第14話 赤髪ゾンビ治療中
赤髪ゾンビをアピリス先生の診療所に連れて行くのは難しくなかった。気絶している赤髪ゾンビを、ジョージさんがおんぶして運ぶだけだ。夜中とは言えまだ人通りもあるのだが、繁華街なので『酔っぱらいを背負って運ぶ』ように見えれば、誰も気にしない。
むしろ大変だったのは、診療所に帰ってきた後だ。待っていたイトさんは、赤髪ゾンビを見るなり声を上げて腰を抜かした。(赤髪じゃなくなっているので、最初は誰か分からなかったようだが、アピリス先生が律義に説明した)
「何でわざわざ連れてきたんですか!!!」
と言って涙目になっていた。そりゃそうだ。自分を殺そうとしていた人が目の前にいるのだから。
そういう訳でイトさんはそそくさと帰っていった。元々、命を狙われていたから診療所でかくまっていた訳なので、その命を狙う奴が捕まったなら、ここにいる理由はないし。
「まずは彼女の治療を行います!」
「目を覚ます前に治療しとかないと面倒だからなー」
アピリス先生は赤髪ゾンビを診療台に寝かせると慌ただしく用意を始めた。ジョージさんも面倒くさそうではあるが、準備自体はテキパキとやっている。
「え、治療って、もう終わったんじゃないんですか?」
先ほどの戦いで、ニードルガンで治療針を心臓に撃ち込んだ。それでゾンビの症状が治まったのだから、治療は終わっているものと思っていた。
「あれはただの応急処置です。ちゃんとニニカさんにやったような治療をしないと、すぐに元の副作用が出てしまうんですよ」
「要するに、ほっといたらまたすぐにゾンビ化しちゃうってことね」
そうだったのか。そういうことは2人とも部外者である私には中々教えてくれないので、未だによく分かっていないのだ。
そうこうしているうちにアピリス先生は本格的な治療に入った。私にやったように、診察したり注射したり・・・。ジョージさんはこの段階ではやることが無いらしく、部屋の隅に立って様子を見ているので、そちらに声をかけることにした。
「私の時は粉薬飲んだけど、気絶してる人にはどうするんですか?無理やり飲ませるの?」
「いやー、誤嚥の可能性もあるし、別の注射薬で代用するみたいだよ」
「ごえん?」
「あー、上手く飲み込めなくて気管に入ったりすること」
「へぇ」
聞いてはみたものの、そんなに面白い話ではなかった。それよりも気になる事があったんだった。
「そう言えば、さっきの戦いですけど」
ジョージさんが「ええ、まだ何か聞くの?」みたいな表情を露骨にしてきた。色々聞かれたら面倒くさいな、と思ったのだろう。まあ気にせず続ける。
「基本的に、ニードルガンを心臓に撃つこむか、心臓じゃなくても体のどこかに当たれば、ジョージさんの電撃食らわせれば、取り合えずゾンビを大人しくさせることが出来るんですよね?」
「まあ、そうだね」
「なんでジョージさんもニードルガンを持ってないんですか?ジョージさんも持ってたら、相手を捕まえてから自分で直接撃つとかできて、楽そうじゃないですか」
「ああ、そういうことか」
ジョージさんは少し考えるように中空を見上げてから答えてくれた。
「あれは薬の調合が難しいんだよ」
「調合?」
「あれは銃の中で調合した薬を針に詰めて撃ち出してるの。相手の症状や周囲の環境を見て適切な調合にしないと効かないらしくて、俺には難しすぎて無理なんだよね」
「へぇー、それで」
「ちょっと、ジョージ!」
私が感心しているとアピリス先生が咎めるように声をかけてきた。
「あんまり患者さんに余計なことは・・・」
「えー!」
言われていたのはジョージさんだったが、私はすぐさま抗議の声を上げた。
「いいじゃないですか!もっと色々教えてくださいよ!」
「ダメです」
「なんでぇ!?」
「色々知りすぎると、この技術の秘密を知りたい奴らに狙われるかもしれなくて危険でしょう!?」
「あのダンテ・クリストフとかいう変態イケメンゾンビとか?」
私の目玉を持って行った変態。私の目玉自体は再生したから元通りになってるけど、持って行かれた目玉はどうなってるんだろう。
「変態・・・まあとにかく、そういうことです」
アピリス先生の言いたいことは分かるが、先生もいい加減私の性格を理解してほしい。ゾンビへの知的好奇心は止められないのだ。
「ところでセンセイ、治療はもう終わったんですか?」
ジョージさんが話の軌道を修正してきた。
「はい、終わりましたよ」
「え、終わったんですか!?」
私は驚いて赤髪ゾンビの方を見る。診療台に横たわってまだ眠っているようだ。
「いいんですか?起きたらまた暴れだすんじゃ?縛ったりしなくていいんですか?」
「縛る・・・うーん。今なら副作用の症状は抑えられてるから、そんなに危険はないと思いますけど・・・」
と言いつつアピリス先生も歯切れが悪い。迷っているようだ。
「いや、センセイ、普通の人間でも暴れられたら迷惑ではありますけどね」
「でも、起きた時に縛られてたら、いよいよこっちの話聞いてくれなくなりそうじゃないですか?」
「縛ってなくても話聞いてくれないかも・・・」
アピリス先生とジョージさんがうーんと頭を悩ませている。
―――――と、
「ここは!?」
赤髪ゾンビが、ガバッと体を起こして叫んだ。そして、すぐに私達の方を見る。
「お前ら・・・・!!」
「げげ」
起きちゃった。と、うめき声をあげたのはジョージさんだったが、アピリス先生も私も身構える。赤髪ゾンビもベッドから起き上がろうとする、が・・・・。
「!!?」
それより前に彼女は自分の体の異変に気づいたようだ。自分の手を見て、そして髪の毛を触る。今彼女の手の肌は青緑ではない。髪の毛は、ゾンビの時の長々とした赤髪ではなく、セミロング程度の黒髪になっている。それに気づいたのだ。
「これは・・・!?」
自分の髪の毛、そして自分の顔の肌をぺたぺたと触り、彼女は困惑しているようだ。
そうだ!
私は思い立って行動に移した。アピリス先生の診療デスクの上にある、卓上の丸鏡を手に持って赤髪ゾンビの顔の前に突き出した。
「これは・・・!」
そこに映った顔、その肌と髪を見て、赤髪ゾンビは驚き、鏡を自ら手に取った。
「あなた、ゾンビを治してもらったんだよ」
私がそう教えてあげると、彼女はさらに驚いたようで・・・いや、驚きのあまり呆然としたようにつぶやいた。
「ゾンビを・・・治した・・・?」




