第157話:森に潜む罠
バルバッサに問い詰められたルークは慌てて言い繕った。
「その……実は僕の固有魔法は追跡なんです。貴族として役に立つ魔法ではないんですけど、狩りやこういう時には便利なんですよ」
「……そのような固有魔法があるのか。俄かには信じられぬが、確かに跡が付いているな」
「この傷の後からして連中がここを通ったのはそれほど前ではないようです。おそらく1時間、どんなに前でも2時間は超えてないでしょう」
「そんなことまでわかるというのか……」
バルバッサはしばらく考え込んでいたがやがて顔をあげると3名の兵士を呼び寄せた。
狐型の獣人とダークエルフ、ハーフリングだ。
「キツネ、貴様はこの木の根についた傷の後を追っていくのだ。ファリグ、貴様はその右、ロッグはその左だ。1時間経っても何も見つからないときは戻ってこい」
3名の兵士は静かに頷くと踵を返した。
「待ってください」
その兵士たちをルークが呼び止める。
「なんだ、まだ何かあるのか」
「いえ……ひょっとしたら連中は魔法による侵入探知をしているか罠を張っている可能性もあります。それは気を付けた方がいいかと」
「……ならばこれを持っていけ」
バルバッサが3名の兵士に青い魔石が付いたブレスレットを手渡す。
「魔法探知用の魔具だ。その魔石が赤く光ったら即座に引き返すのだ」
3名は緊張したように頷くと今度こそ森の中へと消えていった。
バルバッサがルークをじろりと睨み付けた。
「あれは魔族秘蔵魔具の1つだ。あれを使わせるために言ったのであるなら容赦はせんぞ」
「まさか、足跡を隠すほど用心している連中ならその可能性があると言いたかっただけです」
「……食えん奴だ。だがまあいい。今のうちに休息をとっておけ」
バルバッサはそういうと部下の方へと戻っていった。
「ルーク、何か視えたの?」
アルマが心配そうな顔で近寄ってきた。
「山賊の数は25人、おそらくここから1時間もしない場所にいるはずだよ。でも用心した方が良いね。これはただの山賊じゃないみたいだ」
ルークが小声で答える。
山賊たちは恐ろしく念入りに痕跡を消しているがルークの目には森の中に続く足跡がはっきりと見えていた。
しかしただの山賊がここまでするだろうか?
しかも魔法的な隠ぺいまで行っている。
それは普通の山賊からは考えられない行為だ。
ルークの胸裏で嫌な予感が頭をもたげようとしていた。
それから小一時間もしないうちにキツネが戻ってきた。
「領主様、魔石が赤く光りました」
討伐隊の間に静かなどよめきが広がる。
「本当だったようだな」
バルバッサがルークに目をやりながら呟いた。
しばらくして斥候に行っていたダークエルフとハーフリングが戻ってきたがこちらは空振りだったらしく、目ぼしい報告はなかった。
「決まりだな。どうやら相手は魔法を使う者がいるようだ。これから先は私が先導する。私が通った場所以外には足を踏み入れるな」
バルバッサはそう言うとローブを翻して森の中へ入っていった。
魔界の領主を務めているだけあってバルバッサの実力は本物だった。
巧妙に隠された罠や探知用の魔法陣を的確に探して無効化していく。
「流石だね、何も知らずに入っていたら5分もしないうちに僕らの位置はばれてたと思う」
ルークが隣を歩いていたアルマとキールに小声で話しかけた。
感心するルークにキールが不思議そうな顔を返す。
「そうなの?あたしには何もわからないけど」
「それが凄いところなんだよ」
ルークが感心したのはバルバッサの正確さと早さだった。
巧妙に隠蔽された魔法陣を発見するだけでなく即座にそれに対応した魔法式を組み上げて無効化している。
しかも少しでも魔法式が間違っていればあっという間に相手にばれてしまうというのに歩くペースを乱すことなく行っているのだ。
傍から見れば普通に歩いているようにしか見えないだろう。
しかしそこには人族であれば最高位の魔導士にしか使えないような高度な魔法が行われている。
「これが魔族の魔法なのか……」
ルークは改めて魔族の持つ魔力に感歎のため息をついた。
「ふん、世辞などいらぬ」
ルークの言葉を聞きつけたバルバッサがつまらなそうに呟く。
「それよりも貴様、私が何をしているのかわかっているのなら少しは手伝ったらどうなのだ。こんな雑事にいつまでもかかずらう気はないぞ」
「わかりました」
ルークはバルバッサの横に立つと並んで歩きだした。
「前方10メートルほど先に魔法陣が1つ、それから斜め右の木の上には攻撃用の魔法陣があります。あれは通過すると爆風を撒き散らすタイプですね」
「……貴様、本当に何者なのだ。ただの人間がどうしてあれを見分けられる」
指先を軽く振るって魔法陣を消し去りながらバルバッサがルークを睨み付ける。
「あ~、いえ、ほら少し枝や藪に隙間があるじゃないですか。魔法陣の影響でああいう風になることが多いんですよ。追跡の固有魔法だとそういうのもわかるんです」
「……本当だろうな」
バルバッサは信じていないようだ。
そのバルバッサの目の前をルークの拳が通り抜ける。
その手には矢が握られていた。
今しがた発射されたかのように矢羽が細かく震えている。
「!?」
「安心してください、仕掛け矢のようです。誰かが狙っている気配はありません」
ルークはそう言うと後ろを振り返った。
「不安かもしれませんが藪の中は調べない方が安全ですよ」
「す、すいません!」
後ろを歩いていた兵士が真っ青な顔で頭を下げる。
「……礼を言うぞ」
「いえ、当然のことをしたまでです。それよりもこれだけの仕掛けをしているということは野営をしてるのかもしれませんね」
ルークはにこりと笑うとバルバッサの隣を歩き始めた。
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