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第165話:エラントの乱心

 クランケン氏族の村の奥深くには崖の下にできた自然の風穴を利用した牢獄がある。


 氏族の掟を破った者や敵を閉じ込めておくためのもので、中で枝分かれした支道が独房となっている。


 そしてそこにキールは閉じ込められていた。


「チクショウ!こんなところにあたしを閉じ込めやがって!さっさと出しやがれ!」


 風穴の中にキールの怒鳴り声が響き渡る。


 ここに閉じ込められてから既に3日が過ぎようとしていた。


「キール、残念だけど君を出すわけにはいかないんだ」


 鉄格子の前に人影が現れた。


「エラント!これはどういうつもりだよ!」


 目の前に現れたエラントに食って掛かるキールだったが鉄格子がその行く手を阻む。


「僕だって本当はこんなことしたくないんだ」


 エラントは悲しそうに首を振った。


「ふざけんな!だったらさっさと出しやがれってんだ!ダリル族長、あなたからも言ってやってくださいよ!こんなことが許されていいはずがないでしょ!」


「し、仕方がないのだよキール。これはもう決まったことなのだ」


 エラントの後ろに控えていた小太りの中年男が汗を拭きながら答える。


 クランケン氏族の族長、ダリル・ダグマイル・クランケンだ。


「キール、もう手遅れなんだ。リヴァスラ氏族は魔族からの援助で強大な戦力を手に入れている。このまま手をこまねいていれば僕たちクランケン氏族は奴らの奴隷だ。そんなことが許されるわけないのは君にだってわかっているはずだ」


「だからって……あたしが認めるわけないでしょ!あんな……あんなことを……」


 キールは口にするのもおぞましいというように肩を震わせた。


「……神獣の封印を解くなんて!」


 キールが島に戻ってきた時には状況は既に取り返しのつかない所まで来ていた。


 リヴァスラ氏族が両氏族の併合を要求してきたのだ。


 併合とはいってもそれは名ばかりのもので、その内容は島の魔石鉱山の管理権をリヴァスラ氏族に委ねる、取引先もリヴァスラ氏族が指定するという一方的かつ不平等なものだった。


 当然そんな要求を呑めるはずもないクランケン氏族だったが、リヴァスラ氏族は圧倒的な武力でもってそれをねじ伏せてしまった。


 幾度かの小競り合いでなす術もなくやられたクランケン氏族はもはや完全降伏以外に生き延びる術はなかった。


 そしてキールが戻ってきた時に現状を打開するために巫女の力で神獣を復活させてほしいと懇願されたのだった。


「僕だって本当はこんなことしたくない。でももはやどうしようもないんだよ。彼らに対抗するにはより巨大な力を手に入れるしかない」


「そんなことできるわけないだろ!族長だって知ってるはずでしょ、神獣の封印を解いたら何が起こると言われているか」


「そ、それはその通りなのだが……だからと言ってこのままでは我々の暮らしが危ういのだよ……」


 ダリルが困ったように汗をぬぐう。


「”1つの神獣目覚める時、対なすもう1つの神獣も目覚める”という言い伝えのことだね」

 エラントがキールを見ながら話を続けた。


「それなら大丈夫。目覚めさせると言っても完全じゃなくていいんだ。巫女の力を持つキールだったら神獣を半覚醒状態にするも可能なはず。とにかくリヴァスラ氏族にこちらは神獣という切り札があると分からせるだけでいいんだ。何も危険なことなんかないんだよ」


「とにかく嫌なものは嫌だ!」


 キールの意志は強固だった。


「だいたいこんなところに閉じ込められて無理やりやれと言われて素直にハイなんて言えるもんか!」


「キール、あまりわがままを言わないでくれないか。君だってクランケン氏族の一員じゃないか。一族の事を思うなら多少は自分のポリシーを曲げてくれたっていいとは思わないか」


「それとこれとは話が別じゃないか。本当に一族のことを考えてるんならなんでもっとリヴァスラ氏族と争うようなことをしてるんだよ。だいいち今の諍いだって魔族と人族のどちらに付くかなんていうことを言い出したのが問題であって……」


「いい加減にしろよ!」


 エラントが鉄格子に拳を叩きつけた。


「キール、君は何もわかっていない!僕が奴らとの交渉でどれだけ苦労をしてきたと思ってるんだ!いいか、君が協力しなかったらその苦労も水の泡なんだ!君は君のつまらない意地のせいで一族の未来まで奪おうとしているんだぞ!」


 吠えるようにまくしたてると鉄格子にくっつくほどに顔を寄せてキールを睨み付ける。


 しばらくの沈黙の後でキールが小さくため息をついた。


「……エラント、それも誰かに言われたんでしょ」


 キールの言葉にエラントとダリルがギョッとしたように目をむいた。


「な、なにを言っているんだ!?僕は誰かにそそのかされたわけじゃないぞ」


「隠す必要なんかないよ。あんたが人族と連絡を取り合っているのは周知の事実なんだから。おおかたそいつに言われたんでしょ。キールという小娘を説得したらこの島はクランケン氏族のものだって」


「ち、違う!これはこの島のことを思って僕が選択したことだ!」


「エラント、それならはっきりとあたしの眼を見て言いなよ。これは人族も自分の私欲も関係ない、純粋にこの島のことを思っての決意だと」


 キールがエラントを見つめた。


 その真っすぐな視線にエラントが目を逸らす。


「と……とにかく、僕たちクランケン氏族が生き延びるにはそれしか方法がないんだ。もう時間はあまり残っていない、もう一度よく考えてみてほしい。ま、また来るから」


 口ごもるようにそう言うと居心地悪そうに踵を返し、洞窟の外へと去っていった。


 ダリルもその後を追いかけていく。


「こら!あたしをいつまでこんなところに閉じ込めておく気なんだ!さっさと出しやがれってば!」


 キールの怒鳴り声が人気のない風穴にこだましていった。



いつも読んでいただきありがとうございます!


「面白い」「もっと読んでみたい」と思われたら是非とも広告の下にある☆☆☆☆☆を★★★★★へとお願いします!


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