第97話 ゾン神様の正体
「あれがゾン神・・・!?」
この村を隠れ蓑にしていたという新興宗教、その教祖、と言うべきか、信仰対象、と言うべきか。どちらにせよ、この宗教の最高位に値する存在であろう、「ゾン神様」とやらが突然目の前に現れ、私は少し気後れしてしまった。
それに、ゾン神の姿も異様だった。
日本の神職のような服装、だけならまだいいが、その顔は布で隠れて見えなかった。その布には、私では読むことが出来ない、何やら複雑な感じのような文字が書かれている。
信仰対象としてはそれらしいような気もするが、いざ目の前に現れると不気味ではある。
「お前がゾン神教の親玉か!信者を騙してゾンビにして、何が目的だ!!」
レイ刑事が果敢に問い詰める。が、ゾン神はレイ刑事の方をチラリと見る素振りを見せるだけで(顔が見えないので、視線までは分からないのだが)それ以上興味を持たなかったようで、顔を正面、つまり、私の方を見る。
「・・・銀のアピリス・・・それに、Dr.アシハラまでこの村に来ていたとはな」
「うわ!ゾン神様が喋った!」
ニニカさんがゾン神の発言に驚いて声を上げる。
まあ私も、ゾン神が普通に喋るとは思ってなくてビックリしたが・・・。
ややくぐもった声だが、思ったよりも普通の声だった。
成人男性のようだ。
「私やアシハラさんの事を知っているとは・・・ゾン神とかいうあなた・・・、やっぱり、ダンテ・クリストフの仲間!?私とアシハラさんを狙ってここに現れたの!?」
私はゾン神にそう言葉を突き付ける。新興宗教の教祖という肩書に少し戸惑ったが、私やアシハラさんの事を知っているということは、やはりダンテ・クリストフの関係者としか思えない。まさかダンテ本人・・・?とも思ったが、声の感じは違いそうだ。
だがゾン神は相変わらず、大きなリアクションはなく、落ち着いた様子で思案するように顎に手を当てる。
「ふん・・・。仮にそうだとして、お前達に何が出来る?治療薬も底をつき、Dr.アシハラの知識でもゾンビの治療法は分からずじまい。ここにいるのは特に戦う力のないゾンビと一般人だけ。頼みのつなのジョージやメアリもまだ外でゾンビに足止めを食らっている・・・」
「・・・!そこまで事情を・・・!?」
「ここは教団本部だ。建物中監視カメラで、お前達の動向は分かっている」
「くっ・・・!」
「でも、そっちもたった二人じゃないか!このボクが、みんなを必ず逃がしてみせます!!」
レイ刑事が強く啖呵を切る。だが、それもゾン神は意に介していないようだ。
「こちらが二人だけ?果たしてそうかな・・・」
「ふふふ、ゾン神様の偉大なるお力、見るがいい!!」
隣にいた骸神佐兵衛が偉そうにふんぞり返る。それと同時に、ゾン神は右手をスッとあげる、と・・・少し離れた廊下の先から、足音が聞こえてきた。
いや、この足音、何か変だ。数が多いが、それだけではなく、妙に軽い音・・・。人間の足音ではない?
