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ゾンビは治せる病気です~Dr.アピリス診療所~  作者: 長多良
第3章 ゾンビにまつわるエトセトラ
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第26話 ゾンビ無罪(後編)

「お前・・・!ミナを、ミナを襲ってケガさせたのはお前だろう!!!」

「え!ちょ、ちょっと、何なんだ!?」


 私が詰め寄ると、トウヤという男は青天の霹靂、とでも言いたげな表情で後ずさりした。だがその態度がまた私の怒りを沸き立たせる。こいつは私の大学の友人であるミナを、夜道で待ち伏せして殴って怪我を負わせたのだ。そんな男が目の前にいれば、理性を保てるはずもない。


「ちょっとメアリさん!」

「メアリちゃん、落ち着けって!」


 だがアピリス先生とジョージさんは私の前に立ちふさがりなだめようとしてくる。


「何なんだ、その女は!!」


 政治家オヤジが私の方に怒声を上げてくる。だが怒っているのはこっちだ。


「アピリス先生!こいつは、私の友人の橋川ミナを夜道で襲ってケガをさせた男なんですよ!」

「な・・・!」


 その場にいた全員驚きに声を失う。その後、一番最初に声を発したのはトウヤという男だった。


「橋川ミナって・・・お前アイツの知り合い・・・?あっ!!」


 それが彼自身にとっては失言であることに気づいて、慌てて口を押える。だがもう遅い。


「やっぱりお前が・・・!」


 私は再びトウヤという男を睨みつけたが、それを上回る声をかぶせてきた男がいた。トウヤの父親、政治家のオヤジだ。


「貴様、まさかこの部屋から抜け出していたのか!?」

「オヤジ、それは・・・・」

「このバカ者が!あれほど問題を起こすなと言っていたのに!そんな姿で出歩いて、しかも暴行事件もだと!?どれだけワシの足を引っ張れば気が済むんだ!」

「ちょっと、待ってください!みんな!」


 騒ぎを抑えたのはアピリス先生の声だった。だが、先生の顔にも怒りの色が見える。


「どういう事なんですか!人を襲ったって!!」

「それは・・・」


 トウヤという男は言い淀み、父親である政治家オヤジの方をチラリとみるが、そちらにも睨み返されると深くため息をつき、ソファに腰を下ろして語り始めた。


「悪かった・・・悪かったよ!俺も何とかしようと思ってたんだけど・・・・時々こう、破壊衝動?っていうのか?自分が自分じゃなくなったみたいになって・・・その、気づいたら部屋を飛び出して誰かを襲っていた・・・・かも知れない」

「なんだその言い方は!お前がやったことだろう!お前のせいでミナは・・・怖くて学校にも来れなくなったんだぞ!」

「し、仕方ないだろう!ゾンビになってたんだから・・・・!」

「こいつ・・・!」


 トウヤという男のあまりにも他人事な言い草に苛立ちを感じ、私は思わず矛先を別の人間にも向けた。


「お前も!父親ならこんな危険な息子をなんでちゃんと閉じ込めておかなかった!?」

「なんだと?ワシはちゃんとこの部屋から出るなとこいつに言ったぞ!ゾンビなんて危険な相手にも関わらずだ!」

「そんな事で!」

「メアリさん、落ち着いて!」


 アピリス先生とジョージさんは何故か再び私を抑えに来た。


「色々事情があるのは察しましたが、取り合えず彼を治療しないと!!」

「そうだぜ、メアリちゃん、一回落ち着くんだ」

「治療!?こんなやつを治療するんですか!?」


 アピリス先生の言葉は私には信じられなかった。が、先生は逆に厳しい顔で私に説いてきた。


「落ち着いてください。この人が何をしたかは別にして、私は医者として治療をしないといけないんです。犯罪者だから治療をしない、というものではないんですよ」

「それに、ゾンビ症状で人を襲うんだったら、なおさら早く治療しなきゃいけないだろ」

「それは・・・」


 私は納得は出来なかったが、治療しないといけないという事実は理解はできた。だがトウヤという男とそのオヤジが、わざわざ私の神経を逆なでする。


「そうだ!こっちはゾンビに感染した、被害者だぞ!ゾンビのせいでしてしまったことなら、俺に責任はないだろ!」

「その通りだ!最初からなんだお前達は、病人の客に対してその態度。大体、ワシはまだお前達の事を信用していないからな。お前達みたいな怪しい奴が本当にゾンビを治療できる医者なのか?証拠を見せないと危なっかしくて治療なんてさせられん・・・」


 バキィン!!


 テーブルが真っ二つに斬られる音で、先ほどまで罵声を上げていた二人は押し黙る。私は先ほど手に生み出した刀をもう一度振り、今度は近くにあった椅子を斬り裂いた。


「な・・・な・・・!」


 バラバラになったテーブルと椅子、そして突然現れた刀を持ち青緑色の肌に赤く長い髪をかき上げる私の姿に、トウヤという男とそのオヤジは腰を抜かしたようだ。


「よくもそんな口をペラペラと・・・・!」


 自制が効かなかった自覚はあるが、後悔はしていない。アピリス先生からは怒られるかもと思ったが、先生はため息をついただけで私ではなくトウヤという男達の方に語り掛けた。


「御覧のように、彼女も同じ病気です。後ろのジョージも。二人とも私が治療しています。証明はこれだけです。信じていただけなくても、こちらは強制的に治療するつもりでいますが、大人しく協力するなら通常の治療を行います。よろしいですか?」


