1・村を出て街へ向かおう!
「おい、これ持っていけ」
父さんがそう言って一振りの剣を渡してきた。
「え?僕の剣はこれだけど」
そう、すでに剣は持っている。
それに、父さんからは冒険者になるんだからと防具一式だってもらってるんだけど?
「これはグローインのオヤジがお前に餞別だって持って来たんだ」
そうか、オヤジさんが。
「でも、それってなんか悪いよ。ドワーフが打った剣を冒険初心者が使うってなんだか周りからさぁ」
そう、僕は今年15になった。父さんは成人したら冒険者になって村の外を見てこいとずっと言っていたんだ。
父さんも冒険者だったらしい。母さんも冒険の途中で知り会ったそうだ。それがどうして村へ帰って来たんだろうな?
しかも、グローインのオヤジさんまで引き連れてさ。
ドワーフが居る村なんてそうそうあるもんじゃないと行商人のおっさんも言っていたしなぁ~
「そんな事ねぇぞ。街に行けば普通にドワーフ工房だってあるんだ。二、三ヶ月も薬草採取やれば誰だってドワーフの樽売りしてる剣くらい買えるんだ。せっかくドワーフが居るんだからそのくらいどうってこたねぇよ」
そんなもんかぁ?
僕も村の外の事なんて父さんやグローインのオヤジさんから聞いた話しか知らない。あ、行商人のおっさんも色々教えてくれたっけ、「この村は異常に安全で俺には儲けが出ないくらいみんな賢過ぎる」って。
それは仕方がないよ。なんせ母さんはどこかの教会でシスターやってたヒーラーらしいから。その母さんがみんなに文字や計算教えてんだもん。おっさんに言われるまでもなく、ものすごい事だってわかる。こんな教会も無い様な山奥の村で文字や計算を教えてくれる人なんて普通は居ないもんな。隣村へ行ったことあるか分かる、全然違うもん。
「ほら、挨拶が済んだら行ってこい!」
そう言って父さんが僕の背中を押した。
よっし、父さんにもらった地図を見ながら街へ向かおう!
「えっと?峠の道を進んで行けばいいのか」
特にどうという事はない旅だ。五日もあればつくらしいけど、おかしいな。行商人のおっさんはひと月くらいかかるって言ってたような?
そんな疑問を抱きながら、となり村へとやって来た。
何の変哲もない村で、違いがあるとすれば、僕の村と違って文字が読める人や計算が出来る人が少ない。
なんせ、教える人が母さんしかいないから、この村は村長や覚えの良かった人が更に村のみんなに教えて行ってる。けど、たまに間違った事を教えているって母さんが愚痴ってたなぁ
「お、サクじゃねぇか。どうしたんだ?しかもそんな重武装で」
そう話しかけてきたのはこの村の兄ちゃん。何度か一緒に山犬討伐した事がある。
「こんにちわ。これから街へ行って冒険者になるんだ」
そう言うと兄ちゃんはウンウン頷いている。
「そうか。やっぱりお前は行くんだな。それにしてもお前の村でさえお前だけか?」
そう、冒険者になれるかどうかは父さんが見極めている。なんせ、元冒険者だもんな。
「うん、みんな不合格だった。小鬼10頭か山犬5頭を一人で討伐できるなんて条件は厳しいと思うんだけど、それだけ冒険者って強くないと成れないんだろうね」
そう、合格条件が厳しすぎてこれまで冒険者になるために街へ行った者は居ないんだ。
ここは山深いから街へ行こうと思うとそれだけで小鬼や山犬の群れと出くわす可能性がある。行商人みたいに護衛を付けているような人じゃないと来れないんだから。その護衛も父さんの知り合いらしくて、村へ来たら一緒に酒飲んでたな。で、やっぱり強かった。
「そうだな。街へ行くだけでも命懸けだもんな。それに、冒険者って危険な仕事だって言うし、いくら儲けが良くてもなかなかなりても居ないんだろうな」
兄ちゃんもそう感心している。
うん、僕はそんな選ばれた一握りにならなきゃいけないんだ。気を引き締めて行こう!
隣村を出て道を進んで行く。
「あれ?なんで渓谷の滝の脇にある小道へ入るんだろう?」
父さんにもらった地図は渓谷沿いの広い道ではなく、滝脇から小道へ入る様に指示している。僕は山歩きが得意だからかな?
その地図に従って小道へ入るとぐんぐん山を登る険しい道だった。そうか、普通は渓谷沿いを通ってぐるっと回り道するから街まで遠いんだ。
それはすでに小道と言うより獣道だ。もしかしたら獣や魔物が通ってるのかもしれない。
ただ、獣や魔物だって水場や餌場への道を歩んでるだろうから、多くが同じ方向へ移動するって事は、そこに何かあるはずだ。
大きな木が生い茂る小道を進んで行くと、時折獣や魔物の気配を感じる。けど、襲ってくるほどではないらしい。
あいつらも分かるんだろうな。小さな群れ程度じゃ僕に負けるって。この辺りの魔物は賢いからなぁ
するとやはり、その日のうちに峠を超えることが来た。
「なになに、街道を行くと山越えだけで十日の行程?」
そんなにかかる距離なんだ。もちろん、街道を行くのは行商人だから歩みも遅いというのも加味しないといけないんだけど。よし、日が暮れる前に良さそうな場所で野営だ。