第101話 質量保ゾンの法則
ゾンビは増えるものである。
映画で多いのはやっぱりウィルス性のゾンビ。
噛まれると感染して、どんどん増えていく。
そして最後はパンデミック。
これこそ醍醐味。
一方アピリス先生のゾンビ化技術は、手術で一体一体ゾンビにする。
これはむしろ、元ネタの宗教的儀式でゾンビになるのに似ている。
ある意味正統派ゾンビと言える。
でもゾンビ映画の主流は感染系ゾンビだからね。
ダンテ・クリストフのこだわりも、私は理解できる。
なんてことを思わず考えてしまっていたが、そんな状況じゃないのは分かってる。
「ニニカさんを放しなさい!」
アピリス先生が叫ぶ。
わたしはダンテ・クリストフの見えない力で身動き取れず、捕まってしまっているのだ。
アピリス先生やジョージさん達が、宙に浮いているわたしとダンテを見て険しい顔をしている。
大ピンチ。
「ようやく君を迎えに来ることができたよ。この時を待ちわびた」
そう言ってダンテは、小さなケースを手に持ってわたしに見せてきた。
うげ、ダンテに最初に会った時に私から外れた目玉だ。まだ持ってたのか。キモイ。
でもわたしはどうしても確かめたいことがあった。
悲鳴を上げて助けを求めるのはその後だ。
「わたしがいたら、感染タイプのゾンビが完成するって、どういうこと!?」
身動きできないからやりずらいが、顔だけは動くのでダンテを睨みつける。
ダンテは相変わらず優雅で余裕な笑みを浮かべている。
わたしの質問を待っていましたと言わんばかりだ。
ムカつく。
「いいだろう。他ならぬニニカさんの質問だ。説明してあげよう」
もったいぶっているが、絶対最初から話したかったはずだ。
「まずはゾンビの事を良く知ることから始めた。ゾンビ化した人の殆どは意識のない由緒正しき歩く死体だが、稀に物理法則を無視した能力を持つハイゾンビが生まれる。だから私は沢山の人々をゾンビにして、実験を繰り返した。いつか『感染能力を持ったゾンビ』が生まれることに期待して」
「そんな、そんな理由で人々を無駄に傷つけていたんですか!」
アピリス先生が激昂する。当然だ。私も許せない。
ダンテはいい歳して虚構と現実の違いを分からないのだ。
ゾンビを生み出して喜ぶなんて正気の沙汰じゃない。
ゾンビになっちゃったもんは仕方ないから愛でるけど、新たにゾンビを生み出すのは反対。それがわたしのスタンス。
しかし、何と言われてもダンテは平然としているが。
「ただ、この実験はなかなか上手くいかなくてね。色んなタイプの・・・バリエーション溢れるゾンビは生まれたが、感染力を持つゾンビはついに生まれなかった。この犬神が唯一、犬をゾンビにして使役出来るという能力を持っていたが、犬以外は無理だった。非常に惜しい」
そう名指しで呼ばれたのは、ゾン神様だった。
ゾン神様の本名は『犬神』だったのか!
「まあそんなわけで、私は別の手段も模索していたんだ。ハイゾンビの能力に頼らない、むしろ正統派の方法」
「まさか、ゾンビウィルスの開発!?」
「その通り!さすがニニカさん、話が分かる」
「そ、そんな・・・、ウィルスなんて、ふ、不可能です・・・!」
異議を唱えたのはアシハラ先生。ゾンビ研究の第一人者からすると、黙っていられなかったようだ。
「ぞ、ゾンビ化現象は『Z.O.N.E』と呼ばれる超自然的な、・・・現在の科学では説明のつかない力場の作用によって生まれる存在です。ゾンビが質量保存の法則を無視した特殊能力を使えるのも、『Z.O.N.E』から流れる別次元のエネルギーのためだと考えられます。そ、そして『Z.O.N.E』を発生させられるのはゾンビ化手術という名の儀式によってだけ。非科学的と思われるかも知れませんが、これは確かに観測された事実です。う、ウィルスで発生できるようなものではないんです!」
「なるほど、科学者による研究だとそのような説明になるんだな。これは勉強になる。だが、Dr.アシハラの言いたいことは理解しているよ」
なんだか難しい話になってきたが、なんとかついていく。
「ウィルスと言っても一から作る訳じゃない。ゾンビの因子を組み込むことによって、感染した人にゾンビ因子が増殖していく。そう言う技術があるんだ。ただ、最後の最後で壁にぶつかってね」
「壁?」
「先ほどDr.アシハラは、ゾンビは質量保存の法則を無視していると言ったが、ゾンビにも原則的なルールがあるようだ。君たち、ゾンビの体が切断された時、どうなるか分かるかい?」
「切断された時?」
そう言われてわたしが真っ先に思い出したのは、今日この村で起きた首なし死体(正体は首なしゾンビ)事件だった。
「くっつければ戻る」
「俺の足が切れた時も、くっつけたら戻ったな」
私の回答に、ジョージさんも同意する。
「でも新しいのが生えてくる時もありますよね。この村のゾンビ達もそうだったし」
「その通り。さすが切断が得意なメアリさん」
メアリさんの言葉に、ダンテは嫌味に溢れた言葉を投げつける。
メアリさんは眉をひそめて侮蔑の目を返した。
もちろんダンテは気にしない。
「本体から切り離された肉体は、くっつけて戻さなければ、代わりに新しく生える。例えば腕を斬り落とされて、新しい腕が生えてきた場合、元の切り落とされた腕はどうなる?」
「えーと・・・」
過去の色々な例を思い出す。
「灰のように、ボロボロに崩れて消える?」
「正解だ!ゾンビは、本体から離れた部位は長く保持できない。本体に戻すか、本体に新品が生えれば、古いものは消えてしまう。このように、ゾンビにも一定の原則的なルールがあるようなんだ」
なんと、そんなルールがあるとは。
確かに思い返すとそんな感じな気がするが、沢山のゾンビで実験を繰り返したダンテの方が研究が進んでいた、という事か・・・。
これはまさに・・・
「質量保存の法則ならぬ、質量保ゾンの法則、というわけですね!」
「な、何となく言葉のニュアンスが違うことは感じるけど、文字に書いてもらわないと、何言ってるか分からない気がする・・・!」
興奮したわたしの言葉に、アシハラ先生が、ツッコみを入れる。
「そういう訳で、ゾンビの因子をウィルスに組み込もうとしても、元の体から離れた因子はすぐに消滅してしまう。だから上手くいかなかったんだ。だが、それを解決する、素晴らしい個体が現れたのさ」
「!!まさか・・・!」
アピリス先生が青ざめて声を上げる。
ここまで来たらわたしも何となくわかる。
わたしはその両の目を見開いて、ダンテの手にある物を見つめる。
「そう!ニニカさんの目玉は、その身から離れ、新たな目が再生しても、消えることなく残り続けている!ニニカさんこそが、私が求めていた最後のピース。ゾンビ化ウィルスの要の因子となりうるゾンビなのだよ!」




