第154話:バルバッサの条件
「ルーク・サーベリー、貴様の話は聞いている。なんでもベヒーモスを倒したとそうだな」
バルバッサが唐突に切り出した。
「あれは僕1人の力ではありません。僕だけでは倒せませんでした」
魔界にまで噂が広まっていることに内心驚きながらもルークは謙遜して肩をすくめた。
「ベヒーモスは人族程度が協力して倒せるほど甘い存在ではない。絶大な力を持った者でもいない限り軍隊を率いたところでかすり傷一つ負わせられぬ」
バルバッサはルークを睨み付けた。
「度を過ぎた謙遜は不遜と変わらぬ。いやそれ以上に醜悪だ。貴様は謙遜という名の謀りをしているにすぎぬ。それは相手を嘲笑しているのと同じだ」
「そんなことは……」
「ならばそれを態度で示してみるのだ。ついてこい」
言うなりバルバッサは立ち上がると出口に向かって歩いて行った。
「?」
「わからない、でも僕らについてこいと言ってるみたいだ」
顔を見合わせたルークたちは急いでバルバッサの後をついていった。
バルバッサが向かったのは城の中庭だった。
噴水が涼やかな水しぶきをあげ、その周囲には背の低い庭木が鮮やかな花を咲かせている。
しかし今のルークにその美しい風景を愛でる余裕はなかった。
両手に剣を持ったバルバッサが待ち構えていたからだ。
バルバッサは片手の剣をルークに投げてよこした。
「取れ、貴様の強さを私に証明して見せろ」
「無茶を言わないでください!なんで僕が閣下と剣を交えないといけないのですか!」
これには流石のルークも慌てるしかなかった。
領海侵犯ならともかく、剣を交えるとなると冗談では済まされない。
流血沙汰にでもなれば本当に国際問題になりかねない。
「閣下、閣下は僕を買い被りすぎです!僕はあなたと剣を交えるほどの者ではありません。どうかお考え直してください」
頑として断るルークにバルバッサが静かに口を開いた。
「ならば貴様は自分の主君の言葉が嘘であるというのだな」
「な、何を言っているのですか……?」
「言葉の通りだ。貴様は忠誠を誓った己が主君の言葉を否定しようとしているのだぞ」
「馬鹿な……」
フローラ様がそんなことを言うはずない、という言葉をルークは何とか飲みこんだ。
実際にフローラがバルバッサに話したかどうかは問題ではないのだ。
その言葉を持ち出された時点で断る選択肢が消えたことをルークは悟っていた。
「……わかりました」
ルークはため息とともに剣を取り上げた。
「それでいい」
バルバッサが剣を構える。
「言っておくが手を抜こうなどとは考えるなよ。貴様が私に手心を加えたと判断した時は貴様もそこにいる2人の娘も我が領土から出られるとは思わぬことだ」
「わかっています」
むっつりと答えながらルークは剣を構えた。
もとより本気でやるつもりだった。
というか珍しくルークは腹を立てていた。
魔界の領主とはいえ傍若無人なバルバッサの言動にいい加減うんざりしていたのだ。
「いくぞ!」
バルバッサが飛び掛かってきた。
一般的に魔族は人族よりも魔力身体能力ともに秀でている。
中でもバルバッサのような純粋魔族は並の人間だったら100人いようが敵う相手ではなかった。
しかしそんなバルバッサの嵐のような攻撃をルークは完全に凌いでいた。
「なかなかやるな!ではこれならどうだ!」
バルバッサの手から魔力弾が撃ちだされる。
詠唱のような非効率な方法を使わずに魔力を攻撃に用いる純粋魔族にしかできない能力だ。
しかしルークはそれすらも寸前でかわしてみせた。
後ろに逸れた魔力弾が噴水を破壊する。
噴水の水がバルバッサに向かって噴き出した。
それを機にルークが攻撃に転じる。
「グ……貴様……これほどとは」
一転してバルバッサは防御に回るしかなくなった。
「凄い……バーランジー卿が守勢に回るなんて……」
キールは目を丸くしながら2人の戦いを見守っていた。
「軍隊でかかってもバーランジー卿には敵わないと言われているのに」
「だってルークだもん、あのくらいの戦いなら何度もしてきてるんだから」
アルマが得意そうに胸を張った。
「あのくらいって……ルークって何者なの……」
「小癪な!」
バルバッサが左手を突き出した。
全ての指先に魔力弾の輝きが灯る。
「無駄です!」
ルークが左手を突き出すと同時にバルバッサの魔力弾が消える。
「なにっ!」
ルークの無効化魔法がバルバッサの魔力弾を消し去ったのだ。
「はあっ!」
気合と共にバルバッサの剣が弾き飛ばされた。
「まだまだぁっ!」
バルバッサがルークの剣の刀身を掴む。
鋼で出来た刀身が粉々に握りつぶされた。
「これでどうだ!」
魔力を込めた右手がルークに襲い掛かる。
その拳が届く瞬間、ルークの左拳がバルバッサのこめかみを打ち抜いた。
「ぐはっ……」
バルバッサの体がぐらりと揺れる。
追撃の右拳がバルバッサの顎に襲い掛かる。
顎を打ち砕く寸前のところでその拳が止まった。
「これで納得していただけたでしょうか」
ルークの静かな声が中庭に響き渡った。
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