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ゾンビは治せる病気です~Dr.アピリス診療所~  作者: 長多良
第7章 ゾンビにまつわるエトセトラ その2
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第62話 後始末は終わらない

「わたしたちは忘れていた・・・。病院での事件の後、大きな問題が残されていたことを・・・」

「いや、忘れては無いんですけど。これは困りましたね・・・・」


 ニニカさんのおふざけを軽く流して、私は目の前の問題に改めて向き合い、ため息をつく。場所は私たちの診療所。今目の前にいるのは、縛られた状態で椅子に座り、挑発的な態度でこちらを見る一人の男だった。


 私の隣にいるジョージも、困った顔をして私に聞いてくる。


「このトカゲ男ゾンビ、捕まえたは良いけど、どうしましょうかね、センセイ・・・」

「どうしよう・・・」


 ゾンビじゃない!とツッコミを入れる心の余裕は、今の私にはなかった。


 ◆


 少し時を遡ろう。


 病院から自分たちの診療所に帰ってきた私たちは、トランクを開けて中に隠していた男を外に出した。もちろん縛り上げたままだ。病院で起きた事件の犯人。ヒナコちゃんを傷つけた張本人だ。本来なら警察に引き渡すべきかもしれないが、彼が細胞異常再生症の患者であるため、隠して連れてきた。


 ちゃんとした治療を行うため。そして、ダンテ・クリストフの情報を引き出すためだ。


 それに、警察に渡しても、また変身して暴れられたら逃げられそうだし、警察に被害が出るかもしれない。そういった諸々事情で彼はここにいるわけだ。


 病院で戦っていた時はトカゲのような姿だったが、今は薬の影響で症状は落ち着いている。ツーブロックの茶髪。中肉中背にジョギングをする人が来ているような、動きやすい運動服を着ている。首筋にタトゥーが見える。


 目が覚める前に治療を完了させ、薬袋を彼の体に括りつける。これでしばらくは副作用でトカゲのような姿になれないはずだ。だが念のため再び縄で縛り上げる。そうこうしていると、ようやく彼は目を覚ました。意識がハッキリするまでぼうっとしていたが、少ししたら自分の置かれている状況を理解したらしい。


「チッ・・・!『銀のアピリス』か。クソ!この縄を解け!!ふざけんな!!」


 ジタバタともがくが、縄は外れない。


「あれ?くそ、ゾンビになれない!!」

「無駄ですよ。あなたは治療は完了してます」

「トカゲ男ゾンビにはなれないから、無駄な抵抗はやめるのね!」


 私の言葉にメアリさんが続ける。


「ああん?てめぇは・・・?」

「分からない?蘭葉らんばメアリ。さっきまで貴様と戦っていた赤髪のゾンビよ!」

「あ?ああ・・・テメェか!」


 メアリさんは今は赤髪でも長髪でもないので、男が分からなくても仕方ないだろう。だが名前を聞いてようやく理解したようだ。


「答えなさい!ルイは何やってるの!?何でお前らの仲間に!?ダンテ・クリストフ達は何をしようとしてるのよ!」

「ちょっと、メアリさん落ち着いて・・・!」


 私はそう言うが、聞きたいことはメアリさんと同じだ。単に彼女に落ち着いてほしいだけだ。だが、男は挑発のつもりか、私の言葉に便乗してきた。


「そうだぜ、落ち着けよ。ルイに会ったって事は、本人から聞いてんじゃねぇのか?ルイは自分を殺そうとしたテメェが憎くて憎くてたまらないってよ!だから俺たちの仲間になったんだ!」

「コイツ・・・!!いい加減にしなさいよ!ルイが生きてたからって、私たちを殺してゾンビにしたお前達を許したりしないんだから!!」

「へぇ、じゃあどうするんだ?言っておくが俺はダンテさん達、仲間の事は喋らねぇぜ!拷問でもするかぁ?正義の味方のアピリス先生はそんな事できるかなぁ?」

「この野郎・・・!」


 煽り散らかす男に、メアリさんも怒りを抑えきれないようだ。気持ちは分かるが、これじゃ話が進まない。メアリさんを同席させたのは失敗だったかも知れない。それにしても、この男も縛られた状態でよくここまで強気に出れるものだ。


「拷問がダメなら自白剤とか使えないんですか?」


 ニニカさんが空気を読まない呑気な口調で聞いてくる。


「医者を何だと思ってるんですか。そんなのないですよ」

「じゃあ、精神的な拷問で。世界で最も退屈でつまらなすぎて、逆にカルト的な伝説になったゾンビ映画をエンドレスで見せ続けるってのはどうですか?」

「逆にイヤすぎる。不採用」


 このままだと話が進まない。無理やり話を戻そう。


「とりあえず名前教えてもらっていいですか?喋りにくいし・・・」

「バカか?言うワケないだろ。俺の身元でも調べるつもりか?」

「うーん・・・」


 ちなみに身分が分かる物が無いか、彼が寝てる間に調べたけど、何も持っていなかった。


「私はあなたの味方ですよ。あなたの症状は危険なんです。完全に治すことは出来ないけど、定期的に治療しておかないと、何が起こるか分からないんです。ダンテの手伝いなんてやめて、元の生活に戻りましょう」

