第177話:共闘
ルークは風の魔法を纏って滑空していった。
その横をイリスが並んで飛んでいく。
「ああは言ったけど無理はするんじゃないよ。駄目だと思ったらすぐにあたしに言うんだ。すぐに助けに行くからね」
イリスの口調は先ほどとは打って変わって真面目だった。
厳しいようでも第一に自分のことを気遣ってくれる、イリスの気遣いにルークの胸が熱くなる。
「ありがとうございます、師匠もお気をつけて!」
イリスは微笑むルークの首元に手を伸ばすとぐいと引き寄せた。
柔らかな唇がルークの唇を塞ぐ。
同時にルークの体内に燃えるような魔力の奔流が流れ込んできた。
先ほどのクラーケンとの戦いで疲弊した体に力が戻ってくる。
「こ、これは……」
「師匠から弟子へのちょっとした激励だよ。これで元気が出たろ?思い切り暴れてやんな!」
「ハイ!」
2人は神獣めがけて飛行を続けていった。
◆
「あ、ん、の、奴ぅ~」
山腹ではアルマが歯ぎしりしながらそれを見ていた。
「私を遠ざけたのはそういう魂胆だったのね」
「よく見えるのう……」
隣で呆れたようにため息をついていたサイフォスは改めてアルマの方を振り返った。
「ところで嬢ちゃん、お主もあの赤肌の女性を知っておるようじゃが……あれは本当にあれなのかね?」
剣聖と呼ばれたサイフォスですらその名を呼ぶのは躊躇われるのか慎重に言葉を選んでいる。
アルマは小さく頷き、サイフォスは空を仰いで歎息した。
「そしてあのルークはその者を師と仰いでおるのか。どうなっておるんじゃ、何故神とも言われるほどの魔神が人の子なぞを弟子にしておるのだ」
「……すいません、私の口から詳しく言うわけにはいかないのです」
アルマは言葉を濁した。
800年前に封印されたとはいえ未だにイリスは人類にとっての仇敵扱いなのだ。
そんなイリスの元で修行をしているなどと公になればただでは済まないだろう。
「いや、ええよ。これほどのことであればそれなりの事情があることはわかっておるからの。これ以上深くは聞くまいよ。しかし伝承でしか耳にしたことがなかったが、あれがのう……いや長生きはするもんじゃな」
サイフォスはそんなアルマの懸念を察して呵々と笑いながら腰を伸ばし、ゲイルを蹴り飛ばした。
「ぐおっ!な、なんだ!」
「なんだではないわい。もう十分休んだじゃろう、さっさと行くぞ」
「行く?どこへだ?」
気が付いたばかりで事情を知らないゲイルが目を白黒させている。
そんなゲイルに構わずサイフォスは山道を下りて行く、
「決まっているじゃろう、もっと間近で見るんじゃよ。これ以上の見ものは他にないぞ」
◆
「さて、まずはあいつらを引っ張り出さないとだね」
海岸に降り立ったイリスは腕を組みながら海を眺めていた。
リヴァイアサンとクラーケンは沖合100mほどのところからこちらを窺っている。
「水中は奴らの領域だ。ノコノコ入っていったんじゃ餌食にされるだけだよ」
「わかっています。師匠、ちょっと協力してほしいのですがあそこに岬が見えますよね?」
ルークは神獣たちのさらに奥を指さした。
今ルークたちが立っている場所は極端に近寄った2つの岬に囲まれたほぼ真円の形をした湾のような地形になっている。
キールによるとここはかつて女神が2体の神獣と戦った場所で、女神が放った魔法が大地を穿いてこのような地形になったのだという。
ルークはちらりとイリスの方を見た。
どうやらイリスは当時のことなどすっかり忘れてしまっているらしく、無邪気に海を眺めている。
「なるほどね。ルーク、あんたの考えは読めたよ」
イリスはにやりと笑うと腕を前に差し出した。
ルークも左腕を前に突き出す。
「合図するので一緒にお願いします」
「オーケー」
詠唱と共にルークの左腕に刻まれた魔法陣が光を放つ。
「極大爆裂弾!」
左腕から魔法が放たれる。
同時にイリスの腕からも魔力弾が撃ちだされた。
2つの魔力弾は向き合う2つの岬に直撃し、粉々に打ち砕いた。
崩落した岬が湾の入り口をせき止める。
ルークは天高く飛び上がると続けて魔法を放った。
「灼熱光線!」
ルークの放った炎の光線は神獣……ではなく海面に突き刺さった。
高温に当てられた海面が一気に泡立つ。
「なるほど、考えたもんだね。水の中から出てこないんなら向こうから出るようにさせようッてわけだ」
イリスが感心したように口笛を鳴らした。
ルークの魔法が堰き止められてプールとなった湾の水温を上げていく。
「で、あとどのくらいであいつらは出てくる算段なんだい?」
「そうですね……このまま魔法を続けていけば1時間ほどで彼らの我慢できる温度を超えるかと」
魔法を撃ち続けながらルークが答える。
「だああああああっ!長すぎる!」
叫ぶなりイリスが地面に両手をついた。
「沸き立て!」
声と同時に海岸が赤熱していく。
海面がボコボコと泡立つ。
今や堰き止められた湾は火にかけられた鍋の様に沸き立っていた。
「熱ッ!熱ッツッ!」
ルークは慌てて遠くの岩場へと飛び退った。
「し、師匠、もう少しお手柔らかに……」
「そんなまだるっこしいことやってられるかって!おら、さっさと出てこないと煮蛸と煮魚にして食っちまうぞ!」
不意に海面が急激に盛り上がった。
急に日が沈んだように海岸が影で暗くなる。
「よお~し、ようやく出てきたね!」
イリスが得意げに上を見上げた。
ルークも固唾を飲んで上空を眺める。
目の前は小山のようにクラーケンがそびえていた。
「それじゃあ第2ラウンドといくか!」
牙をむき出しながらイリスが吠えた。
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