勘弁してくれ・・・」
ニニカさんのマシンガントークに精神がやられたらしい。
「色々情報を引き出そうとしてたんですけどね。上手くいかなくて」
私の見ていた限り、相手に口を挟ませる余地は殆どなかったように思うが。まあいいや。
「この人が例の、病院で暴れていたってゾンビですか!」
クーラーボックスをニニカさんに渡したレイ刑事がトカゲさんの部屋を、覗き窓から見る。
「なんだ?てめぇは・・・?」
トカゲさんはグッタリしながらも、疑問を口にする。
「ボクは刑事だ!」
「嘘つけ、どう見てもタダの釣りの兄ちゃんじゃねぇか」
そうだ、今はレイ刑事は完全に釣り人の恰好をしているのだった。でもすぐさま警察手帳を出してトカゲさんを納得させる。だが、それが分かるとトカゲさんはむしろ元気を取り戻してニヤニヤしだした。
「刑事さん!助けてくださいよぉ。俺は何もしてないのに、この変な女たちにこんな所に閉じ込められてるんですよ。これって拉致監禁ってやつですよねぇ?」
「・・・こんな感じなんですよ」
「年端も行かぬ子供を傷つけたくせに、反省の色も見えないなんて!許せない!!」
レイ刑事には事前に状況を伝えておいたが、私たちを信じてくれて助かった。まあトカゲさんの物言いも、本気で騙してやろうというより、バレてるのを承知で嫌がらせが目的という感じではあった。
「ダンテ・クリストフの情報は聞き出したいし、このまま逃がすのは危険だし、かといって反抗的で、ここでずっと閉じ込めておくわけにはいかないし、困っているんですよ」
「なるほどね。大体わかりました。でもそれなら、病院で事件が起きた時にすぐ呼んでくれたら良かったのに」
「う・・・すいません・・・」
言えない、レイ刑事が何となく頼りにならないから呼ばなかったとは言えない・・・。
「という訳で、このトカゲさんを危険が無いように拘留しておく方法無いですかね」
「そうですね。じゃあボクの上司の暮井先輩をここに呼んで相談してみましょう」
「えっ」
「え?」
「いや、大丈夫かなって思って・・・。ほら、ええと・・・」
レイ刑事に、自分が無免許医師、つまり違法な医師という事を言っていたっけ、どうだったっけ。思い出せなくて言い淀む・・・。
「大丈夫ですよ!暮井先輩はゾンビザメ捕獲の指令をボクにした人ですよ。ゾンビに理解がありますから!!」
ゾンビに理解があるとは一体。
「まあしょうがないですよ、センセイ。レイ刑事と知り合った時点で、いつかは警察と何らかの関係を持たなきゃいけない事は分かってたんだし・・・」
ジョージさんはその言葉に続いて、「いざとなったら別の街に逃げましょう」と小声で言った。
ニニカさんは何故かワクワクしている。
「ゾンビ事件についに警察組織の介入が!?仲間になるのか、それとも敵対するのか!?どっちも王道ですね!」
そんなニニカさんに、メアリさんは「私の刀って銃刀法違反になるんですかね?」と呑気に話しかけている。
まあしょうがない・・・。ジョージの言う通り、いつかはこういう日が来るのだ。私は覚悟を決めて、レイ刑事に暮井刑事を呼んでもらう事にした。