「ハッ!偉そうに。こんな凄い力を手放すわけないだろ!元の生活に戻る!?元の生活がゾンビより幸せだった思ってるんなら、頭がお花畑だな!!」


 見かねたジョージが口を出してくる。


「そうは言ってもどうする気だ?ダンテ達の情報を吐かない限り、お前はずっとここで閉じ込められるんだぞ」

「へぇ、そうかい。そっちこそどうするんだ?分かってるのか?俺を閉じ込めるって事は、当然メシも出してくれるんだよな?それに俺をずっと見張っておくのか?俺は薬が切れたらこんな建物の壁くらいなら壊しちゃうかもしれないぜ!?おっと、そう言えば小便をしたくなってきたな!トイレに行かせてくれよ!まさかここで垂れ流せって言うんじゃないだろうな!?」


 男が煽るようにまくし立てる。この男が捕まっているのにやけに強気な理由が分かった。確かに、私たちに、反抗的な相手をずっと捕らえておくことなんてできるのか・・・?


「やっぱりコイツ、腕の一本ぐらい斬り落とした方がいいんじゃないですか?どうせ生えてくるんだし」

「見るのが苦痛なゾンビ映画といえば、先ず有名なのは1981年に公開された、ナチスのゾンビからお宝を奪うという・・・」

「メアリさん、ニニカさん、取り合えずその話はいいから」

「おい、トイレに連れて行ってくれよ~」

「・・・ジョージさん、お願いします・・・・」

「はいよ~・・・」


 ジョージに連れられ、監視されながら彼はトイレに向かった。


 ◆


 という訳で私たちは今凄く困っている。例の男(仕方が無いのでトカゲさんと呼ぶが)は取り合えず診療所の一室、外から鍵のかかる頑丈な部屋に入ってもらった。この診療所を作る時に、暴れる患者を一時的に入れる事があるかも、と思って作った部屋だが、長期間居座る想定はしていなかった。まさか治療を拒否する患者がいるなんて・・・。以前、オカマバーのリュウさんも、細胞異常再生症の妹さんを部屋に閉じ込めていたが、彼女は意識が朦朧としていたので、逆に閉じ込めても騒がれることは無かった。トカゲさんの場合は意識はハッキリしてるのがむしろ厄介になるとは。重症なのに表向き元気で動き回る患者の方が厄介だ、というのは聞いたことがあるが、これもそういう事なんだろうか・・・。


 トカゲさんへの説得は続けているが、全然喋ってくれない。代わりに、やれ飯が少ないだの暇だの、文句ばかりを喚いてくるので煩くて仕方ない。捕まったなら嫌がらせに徹しようという事か。定期的に薬を投与しないと症状は再発して、力づくで逃げられかねないのも問題だ。長時間目を離すこともできない。


「なんか・・・大変そうですね」


 たまたま定期検診に来ていたイトさんが、奥の部屋から時々聞こえるドスの聞いた文句に震え上がっている。イトさんは、メアリさんと初めて出会った時にメアリさんに命を狙われていたサラリーマンの男性だ。イトさんのように、善良な患者さんが怖がってしまうのも問題だった。


「何か捕まえておくのにいい場所ないですかねぇ」


 ニニカさんがそうぼやくと、イトさんは少し考えてから、言いにくそうに口を開いた。



「あの、普通に警察に引き渡した方がいいんじゃないですか?今の状況って普通にまずくないですか?拉致監禁というか・・・」

「まあそうなんですけど・・・。警察の人にも危険が及ぶし、私たちの秘密がバレるのも大変そうだし・・・」

「でも、これから同じような悪いゾンビを捕まえたら、どんどん増えていくんですよね?一人でも大変なのに、無理じゃないですか?どうせいつか警察に話さなきゃいけない時が来るんだし・・・」

「うーん・・・」


 言いたいことは分かるけど、私たちが警察への相談に踏み出せないのは他にも理由がある。警察の知り合いというと小南しょうなんレイさんしかいないのだが、彼に相談して果たして物事が上手くいくのだろうか・・・。


「まあでも確かに、取り合えず小南しょうなんレイに相談するしかないんじゃないか。それで上手くいくかは別にして」

「そうですね・・・」


 そうと決まれば善は急げ。レイさんに電話をかける。しかし出ない。その後何回かかけなおしたら、ようやく出た。


「あ、もしもし。アピリスです。・・・え?今忙しい?・・・・え!?助けて欲しい!?・・・・・・・えぇ!?サメのゾンビが出た!!!?」

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