第167話:ガストン
ガストンの話によると元々リヴァスラ氏族は魔族寄りというよりは独立寄りで魔族人族どちらにも公平に魔石を供給すべきだという意見が多かったという。
しかしクランケン氏族が突然魔石は人族に優先すべきだと言い始め、そこから両者の仲がこじれていったらしい。
「不思議ですね。エラントはリヴァスラ氏族が魔族に加担したことが発端だと言っていましたが」
「あの優男、平気な顔で嘘をつきやがって!」
ガストンが吠えた。
「クランケンの奴らはより高値で魔石を売りてえだけなんだよ!あっちは俺たちほどいい漁場を持ってねえからな。魔石の売り上げが奴らの死活問題なのよ。それを人族に目を付けられちまったのさ。まったく馬鹿な連中だぜ」
「でもあなた方が魔族側についているのは事実なのでは?」
「そりゃ老いぼれ共だけだっての!」
ガストンが大きくため息をつく。
「老いぼれ共は自分たちに魔族の血が流れていることが唯一の誇りなのよ。それで魔族にそそのかされてのぼせ上っちまってんのさ。俺に言わせりゃとんだ道化だよ」
「なるほど……」
ルークは顎をつまんで考え込んだ。
クランケン氏族はリヴァスラ氏族が魔族にそそのかされたと言い、リヴァスラ氏族はクランケン氏族が人族にそそのかされたと主張している。
どちらかが嘘をついているのだろうか……もしくはどちらも真実を言っている可能性もある。
しばらく考え込んでいたルークだったが、やがて頭を振ると立ち上がった。
「悩むのは後にしよう。今はキールを助けに行かないと」
「ほ、本当に助けに行く気なのかよ」
ガストンが冷や汗を浮かべながらルークを見上げる。
「もちろんです。こっちには優秀な道案内もいますから。さ、タイラ、ここからどう行ったらいいか教えてくれないかな。早く行かないと日が暮れてしまうからね」
ルークはタイラの肩に手を置いて微笑んだ。
「ま、待ってくれ!俺も連れて行ってくれ!」
踵を返そうとしたルークの足元にガストンが縋り付く。
「先ほども言いましたがあなたたちを連れていくと事態がややこしくなるだけなんです。申し訳ありませんが……」
「わかってる!それでも行かせてくれ!この通りだ!」
ガストンは引き下がろうとしなかった。
それどころか頭を地面にこすりつけて懇願すらしてきた。
「あんたが強えことは思い知った!俺が言っても無駄だってことも、むしろ迷惑になるってこともだ!それでもついていくことを許してくれ!この通りだ!」
「それは……いや、でも……」
必死に頼み込むガストンにルークは困惑するしかなかった。
ガストンが嘘をついていないことはわかる。
しかし何故そこまでしてキールにこだわるのだろうか。
「なんでそんなにキールにこだわっているんですか?巫女であるキールを一族の御旗に据えるつもりなら認めるわけには……」
「惚れてんだよ!」
ガストンが叫ぶ。
「俺はキールに惚れてんだ!好きなんだよ!惚れた女が捕まったと聞いたら助けに行くしかねえだろ!」
必死になって懇願するガストンの後ろで仲間たちがうんうんと頷いている。
「頼む!エラントの野郎にキールが捕まったと聞いて居ても立ってもいられねえんだよ!あんたらに迷惑はかけねえ、言うことだって聞く、だから俺にキールを助けに行く手伝いをさせてくれ!」
「……わかりました」
肩をすくませながらルークが頷く。
「ただしついてくるのはあなた1人だけにしてください。大勢で行くとそれだけ目立つので。それから先走らないこと、これだけは約束してください」
「も、もちろんだ!たった今から俺はあんたの弟分だ、命令とあらばなんだって聞くぜ!」
「いや、弟分というのは勘弁してください」
目を輝かせるガストンにルークはため息をつきながら立ち上がった。
「それでは早いところ出発しましょう。キールがどうなるかわからない以上早く助けるに越したことはない」
ルークたちはガストンの仲間たちに別れを告げると再び森の中を進んでいった。
◆
「神獣を復活させる!?」
思わず声をあげてしまったことに気付いて慌てて口をつぐんだものの、ルークはたった今ガストンが言ったことを信じられずにいた。
「ああ、エラントの野郎は島に封印されてる神獣を目覚めさせるためにキールを使おうって肚らしいんだ」
ガストンが言葉を続ける。
「昔からこの島では巫女が神獣を鎮める役目を持ってんだ。つまり逆に言やあ目覚めさせることも可能ってことだな。とはいえ今までそんなことをした巫女はいねえから本当にできるかどうかはわからねえけどよ」
「なんて無茶なことを……」
ルークの頬を冷や汗が伝う。
ルークの脳裏には1年前のベヒーモスとの戦いが今も焼き付いている。
あのクラスの神獣が蘇ってしまえばこの島とて無事では済まないだろう。
「ルーク……」
「大丈夫だよ、まだそんなことができると分かってるわけじゃないんだ。それにその前にキールを助け出してしまえばいいんだしね」
心配そうな顔で見つめるアルマに微笑むとルークは厳しい顔で前を見つめた。
「でもこれでますますキールを助けなくちゃいけなくなったみたいだ。それもできるだけ早く」
いつも読んでいただきありがとうございます!
「面白い」「もっと読んでみたい」と思われたら是非とも広告の下にある☆☆☆☆☆を★★★★★へとお願いします!
モチベーションアップにつながりますので何卒よろしくお願いします!