第156話:討伐隊
「よろしい、討伐は3日後に行うこととする。成功した暁にはその場で貴様らを解放してやろう。それまでせいぜい英気を養っておくのだな」
満足そうに頷くとバルバッサはこれ以上話すことはないというように立ち上がった。
「お待ちください」
ルークの言葉に部屋を出ようとしたバルバッサの足が止まる。
「なんだ、まさか保証が欲しいとか言い出すつもりか。私は貴様ら人族と違って一度口にしたことを違えることはないぞ」
「そうではありません。僕らを拿捕した巡視艇を捜索することをお勧めしたいだけです。あの船には海賊たちが出入りしている痕跡がありました。おそらく船倉に隠し部屋があるはずです」
拿捕されて連行されるときにルークたちはバラバドの巡視艇の中に拘束されていた。
その時にドーキンたちの足跡が船の至る所にあることを解析していたのだ。
ドーキンの足跡は船倉へと続いていた、ということはおそらく奪った物資をバラバドに横流ししていたのだろう。
その言葉に毒気を抜かれたようにルークを見ていたバルバッサは自分が呆気に取られていることに気付いてふいと顔をそむけた。
「面白いことを言う奴だ、だが覚えておいてやろう」
それだけいうと今度こそ本当に部屋を去っていった。
◆
「ルーク、どうしちゃったのさ、あんな奴の言うことを聞くなんて!」
山賊討伐までの間に滞在するようにあてがわれた部屋の中でキールが呆れたような声をあげた。
「あたしはともかく、あんたたち2人だったら貴族なんだからすぐに解放させることだってできたはずなのに」
「いや、それはどうだろう。どうも彼、バルバッサは元々僕らを山賊討伐に差し向けることが目的だったような気がするよ」
手持ちの荷物を確認しながらルークが答える。
旅行だから日用品しか持ってきていないものの、ルークには左手の義手が、アルマには肌身離さず身に着けている展鎧装輪がある。
とはいえ魔族にそれを見せるのは控えたい。
となると最低でも武器防具は向こうに用意してもらう必要があるだろう。
「だったら尚更だよ!なんであんないけ好かない奴の言うことなんか聞くのさ!」
「それなんだけど、実のところ僕はバルバッサがそれほど悪い人……じゃなくて魔族だとは思えないんだ」
荷物をチェックしてソファに身を投げ出したルークが答える。
「確かに態度は尊大だし人族を嫌ってるのも間違いではないと思う。でもそれ以外は至って公明正大だったと思うよ」
「そうかなあ?」
ルークの言葉にキールが眉を吊り上げる。
「私もキールに賛成。私たちを利用したいだけにしか見えないんだけど」
アルマも怪訝な顔をしている。
「それは否定しないけどね」
ルークは苦笑しながら肩をすくめた。
「でも少なくともあの仕合で彼は本気で僕を倒す気はなかったよ。それに君たち2人に攻撃魔法が向かわないように手加減もしていた」
バルバッサは本気でやれと言っていたが、当の本人からは本気の殺意を感じなかった。
それどころかルークが誰かを背にしている時は魔法を撃つこともなかった。
あれは単に自分の腕がどれほどのものか試したかっただけなのだろう。
ルークにはどうにもバルバッサが評判通りの人物であるとは思えなかった。
「ルークがそう思うんならいいけど……」
キールはなおも納得していないようだ。
「まあまあ、とにかくその山賊を討伐してしまえばみんなで胸を張って帰れるわけだし、今は3日後に備えるとしようよ」
◆
ルークたちが魔界に来て3日、いよいよ山賊討伐の日がやってきた。
この討伐には3人の他に10名ほどの兵士が参加することになっていた。
コボルト、オーク、獣人など様々な魔族や亜人で構成された混成部隊で全員普段着に身を包んでいる。
これは道中で山賊たちに討伐を悟られないためだ。
ルークたちも武器防具は支給されているが全て行李の中に隠し、身に帯びているのは旅装のみだ。
そこへ走竜に跨ったバルバッサがやってきた。
バルバッサも目立たないように地味なローブを目深に被っている。
「臆さずに来たようだな」
騎上からルークを見下ろしている。
「閣下も参加されるのですね」
「当然だ。貴様ら人族が山賊に与していないという保証はまだないのだ、他に誰が貴様らを監視するというのだ」
つれなくそう言うとバルバッサはローブを翻した。
「では行くぞ!目指すはバーランジー川上流だ!」
討伐部隊はアロガス王国との国境にもなっている川沿いを上へ上へと登っていった。
「山賊は決まった拠点を持たずに常に移動していると聞く。虱潰しに探していくしかあるまい」
「たぶんこっちだと思いますよ」
藪を切り分けながら忌々しそうに呟くバルバッサにルークが森の奥を指さす。
「貴様に何故そんなことがわかる」
「あ……いや、ほらこちらの木の根元に微かに傷が付いていますよね。これは靴を履いた何者かが踏みつけた後です。山賊は足跡をつけないように用心しているようですが無意識的に木の根を踏むのが癖になっている者がいるようです。内臓が悪いのかもしれません。ともかく後を追う助けにはなっています」
「……貴様、何者なのだ。ただの貴族に何故そこまでのことがわかる」
バルバッサが訝しむようにルークを見つめてきた
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