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第176話:師匠と弟子

「ほんじゃま、いっちょパパっとやっちまいますか」


 イリスが指の骨を鳴らしながら前傾姿勢を取る。


「パパッとって……相手は神獣なんですよ」


 苦笑しながらもルークは不思議と不安を感じなかった。


 隣にイリスがいるからだろうか。


 分体とは言え魔神と呼ばれるイリスだ、神獣といえども相手にならないだろう。


 なにより久しぶりにイリスと一緒に戦えることにワクワクしていた。


「わかってるっての。それにしてもなんであいつら目覚めたんだろう。ちゃんと封印する方法は教えてたはずなんだけどなあ」


「……」


 ルークは黙っているしかなかった。


 まさか人族と魔族の諍いがこの事態を生んだと言うわけにもいかない。


 結果的に再びイリスの助けを借りることになってしまったことに心苦しさを覚えながらもルークは足を踏み出した。


 まずは神獣を何とかするのが先だ。


「と、ともかく行くことにしましょう!」


 一歩踏み出そうとしたその時、背後で砂利を踏む音がした。


 2人が振り向いたのは音がしたからではない、音の主が発する氷の刃のような殺気に当てられたからだ。


「サイフォス……さん?」


 思わず言葉を躊躇うほど、サイフォスは今までとは全く異なる空気を纏っていた。


 例えるなら氷でできた炎とでもいうのだろうか、鳥肌が立つほどの冷気と同時に近づきがたいほどの熱も感じる。


 サイフォスは無言のままゲイルの傍らに膝をつき、その安否を確認していた。



「へえ、人間にしてはちょっとはやるようだねえ」


 イリスが愉快そうに笑みを浮かべる。。


「……まだまだ未熟者とはいえ、一応こやつもそこらの魔族程度は片手であしらうくらいには鍛えておいたつもりなんじゃがの」


 サイフォスがゆらりと立ち上がる。


 何気ない口調だがほんのわずかの隙もない佇まいだ。


「おぬし、ただの魔族ではあるまい。これほどの魔力を持っているとなると魔王かその腹心か、いずれにせよ何用でこの島へ来たのじゃ」


「あたしが魔王だあ?ずいぶんと低く見積もられたもんだね」


 ゲイルの言葉にイリスが牙をむき出す。


 2人の間には放電が起きそうなほどの緊張が走っていた。


「ちょ、ちょっと待ってください、今はそんなことをしてる場合ではないですよ。あの神獣を何とかしないと」


「それもそうだね」


 間に割って入ったルークの言葉にイリスの緊張が一気に解ける。


「元々そのつもりで来たんだし、早いところ片付けるとしますかね」


「そういえば師匠、よく神獣の復活に気付きましたね」


「そりゃまあこいつら魔力だけは馬鹿でかいからね。山で寝てたって気付くってもんよ」


「山……?」


 イリスの言葉にサイフォスが反応する。


 何かを考え込んでいたその眼がやがて驚愕と共に見開かれた。


「……これだけの魔力を持ちながら山にいたというと……お主……まさか……?」


「ようやく気付いたのかい」


 イリスが凶悪な笑みを浮かべる。


「でもあんたの相手をしてやる暇はないよ。あたしは忙しいんだ」


「ま、待ってくれ!お主は本当に……」


 引き止めようとするサイフォスにイリスは振り向くことなく指を突き出した。


「二度は言わないよ。ついでに言うと手出しは無用だ。これはあたしとルークの共同作業だからね。邪魔するようなら容赦しないよ」


「……」


 サイフォスの動きが止まる。


 その言葉が持つ響きに嘘がないことを感じ取ったのだろう。


 サイフォスとの話はこれで終わりだとばかりにイリスがアルマの方を振り向く。


「言っとくけどあんたの手助けもいらないからね」


「私もぉ!?」


 不満げな顔のアルマにイリスが頷いた。


「ちょうどいい機会だ、ルークには1人であいつを討伐してもらうよ」


「ひ、1人で、ですか……」


 ルークの顔が引きつる。


 今さっきまで数人がかりでも苦戦していたものを1人で相手するのは流石に腰が引けた。


 しかも今、あの2体は彼らの領域である海中にいる。


 まずどうやって相手をしたらいいのか、それすらわからない。


 悩むルークの背中をイリスが盛大にどやしつけてきた。


「なんて顔してんのさ!あんたならできると判断したから言ってんだよ!それとも何かい、あたしの言うことが信用できないってのかい?」


「い、いえ、そんなことは……」


 むせ込みながら答えるルーク。


 それは確かにその通りだった。


 イリスとの修業は確かに厳しいものだったが不可能なことを強要されることは決してなかった。


 亜人の山賊を1人で討伐した時も、初めてドラゴンを討伐した時もイリスはルークにそれが可能と判断したからこそやらせたのだ。


 そしてそれが間違いだったことは1度もない。


 イリスができるというのなら自分にはそれができるのだ。


 ルークは自分の両頬を力強く叩いた。


「わかりました!やってみます!」


「それでいいんだよ」


 イリスは満足そうに頷くとルークの肩に腕を回した。


「ほんじゃ、リヴァイアサンの方はあたしが相手してあげるからさ。ルーク、あんたはあのタコ野郎をなんとかするんだよ」


「わかりました」


 クラーケンは今も海中から胴体と腕足をくねらせている。


 おそらくイリスの存在を感じ取って警戒しているのだろう。


 まずはあれを陸まで引き寄せなくては……


 心配そうな顔のアルマがルークのそばに近寄ってきた。


「ルーク、本当に大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。師匠もそう言ってるんだし、きっと何とかしてみせるよ」


 ルークは笑みを返すと再び海岸に目を向けた。


「それじゃあ行くよ!」


 イリスの言葉と共にルークは飛び出した。



いつも読んでいただきありがとうございます!


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