第57話 ゾンビの再生力
「「メアリさん!!」」
わたしとアピリス先生は、落下したメアリさんとトカゲ男ゾンビに駆け寄りながら揃って声を上げる。さすがにこれはヤバい。高い所での戦いだったが、わたしは念のためゾンビになってたので、視力が良くなってるのか、しっかり見えた。トカゲ男ゾンビのシッポと片手を斬ったのは凄いけど、その前にメアリさんはお腹を貫かれている。
ジョージさんはわたし達よりさらに一歩早く駆けだしていた。そしてメアリさんが地面に激突しないように受け止める。それでも落下の衝撃はかなりのものだったようで、2人揃って地面に倒れこんだ。その少し離れた所にトカゲ男ゾンビが落ちる。
わたしとアピリス先生は、とにもかくにもメアリさんに駆け寄った。ゾンビとは言えどれくらい不死身かは分かっていないのだ。もしかしたら、致命傷という事も・・・。
「っ・・・!わたしのことは良いから、あいつを早く!!」
なんとメアリさんはもうすでに起き上がろうとしている。お腹の傷はシュウシュウと音と湯気?のようなものを立てて、治り始めているようだ。ゾンビってやっぱり凄い!
アピリス先生も、その言葉と様子を確認し、現状の優先順位を納得したようだ。少なくとも、トカゲ男ゾンビを放っておいていい状況じゃない。
「・・・!わかりました!」
ニードルガンを構えてトカゲ男ゾンビに走り寄る。だがそこで、メアリさんと一緒に倒れこんでいたジョージさんが立ち上がりながら声を上げる。
「センセイ!気をつけろ、シッポが!!」
一瞬何のことか分からなかった、が、トカゲ男ゾンビのすぐ傍に一緒に落ちていた、奴の斬り落とされた長いシッポ、その近くをアピリス先生が通り過ぎようとした瞬間、斬り離されたままのそのシッポが大きく跳ねた!!そしてその勢いでアピリス先生にぶつかった!!
「ぐぅ!!」
シッポだけとは言え、大蛇ほどもあるその質量にアピリス先生はうめき声をあげて地面に転がる。その間に、当のトカゲ男は立ち上がっていた。その瞳は痛みと、そして怒りでギラギラと見開かれ、血走っていた。
「クソが・・・!よくも俺にこんな酷いことを!!痛ぇじゃねぇかぁああ!」
トカゲ男がそう叫びながら、切断されたシッポと右腕の跡は、メアリさんと同じようにシュウシュウと音と湯気を立てて再生を始めていた。それと同時に斬り落とされた方のシッポと右腕はボロボロと崩れ去っている。
「まさか斬り離されたシッポであんなことができるなんて・・・」
立ち上がったジョージさんが苦々しそうにそう呟く。
「まさにトカゲのしっぽ斬りですね!」
「なんか違う気がする。いや、あってるのか?まあいいや!」
私の言葉を適当に流して、ジョージさんはトカゲ男ゾンビに向かってダッシュする。アピリス先生もすぐさま起き上がってニードルガンを構えて撃ち放つ、が、あとちょっとの所で逃げられてしまう。トカゲ男ゾンビは、また工場の外壁をスルスルと登り、高所に陣取った。負った傷を回復させようとしているのか・・・。あれ、でも、逃げるつもりが無い・・・?
