第96話 ゾンビと呼ばないで
「やだヤダやだ!『ゾンビ』呼びだけはイヤだー!なんで『ゾンビ』なんて名前にしたのよ!おかーさんのバカ―!!」
私はなんかもう色んな事が嫌になって地面を転がりながら足をジタバタさせていた。
「そう言えば、この名前つける時にシェンノさんは言ってましたね・・・。『ウチのアピリスは小さい頃ゾンビ映画が怖くて怖く、大の苦手だったのよね。ふふふ・・・懐かしいわね』って・・・」
「小さい頃じゃなくて今も嫌いなの!大きくなったから隠してただけなのに!!!」
私はガバッと起き上がってアシハラさんに詰め寄った。
「なんで!?なんでこんなふざけた名前にしたんですか!?」
「何でって・・・、だって、どう見ても変性過程の見た目がゾンビだし・・・。それに科学用語の命名にこういうフィクション作品から持ってくるのは珍しい事じゃないし・・・。『アキレス腱』だってギリシャ神話からつけられた名前だし・・・。そもそも医学用語にも『ゾンビ細胞』とか元々あるじゃない・・・」
「そりゃそうですけどさぁ!」
私はふとニニカさんの方を見る、と、彼女は青ざめた顔で私の方を見ていた。
「そんな・・・アピリス先生って・・・ゾンビが嫌いだったんですか・・・!?」
「今更!?」
「普通にゾンビが好きなものかと・・・。っていうか、ゾンビが嫌いな女の子なんているんですか!?」
「なんで!?ずーっと嫌だって言ってたでしょ!?患者さんをゾンビって言わないでって、ずーと、言ってたでしょ!?ニニカさん達がゾンビ映画を診療所で見てる時も、私は見てなかったでしょ!?ゾンビが好きなんて一言も言ってないでしょ?」
「照れ隠しかと思ってました」
「何のために照れるの!?誰のために隠すの!?」
「すいません・・・反省しました。今度からアピリス先生がゾンビ好きになるようにゾンビ映画を沢山持ってきますね」
「なんにも!行動が変わってない!!」
のらりくらりと話すニニカさんに無力感を感じる。段々頭痛がしてきた。
「まあまあ、いいじゃないですか、アピリスさん。警察内でも、もう呼称はゾンビで通ってるし」
「そ、そうそう。ゾンビでよかやろ。ゾンビ達も自分でゾンビっていってるし・・・」
レイ刑事とあーちゃんが、私に気をつかって話に入ってきてくれた。全然フォローになっていないが。
「でも本当に、『ゾンビ』の方がいいですよ。アピリス先生、意地になってゾンビって言わないせいで『細胞異常再生症』とか『患者』とかしか言わないから、正直分かりにくいって言うか、面倒くさいって言うか」
「ゔ~~!!!」
私はあまりの悔しさに不機嫌な五歳児のような唸り声をあげてしまった。
だがそんな時・・・・。
ドガァアアアン!!
閉じていた廊下への扉が激しく壊れて吹き飛んだ!!
そこから大きな人影が入って来る・・・!
「儂が骸神家当主、骸神佐兵衛である!!!」
和服を着た老人。体格がよく、髭ずらの顔は威圧感と力強さを感じさせる。そしてその顔色は・・・。
「ほら!アピリス先生!ゾンビですよ!ゾンビ!間違いなくゾンビ!さあ、医者として診断を!病名はゾンビ!」
「うるさ~い!嬉々として連呼しないでください!」
「無駄な抵抗ですよ、アピリス先生!『がくじゅつめい』なんですから!ほら、ゾンビと叫びましょう!エビバディセイ!ゾンビ!」
ああもう、ニニカさんが、ニニカさんが本当にこう・・・こう・・・・!
物凄く悪い言葉遣いが出てしまいそうなので、頭の中からニニカさんを一旦追い出す。
そんな事より目の前に現れた巨漢のお爺さんだ!
骸神佐兵衛と叫んだおじいさんは、登場時のまま、腕組みをしてふんぞり返っている。ニニカさんのせいで半ば放置されている状態なのだが、一応話題の中心にいる状況はまんざらでもないのか、特に文句も言わず、ずっと同じ姿勢を保っている。
「お前は!なぜここが分かったんだ!!」
そんな膠着状態も、レイ刑事の一言で崩れ去った。
「そんなもん、あれだけ大騒ぎしてたら居場所なんてすぐわかるじゃろ」
「なるほど・・・つまりアピリス先生のせいだと」
ぐうの音も出ない・・・。が、ニニカさんには言われたくない。
「くそ・・・骸神家の当主が自らお出ましか・・・」
「ふふん、儂が出てきたくらいでそんなに驚いていたら、この後身が持たんぞ?」
「?どういう意味だ・・・?」
レイ刑事は先頭に立って私たちを庇いながら骸神佐兵衛と対峙してくれている。
しかし骸神佐兵衛の妙に自信たっぷりな態度は一体・・・
「この場に来ているのは儂だけではない!ゾン神様もおいでになっておられるのだ!!!」
骸神佐兵衛が大仰に両手を広げると、廊下の奥から新たに人影が現れた。
立派な神職のような服に身を包み、陰陽師のような模様が入った布で顔を隠した人物。
これが・・・ゾン神様!?




