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ゾンビは治せる病気です~Dr.アピリス診療所~  作者: 長多良
第6章 ゾンビ病棟24時
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第58話 決着!トカゲ男ゾンビ!

 わたしは旧病棟の方に駆け出すと、わざとトカゲ男ゾンビに聞こえるように大声を張り上げた。


「この人がー!旧病棟でー!大勢のゾンビがいたのを見たって!!私行ってきますーーー!!」


 急に指さされた財前マシロは何のことか分からず驚いていたが、まあそっちは今は無視。それよりトカゲ男ゾンビの反応だ。奴は・・・。


「ちぃっ!!貴様ら、アレを見たのか!!!面倒くせぇなああ!!!」


 めちゃくちゃ血相を変えて(ゾンビだから本当は変わってないけど)工場の壁を跳び伝って私の方に迫ってきた。


 やっぱりそうだ!あいつは、旧病院の地下で見たゾンビの大群に気づいてほしくないんだ!だからわたしがそっちに向かえば、わたしを追って来るしかないんだ!!奴が地面に降りてきて、向かってくる方向さえ絞り込めれば――――!!


「ぐぅ!!」


 事前にメアリさんが張り巡らせた糸がトカゲ男ゾンビに絡みつき、その行く手を阻む。


「こんなもの、俺に効かないってまだ分かっていないのか!!」


 トカゲ男ゾンビはこれまでと同様に、爪とシッポの力で振りほどこうとする。だが―――。


「な、何!?」


 上手くいかずにもがく。


「やっぱり、再生直後だと腕もシッポも力が弱いみたいね!!」

「くそ!なめるなぁ!!」


 それでも力任せに糸をほどこうとする。だけど、ちょっとの時間だけでも稼げればそれでいいんだ。


「ジョージさん!」

「任せとけ!」


 ジョージさんはメアリさんのすぐ傍に立ち、その体にメアリさんの糸を巻き付けていた。トカゲ男ゾンビに巻き付いている糸は、今ジョージさんの体と繋がっている。それに気付いたトカゲ男ゾンビは、こちらの狙いにもピンと来たようだ。さすがダンテ・クリストフの手下。ジョージさんの情報もバッチリみたい。


「まさか!?」

「そうよ!糸を伝って電気でビリビリ作戦よ!!」

「髪の毛は電気を通さないぞ!?」

「え!?」


 そうなの!?トカゲ男ゾンビは。してやったり!と大きく裂けた口でニヤリと笑って、糸の拘束を一気に解こうとする。そんな見た目でなんでそんな豆知識知ってるの!?見た目は関係ないけどさぁ!


 だけど、トカゲ男ゾンビはまたすぐにその動きを止めた。


「あ・・・」


 自分にまきつけられた糸を見つめる。それにつられて私も目を凝らしてその糸を見る。と、トカゲ男ゾンビとジョージさんを繋いでいる糸は、水が滴っているように見える。


「まさか・・・!!」


 トカゲ男ゾンビがジョージさん達の方を振り返るとほぼ同時に、ジョージさんが吠える。


「圧縮電気、解放!!」


 バリバリバチバチ!!!


 激しい音と共に糸が閃光を放ち、トカゲ男ゾンビはまさしく電気ショックを受けたようにビクンと跳ね上がり動きを止める。そこに一気に駆け寄ったアピリス先生が、無防備な心臓部分にニードルガンを数発、正確に撃ち込んだ。


「ち・・・チクショウ・・・・」


 トカゲ男ゾンビは最後まで悪態を吐きながら、白目をむいて倒れこんだ。程なくして、トカゲのようだったその容姿は、ゾンビの症状が治まっていった。あれほど大きなシッポも、ボロボロと崩れ去って跡形もなくなってしまったのだから、やっぱりゾンビって不思議で凄い!!


「ふぅ・・・応急処置ですが、先ずは完了ですね・・・」

「やったー!!でもアピリス先生、髪の毛は電気通さないってこの男が言ってたけど、本当ですか?どうやって電気通したんですか?」

「ああ、それはですね・・・。メアリさんの髪の毛を数本束にして編み込んだ糸にして、私の手持ちの生理食塩水を毛細管現象で纏わせて電気を通したんですよ」


 うーん、全然わからん。


 ◆


「とりあえず、これでよしっと」


 元トカゲ男ゾンビは、未だに気を失っている。それをジョージさんが持って来ていたロープで縛り上げ、ゾンビ化を防ぐ薬袋を体に括りつける。これでゾンビになって暴れ出すことは無いはずだ。


「それでコイツ、どうします?」


 どうするもこうするも無いのだが、わたしが一応そう言葉にしたのは、メアリさんがいたからだ。今も物凄い憎々しい気持ちを、何とか抑えて、でも目つきだけは押さえきれない、そんな表情でトカゲ男ゾンビを見ている。


