第175話:イリス
「な、なんでここに!?」
「イリス!?」
ルークとアルマが揃って驚きの声をあげる。
2人とも自分たちの見たものを信じることができなかった。
イリスは人類に仇なす魔神として800年間封印されているのだ。
山全体を覆うその封印は魔神イリスと言えども突破することはできない。
しかし2人の目の前にいるのは紛れもなくイリスだった。
「な、な、な……なんで……あ、あ、あんたが……」
「ルゥ~クゥ~、会いたかったよぉ~」
口をあんぐりと開けるアルマを無視してイリスがルークに飛びつく。
「もう、最近全然帰って来ないじゃないかぁ~寂しかったんだからな」
「な、なんで師匠がここに……え?どうやって……?」
「そりゃもちろんルークを助けにさ。愛する弟子の危機を救うのは師匠の義務だからね。あたしが来たからにはもう安心だよ」
驚くルークに構わず頬ずりを繰り返すイリス。
「ちょっと待ったぁ!」
業を煮やしたアルマが2人の顔に手をかけて引き離した。
「なんであんたがここにいるのよ!」
「チッ、やっぱりアルマも一緒かよ」
「チッじゃない!」
わざとらしく眉をしかめるイリスにアルマが食って掛かる。
「そ、そうですよ、なんで師匠がここに?どうやって封印を解いたんですか?」
ルークの驚きはそれだった。
イリスを封印する結界は魔神と言えども数千年は破れないとイリス自身が言っていたくらいだ。
その結界を解除することを目標としていたルークにもどこから手を付けていいのかわからないというのが正直な話だった。
それなのになぜ……?
「ああ、これ?実を言うとこれはあたし本人じゃないんだよねえ」
あっけらかんと言ってのけるイリス。
「??どういうこと?」
アルマがキツネにつままれたような顔をしている。
「依り代を使った分体、ということですか?」
「流石ルーク!よくわかってるぅ!」
イリスが再びルークに抱きつき、アルマがそれを引き離す。
「だからくっつくな!……それで、分体ってなんなのよ?」
「つまりだね、これはイリスによく似せた人形なんだよ。いや、イリスは魔神だから神形と言った方が良いのかな」
「嘘、これが作り物?どう見てもイリス本人にしか見えないんだけど……」
アルマは驚いたようにまじまじとイリスの依り代を眺めた。
どれだけ見ても作り物とは思えない。
瞬きもしているし胸も呼吸で上下しているくらいだ。
「あたしの作るものがそんなにちゃちなわけないだろ」
イリス……の分体が胸を張る。
声も態度もイリスそのままだ。
「つまり依り代であって本人ではないから結界が反応しなかったというわけですか。とはいえここでま精巧な依り代をよく作れましたね」
「ルークがくれたベヒモスの角や古代竜バルタザールの魔石が役に立ってくれたよ。なんせあたしの魂を受け止められる素材なんてそうそうないからね」
「魂を切り離したんですか!」
ルークが唖然としてイリスを見た。
「そりゃそうだろ。魂が外に出なきゃあたしが出たことにならないんだから」
「なんて無茶なことを……」
得意そうなイリスと反対にルークは頭を抱えていた。
「分魂なんて一歩間違えば結界から出るどころか魔神から格落ちしていてもおかしくないですよ!」
魂の一部を切り離す分魂法は失敗すると死亡、運が良くても廃人となってしまう危険な儀式だ。
それはイリスにとっても同じことで、失敗していれば魔神としての形態を維持することができなかった可能性もある。
しかしイリスはそんな危険を冒したというそぶりも見せずにルークを抱きしめた。
「まあまあ、成功したから良いじゃないか。おかげでこうしてルークの感触を山にいるあたしも感じることができるんだからさ」
「……まったく、師匠には敵いませんね」
ルークは苦笑するしかなかった。
「おい、なんで神獣共が急に消えたんだ!……この女は何者だ、どこから現れた」
大声がしたと思うとゲイルがやってきた。
どうやらイリスが神獣2体を吹き飛ばすところを見ていなかったらしい。
突然の闖入者に警戒心を露わにしている。
「この方はイリス、僕の師匠です」
「貴様の師匠?何故そのような者がここにいる」
ゲイルが不躾な視線をイリスに投げつける。
不遜な態度を隠そうともしていない。
「誰こいつ?」
「この方はゲイル殿下、アロガス王国の第一王子です」
ルークがイリスに紹介する。
「ふーんそうなんだ。まあいいや、それよりもさっさとあいつらを倒しちゃおうよ。そんでゆっくり下界を案内してもらおうかな」
しかしイリスは全く興味がないらしく、ゲイルを完全に無視している。
それがゲイルの自尊心に火をつけた。
尊大な態度でイリスの前に立ちはだかる。
「おい、ルークの師匠だかなんだか知らんがこいつは我々の戦力だ。邪魔をするようなら引っ込んでいろ」
「あーもううるさいな。あんたに構ってる暇なんてないっての」
苛立たしそうにそういうとイリスがついと手を持ち上げた。
「あの、師匠……その方は我が国の第一王子ですから、どうかお手柔らかに」
嫌な予感でルークの頬に冷や汗が伝う。
「わかってるっての。そんな危ないことはしないってば」
そう言いいながらイリスが親指と中指で輪を作る。
「ちょっとおとなしくさせるだけだって」
言うなり中指でゲイルの額を弾いた。
「はぐあああああっ!」
ゲイルは縦に回転しながら吹き飛ばされ、大木に激突して完全に昏倒した。
「お手柔らかにと言ったじゃないですかあああ!」
「別に死んじゃあいないってば……たぶん……」
「たぶんじゃないですよ!……良かった、まだ息はあるみたいだ」
ゲイルの様子を確認したルークが安堵のため息を漏らす。
「だから手加減したんだってば。それよりももさっさと片づけちゃおうよ。あいつらそろそろこっちに来る頃だよ」
イリスが指さした先には沸き立つ海面があった。
海面が盛り上がり、巨大な波と共に2つの巨大な山が姿を現す。
クラーケンとリヴァイアサンだ。
ルークはイリスの横に並び立った。
「わかっています。ここでケリを付けましょう」
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