第63話 VS!シャークゾンビ!
福岡県の北東側の半島の先にあるその小島は周囲を玄界灘に囲まれている。玄界灘は良質な漁場としても有名だ。その島へは陸続きで車で行けるので、釣りに興じる人も多い。
今は平日の昼間ということで、その防波堤には人はまばらである。天気もよく、通常ならば、のどかで静かな海の音が心を落ち着かせてくれるはずだ。だが今日は様子が違う。
海そのものは静かである。いや、静かすぎる。いつもなら豊富に泳いでいる魚たちの気配が無い。その代わり、時折水面に不穏な影が見え隠れする。その影は、遠めに見ても人間よりも大きく、3メートルほどはあるようだ。決して見間違いではない。なぜなら、水面から鋭くそり立った、三角形の大きなヒレが、影と共に現れるからだ。そして今、その影は一度水底へと姿を消した後・・・一気に水面へと現れた!
巨大なサメが水中から飛び出し、空中に大きな弧を描く。やはりデカい!そして・・・その全身は青緑色に変色していた。
「キャーーーーー!」
少女の叫びがこだまする。ちなみに悲鳴ではない。
「すごーい!!ゾンビシャークだあーーー!!!」
ニニカさんが異様なテンションで大喜びしている。
「ゾンビでサメなんてそんなに嬉しい組み合わせなの?」
「え!?ご存じない!?あのメイ作、ゾンビシャークを」
「『名』なの?『迷』なの?どっちなの!?」
ニニカさんの相手はメアリさんに任せよう。私たちはレイ刑事の連絡を受けて急いで車を飛ばしてここにやってきた。ジョージはトカゲさんと一緒に留守番だ。トカゲさんには睡眠薬を打って眠ってもらっているが、監視も無く放っておくのは心配だったので。本当にサメが相手ならジョージも来てほしかったが、ニニカさんが「サメのゾンビ見たい見たい見たい!!」と駄々をこねるので、しょうがなかった。
そうしてこの場に到着した私たちを迎えてくれたレイ刑事は、完全に釣り人の恰好をしていた。オーバーオールと長靴が合体したような服を着て、帽子とサングラス、あと釣り竿とタモ網とクーラーボックス。釣り人としては完璧ないで立ちだが、あの3メートル超えのサメを釣り上げるには、普通の釣り人装備すぎる・・・。
「来てくれたんですね!良かったー!!」
「本当にいたんですね。その・・・細胞異常再生症のサメ」
「ゾンビサメですね!ボクの上司の暮井先輩の情報はやっぱり確かでしたね!今まで色んな釣り場を探し回っていたんですが、ついに見つけたんですよ!」
レイさんの話によると、ここ最近、この海域の魚がめっきり減っているらしい。あの巨大サメが食べてしまっているという事か。
それにしても・・・。
「サメまでゾンビにするなんて、ダンテ・クリストフはバカなんですかね!?」
メアリさんが私の心境を代弁してくれた。サメに蘇生術を施したということになるが、わざわざサメに!?一回サメを釣り上げてから瀕死にして、蘇生術を施して、また海に逃がしたの?なんでそんな事を!?
