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第181話:ゲイルとサイフォス

「凄い数の兵士を乗せた船がこっちに来てるんだ!しかも魔族とアロガス王国の両方だ!」


 男は目を血走らせながらキールの元に駆け寄ってきた。


「なんで?なんで兵士がこの島に?」


「わからん!こんな大変な時だってのに村長は殺されてエラントも姿が見えねえんだ!キール、村をまとめられるのはもうあんたしかいねえ!」


 男はそう叫ぶとキールの腕を取って半ば強引に引いていった。


 腕を引かれながらキールがイリスの方を振り返る。


「あ、あの……すいません、ちょっと島が大変なことになってしまったみたいで……この埋め合わせは必ずしますから、少し待っていただけますか?」


「師匠、僕らも行きましょう!」


 ルークはキールの後を追って走り出した。


「え~、面倒くさいんだけどなあ」


「グチグチ言ってないで早く行かないと!」


「お、おい、待ってくれ!俺も行くぞ!」


 イリスとアルマ、それにガストンとタイラがその後に続いた。



 その後を追いかけるように歩みだしたサイフォスが後ろを振り返る。


「お主はいかんのか?」


 そこには1人佇むゲイルがいた。


「……俺が行ったところで何ができる。あいつらがいれば軍隊如きどうとでもなるだろ」


 ふてくされたようにゲイルが呟く。


 ゲイルの胸の奥に燃えていたルークに追いつきたいという気持ちはイリスの強さを目の当たりにして消え去り、それどころか強くなる目的すら見失いかけていた。


 どれほど練習を重ねても人間には到達できないであろう領域が存在するのであれば、努力など全く意味がないではないか―――


 突然ゲイルの目の前に火花が散った。


 サイフォスが鼻っ柱に鞘を叩きつけたのだ。


「っ痛え!何をしやがる!」


「言っておるじゃろ、隙がある時は容赦なくぶっ叩くと」


 鞘を肩に担ぎながらサイフォスが飄々と返す。


「今のお前さんは隙だらけじゃわい。子供ですら勝てるじゃろうな」


「ほっとけ」


 ゲイルが顔を背ける。


「圧倒的な強さを見て心が折れたか」


「……」


 ゲイルは答えない。




「…………うおっ!」


 突然ゲイルが首をすくめた。


 下げた頭のすぐ上を剣が横切り、髪が数本宙を舞う。


「ほ、どうやらまだそこまで腑抜けてはおらんようじゃな」


「あ、危ねえじゃねえか!抜身だろそれ!」


「いや、お主は前からちょくちょく強くなれないなら死んだほうがマシだ!と言っておったからの。今がその時かと思ったんじゃが」


 流石に慌てるゲイルに対してサイフォスがとぼけたように答える。


「……うるせえよ」


 羞恥に頬を染めながらゲイルが吐き捨てる。


「ま、お主の気持ちはわからんでもないよ。()()は正真正銘の化け物じゃ。あれに勝てる人間はこの世に存在せんじゃろ」


「……あんたはそれでいいのかよ。剣聖と崇め奉られてきたんだろ。自分よりも強い奴が現れて納得できるのか」


「さあ、どうかの」


 サイフォスははぐらかすように答えるとゲイルを見た。


「それよりもお主は何を望む。お主は何がしたいのじゃ」


「……それは……」


「お主は何故この島に来た。その理由を今一度振り返ってみるべきじゃな」


「……」


 ゲイルは答えなかった。


 今はまだその問いに対する答えが見つからなかったからだ。


「……あんたは何故行こうとする。あんたが行ってどうなるというんだ」


「決まっておるじゃろ」


 サイフォスはにやりと笑った。


「面白そう、だからじゃよ。歴史に名を残す魔神が目の前に現れたのじゃぞ。あれが何をするのかこの目で見ぬのはあまりにもったいなかろう」


 それだけ言うとサイフォスは振り返って歩き始めた。


「……クソッ」


 それを見ていたゲイルは舌打ちと共に後を追いかけた。


「なんじゃ、お主もついてくるのか」


「ここまで挑発されていじけていられるものかよ」


 ゲイルはしかめ面をしながらサイフォスの横に並んだ。


「それにアロガス王国の者がこの島に攻めてきたというのなら俺が出向かないわけにはいかぬだろうが」


「ハハハ、腐っても王子と言うわけじゃな。いや、まだそこまで腐ってはいなかったということかの」


「なんとでも言いやがれ。それよりも聞きたいことがある」


 ゲイルはそう言うと高笑いするサイフォスを見据えた。


「さっきあんたはあの魔族のことを魔神と言っていたな。それは本当なのか」


「はて、そんなこと言ったかのう?年を取るとさっき言ったことすら忘れてしまってのう」


 ゲイルの問いにサイフォスはとぼけたように肩をすくめてみせる。


「とぼけるな。剣聖と言われたあんたが一歩引くほどの相手だ、並の魔族ではないはずだ。魔王かそれ以上の存在となると魔神しかいないはずだ。ルークめ、あんな魔神とどこで出会った……」


 そこまで言いかけてゲイルは言葉をつぐんだ。


 確かアロガス王国には地図にもない禁足地があり、そこに人類を脅かした魔神が封印されているという言い伝えがあったはず……


 王家の一員であるゲイルもただの伝説としか聞かされていない。


 しかしルークの非現実的な強さは魔神からもたらされたものだと考えると辻褄が合う……


「……しかし……まさか……いや、そんなわけはない……」


 ゲイルは頭を振ると歩みを速めた。


 今はそんなことを考えている場合ではない。


 まずはこの島に攻めてきたという魔族とアロガス王国の確認を取らなければ。



いつも読んでいただきありがとうございます!


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