 だけどわたしの質問の意図を感じ取ったのか、メアリさんは頭を振って静かに告げる。


「別に、この状況になってまで、こいつをこの場で殺そうなんて言わないですよ。無力化できたんですから、今はいいじゃないですか」


 そうは言うけど言葉は刺々しいし、痛々しくもある。このトカゲ男ゾンビは、メアリさんと友達、ルイさんとやらを殺してゾンビ化した張本人だという。その結果、メアリさんが自分の手で親友のルイさん達の首を斬って殺すはめになったということもあり、ダンテ・クリストフと並んで憎くて憎くてしょうがない対象だろう。


「おい、そろそろ色々説明しろ!それになんだ、殺すとか、物騒な話もして!」


 ああ、財前マシロが我慢できずに口を挟んできた。色々解説してあげたい気持ちもあるけど、今は面倒だなー。しょうがない、無理やり話題を変えるか。


「そんな事より!早く旧病棟にいたゾンビ達を見に行かないと!このトカゲ男ゾンビがあれを隠そうとしていたという事は、何か事情があるんですよ!!さあ、早く!行きましょう!」

「え、コイツはどうしようか」

「ジョージさんが担いで持って行きましょう!」

「俺かぁ・・・」


 ジョージさんはゲンナリした顔をしつつ、気絶したトカゲ男ゾンビを担ぎ上げた。だってしょうがないじゃん。置いていくわけにもいかないし。


 ◆


 ペンライトの明かりを頼りに、旧病棟の中を駆ける。ゾンビの集団が閉じ込められていた場所は、先ほど一度見つけたとは言え、勝手の知らない建物の中だ。少し迷って時間がかかってしまった。その間、財前マシロがうるさかった。


「おい、いい加減教えろ!なんなんだゾンビって!」

「ゾンビはゾンビですよ、さっき見たでしょう」

「ふざけるな!ゾンビなんて、非科学的な説明で終わらせるんじゃない!」

「アンタもさっき『ゾンビー!』って叫んでたじゃん!」

「見た目がゾンビだっただけだろう!」

「見た目がゾンビならゾンビでいいじゃん!」

「もう、ニニカさん、ややこしくなるからゾンビって言わないで!あれはゾンビじゃありません!」

「おい、ゾンビじゃないって言ってるぞ!」

「ゾンビだってば!アピリス先生ややこしくなる事言わないで!」

「ええい、うるさすぎる」


 ジョージさんが見かねて口を挟んできたところで、目的の場所に着いた。ゾンビが大勢捕まっていた地下室へ続く階段だ。だけど・・・。


「何だこれは!?」


 先に目についたのは、その階段を下りる手前の壁が壊れて、外へと繋がる大穴が出来ていたことだった。さっきはこんな大穴は無かった。


「急ぎましょう!」


 間違いなく何かが起きている。アピリス先生の言葉をきっかけに、私たちは階段を駆け下りた。


「これは・・・!」


 階段を下りた先は、通路の両側に沢山の部屋の扉が並んでいる場所だった。先ほどは全ての扉が閉まっていて、その中にゾンビがいたはずだった。だが今は全ての扉が開け放たれている。近くの扉の中をチラリと見ると、ゾンビはいないようだった。全ての部屋を確認したかったが、今はそれは出来なかった。通路の真ん中に一人、見慣れない人影が立っていたからだ。


 ペンライトで照らして現れたのは、若い女性だった。ライダースジャケットとスキニーパンツのシルエットが暗闇に浮かび上がる。青みがかったショートボブを揺らしてこちらを見るその瞳は冷たかったが、次の瞬間、何か厳しい感情が生まれたような気がした。そしてその肌は青緑色・・・。ゾンビだ。


 どうやら他にゾンビも誰もいない。彼女一人のようだ。


「随分時間がかかると思ったら・・・まさか負けて捕まるなんて、とんだ失態ね」


 彼女が口を開く。その内容が、今はジョージさんに担がれているトカゲ男ゾンビに向けられたことは明らかだった。という事は、状況的に見てもダンテ・クリストフの仲間か・・・。


 ここにいたゾンビ達をどこにやった!わたしがそう言おうとした瞬間、先に口を開いたのはメアリさんだった。


「そんな・・・・」


 その声は、震えていた。


「どうして・・・?あなたは、ルイ!?」

「・・・はぁ。久しぶりね、メアリ・・・。相変わらず、ムカつく顔をして」


 その返答は、彼女が『ルイ』であるという肯定を意味していた。


 ルイ。メアリさんの友人で、メアリさんと一緒にゾンビになり、メアリさんが首を斬り落として殺した、と言っていたその人。保谷ルイ。


 死んだはずの彼女が、今メアリさんの目の前にいる・・・!?

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