「いや、ゾンビ好きとしてはサメをゾンビにしたい気持ちは分かる。むしろ当然。必然!」
ニニカさんはそう言うが、彼女の意見を参考にしてもいいものか。
「とにかく、幸いまだ人的被害は出てないですが、一刻も早く何とかしないと!でも頑張って釣りあげようとしても全然上手くいかなくて。そんなときにアピリス先生から電話があって本当に助かりましたよ!」
「上司の暮井先輩という人には応援求めなかったんですか?」
「連絡したんですけど『あーはいはい、忙しいからそっちで頑張って』と、ボクを信頼して任せてくれました!」
報告を信じてもらえてないんだな。
「でもどうしましょう。さすがにあの巨大ザメを普通の釣り竿で吊り上げるのは無理ですよね?」
「ボクもそれが悩みで・・・。地元の漁師にでも応援を求めてみますか・・・」
私とレイ刑事が頭を悩ませていると・・・
「大丈夫!わたしにいい考えがあります!!」
ニニカさんが自信満々に駆け寄ってきた。メアリさんを引き連れて。
◆
「うぉりゃあああ!!」
メアリさんのなりふり構わぬ掛け声が響き渡る。
メアリさんは今、赤い髪になり、赤い刀を握りしめ、その刀の先からは赤い糸が海に向かって真っすぐと伸びている。その先には巨大ザメ。糸が巻き付いた巨大ザメを、刀を握って引っ張るメアリさんとニニカさん。対する巨大ザメは糸から逃れようと、時折水上にジャンプしたり、はたまた海中深くに潜ろうとしたり、大暴れだ。
「あああ!ダメです!一旦解除!」
このままでは逆に海中に引きずり込まれてしまうと、メアリさんは糸を引っ張るのをやめた。糸を解除して防波堤のコンクリートの地面に倒れこむ。
「やっぱり無理ですよ!そもそもデカいし!相手もゾンビだから力も強いし!」
「でもこのチャンスを逃すと、どこかに逃げて行っちゃうかもしれませんよ。そしたら見つけるだけで大変です」
巨大ザメは、今は私たちへの怒りがあるのか、目の前の海から離れず、こちらの様子を伺っているように見える。防波堤はテトラポッドが並んでいるので、ここまで飛びこんでくる様子はまだないが。
「やっぱりジョージさんが必要なのでは!?」
「でもジョージさんは今トカゲゾンビを見張っておかなきゃいけないでしょ?」
「うーん・・・それじゃあ・・・・」
私とメアリさんは、2人揃ってニニカさんを見つめる。ニニカさんは、この展開を薄々予感していたらしく、「やば・・・」という顔をした。
◆
結論から言うと、ニニカさんとジョージを交換した。私の車をかっ飛ばしてニニカさんを診療所に運んで、代わりにジョージを連れてきた。ニニカさんは激しく抵抗した。「ゾンビシャークを捕まえるところを見たい!!」ということだが、トカゲさんを放っておくことは出来ないと説得した。そういう道理は流石に理解してくれるのは、ニニカさんのいい所だ。その代わり、ニニカさんは「許さん・・・許さんぞ、ダンテ・クリストフ・・・・!!」と、未だかつてない怒りを露わにしていた。
「うぉおおおおお!!!」
メアリさんが再び吠える!糸を巧みに操り、水面に現れた巨大ザメに巻き付ける。次はメアリさんの刀を一緒に握っているジョージの出番だ。彼の仕事は、その刀を力いっぱい引き上げる、事だけではない。
「圧縮電気、最大開放!!!」
病院の事件の時にもやった、メアリさんの糸を伝って電撃を食らわせる作戦だ。これで巨大ザメに直接ショックを与えられる!弱った所を釣りあげる作戦だ!!
「うおりゃあああ!」
「圧縮電気連続解放!!!あああぁ、きついよう!」
電撃一発では、少し怯むがすぐに元気になってしまうようで、メアリさんとジョージは力いっぱい引き上げながら、タイミングを見て電撃を食らわせ、少しずつ巨大ザメを海岸線に引っ張っていく。さすがに2人ともきつそうだが、頑張ってもらうしかない。
そして・・・・
「今だ!!釣りあげますよ!!」
「どっせーーーーい!!」
最後の電撃を食らわせ、巨大ザメが力を失ったタイミングで2人揃って一気に刀を振り上げる。巨大ザメは水面から引き揚げられ、空中に弧を描いて、防波堤の上へと釣り上げられた!
「なんか、ゲーセンにある釣りのゲームみたいですねぇ」
やけに呑気なレイ刑事の独り言を聞きながら、私は巨大ザメの心臓部分に治療針を撃ち込んだ。
巨大ザメ捕獲作戦、完了!!