 その言葉に、トウヤという男とそのオヤジはコクコクと頭を上下させる。


「それと・・・・治療はする、という事と、あなた達が彼女の友人にしたことは別の話です。あまりに態度が目に余れば、怒りを覚える人も出てくる・・・それは分かりますね」


 その言葉にも同じ調子で頷き続ける。


「最後に、この治療は今日の一度ではなく、定期的に診察が必要です。今後も治療で私たちと顔を合わせる必要がある、という事をしっかり理解して、私たちの神経を逆なでしないようにすることをお勧めします」


 その言葉まで聞いて、トウヤという男とそのオヤジは小さな声で「はい・・・お願いします・・・」と呟いた。


 ◆


 アピリス先生があの胸糞悪い男を治療するのは本当に嫌だったが、そこはもう我慢するしかなかった。治療自体は滞りなく終わり、肌の色が戻ったトウヤという男はすっかり上機嫌になっているようだった。先ほどのアピリス先生の忠告があるので意識はしているようだが、とにかく元に戻って嬉しい、という気持ちが前面に出ている。その結果、アピリス先生にお礼を言いながら、ベタベタと握手したり肩を叩いたりしている。それも腹が立つ。


「それで、治療費として100万円払うか、ゾンビになった時の事を詳しく話してもらうか・・・」

「治療費を払う。最初からその約束だっただろう」


 ジョージさんの言葉を遮り政治家オヤジがぶっきらぼうに金を渡してくる。100万円くらい痛くもかゆくもないという事か。それよりも自分のバカ息子の普段の素行が分かるような情報を渡したくないらしい。


「それで・・・ミナの事だけど」


 私が凄むと、トウヤという男は慌てて両手を上げる。


「ま、待ってくれ!さっきも言ったけど、ゾンビになってる時の事はよく覚えてないんだ!ミナちゃん・・・ミナさんとは以前確かに遊んでたことはあるけど、最近疎遠になっていたんだ、本当だ!ゾンビになった時に傷つけてしまったのは悪いと思うから、必要だったら治療費だって払う!!」


 そう言われて、改めて考えると、私はどうしたらいいか分からなかった。ミナは今、怪我で家に引きこもっているという事だ。今回の話も私が直接聞いたわけではなく、友人からの又聞きだ。証拠も無いし、怖いので被害届は出さないとも言っていた。そんな状態で、私がいきなりミナとこの男を結び付けていいのだろうか。突然「犯人が謝りたがっている」と伝えてもいいものか分からない・・・。


「・・・ミナが慰謝料請求したりしてきたら、ちゃんと誠実に支払ってくださいね・・・」

「わ、わかった・・・約束する・・・」

「ちょっと俺からもいいかい・・・?」


 ジョージさんが念押しするように声を低くしてトウヤという男たちに告げる。


「分かってると思うが、俺たちは非合法の医者だ。だから、権力やら何やらを使って俺たちにちょっかいかけようと思っても無駄だからな。こっちはさっきみたいにゾンビになれる。何かしたら、痛い目にあうのはそっちだし、ゾンビの治療が出来なくなって困るのもそっちだからな」

「・・・ふん、分かっておるわ」


 政治家オヤジの憮然とした回答を聞き、私たちはその場を後にした。


 ◆


 帰り道、俺たちはメアリちゃんから詳しい事情を説明してもらった。


「なるほど、そういう事情だったのか」

「すいません・・・ちゃんと説明できなくて・・・」

「いや、あの状況だと詳しく説明するのも難しかっただろうし、しかたないよ・・・」

「まあ、正直いい気分はしないですが、病気の症状の結果の犯罪行為は私の立場からは何ともし難いですね。今後の往診が監視の役目になるといいのですが」

「そうですね・・・。奴は認めたけど、証拠があるわけでもないらしいですし・・・。あ、じゃあ私はここで」


 メアリちゃんは、多少強引に話を切り上げ、俺たちから離れて家路についた。結論の出せない問題をこれ以上話し合うのが精神的に耐えられなかったのかもしれない。


 メアリちゃんの姿が見えなくなるのを見計らって、センセイはため息をついた。


「色々と有耶無耶にしてしまった気がしますが、この件はこれで納めるしかないですかね・・・」

「まあしょうがないだろう・・・。突き詰めようとすると色々と無視できない話になって来るからな」

「無視できない・・・っていうのは?」

「いや・・・ゾンビ症状の結果してしまった事は犯罪になるのか、とか、色々さ」


 俺の答えにセンセイは「そうですね・・・」と納得を示したが、俺は一つ、思ってはいたが口に出さなかったことがある。あの男がメアリちゃんの友人を暴行した事件、もしかしたら・・・。


 あの男が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ゾンビになってからの事件だ、というのは、あの男と、その父親の証言以外に根拠はない。メアリちゃんの友人が襲われた時期はメアリちゃんも詳しく聞いていないそうだ。仮にそちらがハッキリ分かったとしても、あの男がゾンビになった時期が分からない。ゾンビになったいきさつを話すのを拒否されたからだ。暴行事件の罪を、『ゾンビだった』ということを利用して責任が無いという事にしているのかも知れない。


 もちろんこれは俺の想像に過ぎないし、それも真相を証明するすべはどこにもない。この疑惑を伝えることで先生やメアリちゃんを余計悩ませるくらいなら、何も言わない方がいいだろう・・・。


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