「一体何が起こってるんだ、これは!!?」
突然聞き馴染みのない声が私の後ろから聞こえた。
振り返ると白衣の若そうな男のお医者さん・・・あ、この人あれだ。
「自称完璧天才外科医!!」
「自称じゃない!」
確か財前マシロとか言った。ヒナコちゃんを治療するための手術をしていたはずだけど。
「どうなってるんだ!?その赤髪の女は、大怪我じゃないのか!?もう治ってるのか!?あのトカゲみたいな男は何なんだ!?腕とシッポが生えてきてる!?」
うーん、混乱してるのは分かるけど、面倒くさいなぁ。そんなことより、
「ヒナコちゃんは!?」
「そっちは安心しろ。手術は完璧だ。今は安定している」
「もう終わったの?早くない!?」
「当然だ!あんな小さな子供、早く治療完了しないと助かるものも助からない」
「それで何でここに?」
「お前達がいなくなったから、事情を聴くために探し回ってたんだ!」
「良く見つけましたね。どこから見てたの?」
「お前達が大声で叫びながら大暴れしてたからだろ!あの二人がなんかすごい超人バトルしてたところからだ!そんな事より、その女は本当に大丈夫なのか!?」
財前マシロが大騒ぎしたので、アピリス先生達もトカゲ男ゾンビも、こちらに気づいたようだ。
「クソ!余計な奴がまた増えた・・・・!!!貴様ら全員ぶっ殺してやる!!」
トカゲ男ゾンビが怒り心頭でそう吠える。だがすぐに向かってくるわけではない。未だ高所でこちらの様子を伺っている。なんなんだあのゾンビ。
「私は大丈夫です・・・!それより早くあの憎き敵を倒さないと!!」
メアリさんが刀を杖替わりにして立ち上がる。それを間近で見た財前マシロは信じられないと言った様子で唖然とした。
「本当に傷が治ってる・・・。完全に貫かれていたはずだ!なんで・・・」
「ゾンビなんですよ」
「ゾンビ!?なにをふざけて・・・」
「ほらわたしも」
「うわぁ!?ゾンビ!?」
わたしはすでにゾンビ状態だったのだが、暗くて良く見えなかったようだ。見やすいようにペンライトで自分の顔をしたから照らすと財前マシロは叫び声を上げた。でもすぐに持ち直した。
「どうなってるんだ、頭が着いて行かないぞ・・・」
「そんな事より、もう一度あのトカゲ男ゾンビを地面に叩き落とします!!」
メアリさんが再び高所へと跳び上がろうとしたところで、アピリス先生とジョージさんが駆け寄ってきた。
「待ってください!メアリさんは無茶しすぎです!あんな大怪我をして・・・!」
「ゾンビだから大丈夫です!ジョージさんも似たようなことしてたでしょう!?」
「ジョージはそうだけど・・・そうじゃ無くて、あなたのは自暴自棄になってるだけでしょう!?」
「だって!あいつはルイを殺してゾンビにした張本人、仇なんですよ!」
その言葉にアピリス先生は声を失う。そうか、あいつがメアリさんとその友達をゾンビにされた時にいた奴なのか。その結果、ゾンビになったメアリさんはダンテ・クリストフに騙されて、同じくゾンビになった友達を殺したという・・・。
「とにかく、逃げられる前に早く倒さないと!!」
「逃げる・・・逃げるか・・・。メアリさん、ちょっと待って!」
「何!?」
私が呼び止めると、メアリさんはイライラした様子で怒鳴ってきた。
「いいから、ちょっと待ってよ、考えてるんだから!」
何か変な気がしてきたのだ。財前マシロがどんなに天才外科医でも、ヒナコちゃんの手術を終えてから私たちを見つけだすまで結構な時間がかかるはずだ。実際、わたし達がメアリさんとトカゲ男ゾンビを見つけてから、結構な時間戦いを見ている自覚もある。これだけ時間が経っていれば、いくら何でもトカゲ男ゾンビが完全に逃げる機会はあったんじゃないだろうか。それなのに、何だかんだトカゲ男ゾンビは私たちの相手をずっとしている。
「もしかして・・・時間稼ぎが狙い・・・!?」
だとすると何のために?トカゲ男ゾンビは私たちと出会ってから、まず旧病棟に行った。その後この廃工場に逃げてきた。旧病棟には何の用事があって・・・?旧病棟にあったのは・・・。
「そうか!!」
閃いた!
「みんな、わたしがあのトカゲ男ゾンビを引き付けるから、それを狙って奴を治療してください!!」
「引き付けるって!?」
「いいから!!」
わたしは皆にして欲しいことを簡単に伝えると、一目散に旧病棟に向かって走り出した。




