第171話:神獣の目覚め
エラントの叫び声と共に洞窟が大きく揺れる。
「これは……まずいぞっ!」
「エラント!あんた何てことを!」
キールがエラントに掴みかかった。
襟首を捕まえて祭壇に叩きつける。
「あんた何をしたかわかったんの!神獣が目覚めたらこの島なんか簡単に滅んじまうんだよ!」
「滅べばいいんだよ、こんな島なんて」
しかしエラントは薄ら笑いを浮かべるだけだった。
「キール、君が悪いんだ。僕を受け入れてさえいればこんなことにならずに済んだんだから」
「エラント……あんた……」
「どけよ、こうなったらもう巫女である君でも止めることは無理だ」
乱暴にキールを払いのけるとエラントはフラフラと立ち上がった。
「全く、どいつもこいつも……僕の邪魔をしやがって」
エラントは虚空を見つめながらブツブツと呟いている。
洞窟を揺るがす振動は尚も続いている。
「この島の連中も、本土の連中も誰も僕の価値をわかっていないんだ……もっと僕に相応しい立場を与えていればこの島だってもっと豊かになれたのに……そんなこともわからないからこんなことをする羽目になったんだ。これはこの島のみんなが選んだ選択だ」
湖面に波紋が大きく広がっていく。
「キール!今すぐ湖から離れるんだ!」
ルークが叫びながら走り出した。
「僕を認めないならこんな島なんかなくなってしまえばいい!!」
湖面が大きく盛り上がったかと思うと爆発するように巨大な水しぶきが上がった。
「危ない!」
ルークがキールを抱えるようにして横に飛んだのと同時に水の中から飛び出した巨大な腕がエラントに巻き付いた。
言葉を発する間もなくエラントが水中に飲み込まれる。
「エラント!」
「逃げるんだ!ここはもう持たない!」
ルークは小脇にキールを抱えたまま走り出した。
タイラを抱き上げたアルマがその後に続く。
今や洞窟を襲う振動は立っていられないほどに大きくなっていた。
天井から大きな岩石がバラバラと降ってくる。
「ああっ!」
叫び声に振り向くとアルマが巨大な腕に巻き付かれているところだった。
「アルマ!」
「ルーク!この子をお願い!」
ルークにタイラを投げ渡したと同時にアルマが鎧に包まれる。
「ぬおおおおおおっ!!」
全身の力を振り絞って巨大な腕に抗うアルマだったが展鎧装輪の力をもってしても徐々に洞窟の奥へと引きずり込まれようとしていた。
「アルマ!鎧を解除するんだ!」
展鎧装輪を解除した一瞬、腕の締め付けが緩む。
「雷撃弾!」
その隙にアルマを救いだしたルークが腕に向かって魔法を放った。
「崩壊!」
雷撃を食らって一瞬ひるんだ隙に土魔法で洞窟を塞ぐルーク。
「今のうちに逃げ出すんだ!」
4人は洞窟の出口に向かって走り出した。
◆
ルークたち4人が洞窟を飛び出したのと同時に巨大な地震が島を襲った。
すぐ後ろで洞窟が崩壊していく。
「あ、危なかった~」
「安心するのはまだ早いぞ!急いでここから離れるんだ!」
ルークは3人を急き立てるように山を駆け下りていった。
足元の揺れはますます酷くなっていく。
「ルーク!あれを見て!」
アルマの叫び声に振り向くと山の中腹が音を立てて崩れ落ちていくところだった。
土煙が山全体を覆わんとしている。
そして、その中で何かが蠢いていた。
「な、なんだあっ!?」
濃霧のような土煙の中で蠢くもの、それは蛇のようにのたうつ幾本もの腕だった。
「あれが……神獣」
ルークは固唾を飲んでそれを見守っていた。
山を砕きながら神獣がその姿を現そうとしている。
木が生えたままの地表を乗せたその胴体はまるで山が動いているかのようだ。
その下では塔のような太さの腕が蠢いている。
胴体と腕の間の両目は何の感情も持っていないかのように黒く濁っている。
神話で語られた海の怪物が目の前にいた。
「あれが……神獣クラーケン」
騒ぎを聞きつけてやってきたクランケン氏族もその威容を前にして痺れたように動けなくなっている。
クラーケンの体が大きく震えた。
「いけないっ!」
危険を察したルークが防御魔法を展開する。
クラーケンの腕が森の木々を薙ぎ払いながらルークたちに襲い掛かった。
「ぐううぅっ!!」
多重に展開した防御魔法が薄氷の様に砕かれていく。
辛うじて抑え込みはしたもののたった1本を防ぐだけで精いっぱいだ。
身動きできないルークの頭上にもう1本の腕が降ってきた。
「くおのおおおおっ!!!」
展鎧装輪を纏ったアルマがその腕を受け止める。
アルマの足が膝まで地面に埋まる。
「アルマッ!大丈夫!?」
「くううううっ……な、なんとか!」
アルマは崩れ落ちそうになりながらなんとか耐えている。
そこにもう1本の腕が振り上がるのが見えた。
空を切る鈍い音を立てながら腕が振り下ろされる。
「うわああぁぁぁっ!」
なす術もなくいよいよ覚悟を決めようとしたその時、ルークの頭上で腕が両断された。
「んなっ!?」
「やれやれ、のんびり隠居暮らしをしていたというのにとんだ大物が現れたもんじゃのう」
切り落とされた腕の上に剣を手にした人影が佇んでいる。
それはかつて剣聖と呼ばれた人物、今はゲイルの師となったサイフォス・スパーサだった。
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