「バウバウ!!」「バウ!ワウバウッ!!」
現れたのは、何匹もの犬・・・!?それも、ただの犬じゃない。
「ゾンビ犬!?」
「ひぇえええ、犬までゾンビになるって、本当やったと!?」
皮膚がただれたり目玉が飛び出したり、かなり恐ろしい見た目の犬達の登場に、あーちゃんをはじめ、アシハラさんもすくみ上っている。
犬達は10匹ほどで、私たちをすっかり取り囲んでしまった。
「ふはははは!どうじゃ!ゾン神様はゾンビ犬を自在に操る!これこそ我が骸神家に伝わる呪いの力!」
骸神佐兵衛がまるで自分の事のように勝ち誇る。
「骸神家の呪い!?」
「そうじゃ!娘たちから聞いているじゃろう。骸神家の祖先が、火で焼かれ、水に沈められ、山犬に食われて次々と死んでいったと。その中でも山犬様の力は特別。ゾンビ犬を操る力を持ったゾン神様は、我が骸神家に迎えるにふさわしいお方だったのだ!!!」
「た、確かにそんな事を松子が言っとったね・・・!」
「ちなみに珠代は発火能力を持つゾンビだったから、呪いの力を操る物として重用していたのじゃ。今回の騒ぎで逃げられてしまったようだが!」
「それじゃあ、もしかしてアンタが最後の呪いの力である水を操るゾンビ・・・!?」
あーちゃんがゴクリと唾を飲み込む。
「いや、儂は何の能力も持っておらん!確かに水を操るゾンビが手に入れば呪いコンプリートだから、信者をゾンビにして探しておったんじゃがのう・・・」
「なんそれ。じゃあ何の能力もないのにそんなに偉そうにしとったと!?」
「儂は骸神家当主であるというだけで十分偉いじゃろうが!!」
ああ、あーちゃんさんには悪気はないだろうが、骸神佐兵衛が喋ると話がどんどん脱線する気がする。
それにしても周りを囲んだ犬達が大人しく待機しているのが、実は不気味ではある。無差別に襲ってこないという事は、本当にゾン神とやらはこの犬達をコントロール出来ているという事になる・・・。
「って言うか・・・」
珍しく黙っていたニニカさんが、ようやく口を開いた。どうやらずっと何かを考えていたようだ。そして、何かに気づいた様子だ。
ニニカさんはゾン神に人差し指をビシィ!と突き付ける。
「ゾン神!あなた、私をゾンビにした、狼男ゾンビでしょ!!」
「あ!!」
ニニカさんの言葉に、私も思わず声を上げた。
そうだ!犬を操ると言えば・・・ニニカさんと始めた会った時に戦った、あの男!?
ニニカさんの言葉に反応したのは私だけではない。目の前のゾン神は、その顔が布で覆われた状態でも、ニヤリと笑ったのが分かった。
「ようやく気付いたか。まあ、別に隠していた訳でも・・・なかったが・・・!」
そう言いながら、ゾン神の顔を覆う布がざわざわと蠢き、そして徐々にその布が、内側から持ち上げられてめくれあがって来る。
布の中から現れたのは、人間の顔ではありえない形・・・まさしく犬や狼の鋭い牙が並んだ大きな口だった。
そしてゾン神は顔の布と、神職風の上着をはぎ取る、と、以前見たのと同じように、 まさしく映画の狼男のように、彼の上半身は大きく筋肉質な、そして体の表面を野生の毛でおおわれ、その顔は完全に狼と化した、異形の姿をさらけ出した。
「おお!ゾン神様!その偉大なる狼のお姿を現しになるとは!!」
隣で骸神佐兵衛が感極まっている。
「うわわわあ!本当に狼男!?」
「こんな症状も出るなんて・・・やっぱりZ.O.N.E beingは底が知れない・・・!」
「く・・・皆さんはボクが必ず守ります!!」
あーちゃんさん、アシハラさん、レイ刑事は、初めて見る彼の姿に動揺を隠せないようだ。
「やっぱり、ダンテ・クリストフが関係していたんですね!」
「へっ!今更気づいテモ、もう遅イ!さっきも言ッタ通り、キサマラにはもう戦う事も、逃ゲルこともできない!!観念するんダナ!!」
狼男のになり口の形が変わったことで発音が少し人間離れしてしまうのも、以前対峙した時と同じだった。
悔しいが、彼の言う通りだった。抵抗できるとしたら私の薬しかないが、彼や彼の犬に私一人で抵抗するのが難しいことは、最初に戦った時の経験でもう分かっている。
それに、そもそも薬がもう充分な量無いのだ。
私たちは完全に敵に囲まれ、再び打つ手がなくなってしまった・・・!




