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第70話:メルカポリス

 ルークたちは《蒼穹の鷹》の4人と共に森の街道を抜けていった。


「この辺は魔獣がよく出るところでね、その魔獣を討伐するのが私たちの主な仕事なんだ。あとはダンジョン攻略など冒険者のやることなら大抵何でもやっているから聞きたいことがあればなんでも聞いてくれたまえ」


「《蒼穹の鷹》といえばメルカポリスじゃ知らねえものはいねえパーティーなんだぜ。なんせ俺たちはあの街で勇者の称号を持っているからな。何か困ったことがあったら俺たちの名前を使ってくれて構わないぜ。それで大抵のことは解決するさ」


 ランカーとグスタフが得意げに話を続ける。


「それにしても街の近くなのにスパイクベアーが出るなんて物騒ですね。周辺の住人も安心して暮らせないのでは?」


「私たち冒険者はそのためにいるのさ。都市国家は周辺地域の面倒までは見てくれないからね。言ってみれば私設の衛兵のようなものだよ」


 7人が街道を進んでいくと道端に座り込む人々が現れた。


 しかもそれはただの人ではなく獣人だ。


 みな一様に怪我をし、痛みをこらえるようにうずくまっている。


「あれは?」


「ああ、あれはこの近くに住んでいる獣人だよ。先ほどのスパイクベアーにやられたんだろうね。私たちがもう少し早く来ていれば……」


 ランカーが悔しそうに唇を噛む。


「ちょっと待ってください」


 ルークは荷竜車から飛び降りると獣人たちの方へと近づいた。



 しかし獣人たちはルークの存在に気付くと一斉に耳を伏せて警戒モードに入った。


「何だ!俺たちのことは放っておけ!」


 獣人の1人が唸りながら睨みつけてくる。


「そんなに警戒しないでください。その怪我は早く治療しなくては」


「こんなもの放っておけば治る!いいからさっさと消えてくれ!」


 腕の怪我を押さえながら獣人が叫ぶ。


 しかしその血は全く止まる様子もなく指の間からあふれ出している。


「そうも言ってられないですよ」


 ルークが左手をかざした。


 手の平からあふれ出た光が獣人たちを包むとみるみる怪我が治っていく。


「こ、これは……?」


 獣人たちはすっかり怪我が治ったお互いの身体を見交わして驚きに眼を丸くしている。


「治癒魔法をかけましたがしばらく安静にしていた方が良いですよ。あなた方の体力を治療に使っているので」


「す、凄い……こんな見事な治癒魔法は初めてだ。しかもこれだけの人数を一気に……」

 感歎の溜息をついていた獣人だったが、ルークを見てばつが悪そうに顔をそむけた。


「……ふ、ふん、一応礼は言っておいてやる。だが金は払わないからな!必要ないと言ったのにお前が勝手に治したんだからな。おい、みんな行くぞ!」


 強がるようにそう叫ぶと獣人たちは森の中へ消えていった。




「何あれ、せっかくルークが善意で治癒してやったってのに、感じ悪!」


「彼らを悪く言わないでやってくれ。彼らも生きるのに必死なんだよ」


 怒るシシリーの肩に手を置くとランカーは残念そうに首を振った。


「悲しいけどこの辺は貧しい地域でね。彼らには人に感謝をするだけの余裕もないんだよ。それに彼らは獣人だ。メルカポリスは獣人との折り合いが悪くてね、私たちもなるべく彼らとの対話を試みてはいるのだけどなかなか打ち解けてくれないんだ」


「そうなんですか……」


 ルークが森の方を見た時、茂みの中をかき分けてやってくる影が見えた。


「あれは?」


「すいません、はぐれてしまいました」


 それは若い犬型の獣人だった。


 獣人はランカーの前に出ると跪いて頭を下げた。


「てめえ、どこに居やがったんだ!この役立た……」


「そこまでだグスタフ、彼らの見てる前だぞ」


 肩をいからせながら獣人に詰め寄るグスタフを手で制するとランカーはルークたちの方を見た。


「この獣人はピットといって私たちの従者なんだ。先ほどの騒動の際にはぐれてしまっていてね。だがこうして戻ってきてくれた」


 微笑みながらピットの肩に手を置く。


「先ほども言ったように獣人たちの村は貧しい暮らしをしている。このピットはそんな村の暮らしを少しでも楽にしたいと進んで我々の従者になってくれたんだ。ピット、この人たちは先ほどスパイクベアー討伐を手伝ってもらった恩人だ。粗相のないようにね」


「……よろしくお願いします。ご主人様を助けていただきありがとうございました」


 ピットというその獣人は固い表情でルークたちに向かって頭を下げた。


「さて、それじゃみんな揃ったことだしメルカポリスに向かうとしようか。ここから先は道が枝分かれしてるから私が案内するよ。助けてもらった恩もあるしね」


 ランカーはウインクをすると足を踏み出した。





    ◆





 ランカーの道案内もあってほどなくして3人はメルカポリスに到着した。


 メルカポリスは山を背にして森の終わりから川沿いに広がっている。


 主要な街道が交わる交易の要所として昔から栄えている街だ。


 大通りの両側には商家が立ち並び、威勢のいい呼び込みの声が雑踏の中に響き渡っている。


「これは凄いな。セントアロガスの市場でもここまでの活気はないね」


 ルークは驚いたように辺りを見渡した。


「メルカポリスは千年の歴史を持っているからね。あらゆる商品も一度はメルカポリスを通過する、なんて言われてるくらいだよ」


 ランカーはそう言いながら慣れたように通りを歩いていく。


 通りを行きかう人々が4人に気付いて色めき立った。


「お、《蒼穹の鷹》のみなさんじゃないか!」


「また魔獣を倒したのかい!」


「ランカー様よ、相変わらず素敵♡」


「私はレスリー様ね。あのクールな眼差しに見つめられたい!」


「はあ、エセルは最高だな。あんな女と付き合えたら死んでもいぞ」


「やっぱりメルカポリス1の勇者パーティーは雰囲気が違うよなあ~」


 ランカーたち《蒼穹の鷹》は人々の歓声に軽く手を振って答えながら進んでいった。


「すご、ランカーさんたちって本当に有名人なんだね」


「凄い人気ね。びっくりしちゃった」


 シシリーとアルマが驚いたように声を潜めながら言葉を交わす。


「ところで君たちはどこか行くあてはあるのかな?伝手があると言っていたけど……」


「そうなんです。知り合いにセルフィス商会というところに話をつけてもらっていて、まずはそこに行こうと思ってるんですけど……」


「セルフィス商会?」


 シシリーの言葉にランカーが驚いたように振り向いた。


「今から私たちもそこに行こうと思っていたんだよ!」


「本当ですか!?」


「ああ、セルフィス商会の主人、クラヴィさんには懇意にしてもらっていてね。まずは今回の討伐の報告をしようと思っていたところなんだ。よければ案内するよ」


「ありがとうございます!助かります!」


 シシリーが眼を輝かせた。



いつも読んでいただきありがとうございます!


この章では獣人が物語に大きく関わっていきます。


「面白い」「もっと読んでみたい」と思われたら是非とも広告の下にある☆☆☆☆☆を★★★★★へとお願いします!


モチベーションアップにつながりますので何卒よろしくお願いします!


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