第153話:魔界へ
「クソ、ドーキンの奴め、余計なことをしおって!」
バラバドは足音を荒げながら船長室を歩き回っていた。
「アロガス王国の貴族だと?なぜそんな奴らと因縁を持っていたんだ。おかげで殺す羽目になったではないか」
人族に手出しができない領海内で海賊行為を見逃すかわりにそれ相応の報酬を受け取るというバラバドとドーキンの蜜月はルークという闖入者によって終わりを迎えてしまった。
あの場でルークを殺すという選択肢も考えたが、そうなると全員皆殺しにしなくてはならなかった。
さすがにそれはバラバドの手に余る決断に思えた。
そこでとりあえずこうして魔界に連れていくことにしたのだ。
ドーキン亡き後バラバドの汚職を証言するものもいない。
ならばあとの処置は上のものにやってもらった方が手間が省けるというものだ。
「願わくばこの国から出さないでほしいものだな」
一人呟きながらバラバドはなおも落ち着かない様子で歩き回るのだった。
船は一晩かけて魔界のバーランジー領ノースポートへとたどり着いた。
「ここが魔界か~」
タラップから降りたルークは目を輝かせながら辺りを眺めまわした。
同じ港町であるイアナットと雰囲気は似ているが同時に明らかな違いもあった。
まず人が全然いない。
周囲を歩き回っているのは獣人、妖精族、更にはアロガス王国では見たこともない奇妙な風体の魔族もいる。
隣国だというのにまるで別世界のようだ。
「アルマ、あれを見てごらんよ!あれは腕を4本持ったクアーム族だよ!本以外で見るのは初めてだ!あそこにいるのはハルピュイアだ!それにゴブリンも!こっちだと他の魔族と一緒に暮らしているんだね」
「いい加減にしてもらおうか」
バラバドがため息をついた。
「貴様らはこれから領海侵犯の廉で取り調べを受けることになるのだぞ。もう少し神妙にしてみたらどうだ」
「すいません、でもなにせ魔界に来るのは初めてなもので」
謝りながらもルークはキョロキョロと辺りに目を配っている。
「ほら、あのドアを見てみてよ!僕らの国のドアよりも断然大きいよ。きっとオークやトロルも利用するからなんだ!」
「……さっさとこいつを連れていけ」
うんざりした顔でバラバドは待ち構えていた憲兵にルークを引き渡すのだった。
◆
ルークたちが連れていかれたのは巨大な石造りの城だった。
城を見たとたんキールの顔がこわばる。
「おかしい、なんであたしたちがここに連行されるんだ?あたしたちは領海侵犯をしただけのはずだぞ」
「まさかここは……」
ルークの言葉にキールが頷いた。
「ここはバルバッサの城なんだ」
「ここが……」
ルークも固唾を飲んでそびえる城を見上げた。
バルバッサ・バーランジー、パーティーで少し話をしただけだったがかなり癖のある性格をしている印象だった。
なにより人族嫌いを全く隠そうとしていない。
「これは一筋縄ではいかないかもね」
知らず知らずのうちにルークはそう呟いていた。
城の中へと連行されたルークたちはしばらくして謁見の間へと案内された。
謁見の間の上段からバルバッサがルークたちを見下ろしている。
「貴様らか、厚かましくも我が領海内に侵入してきた者共というのは」
バルバッサが苦々しい顔で吐き捨てた。
「まさかアロガス王国の貴族ともあろう者がこのような方法で入り込んでくるとはな。どうやら人族は魔族の法律など守るに値しないと考えているらしい」
「閣下、私の話を聞いていただけますか」
「聞けば貴様らの罪が軽くなるとでも思っているのか」
「いえ、しかしあなた方魔族も我々と同じく法で国を治めているのであれば裁くためには事実が必要となるはずです」
ルークの言葉にバルバッサが眉をピクリと持ち上げた。
「小癪なことを言うではないか。ならば話すがいい。せいぜい己が身の潔白を証明してみせるのだな」
「わかりました。それではご説明いたします」
ルークは身を起こすと今までの経緯を話し始めた……
◆
「ふん、貴様の言い分はわかった」
ルークの話を聞き終えたバルバッサは面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「海賊に襲われていた人族の船を助けるために止む無く我が領海内に入ったと、そういうわけか。しかしそれは貴様らの都合の話であって我々には関係ないことだ」
「しかし救助の際には領海を越えることも認められていると聞きましたが」
「それはあくまで救助だ。海賊行為を摘発する行動は含まれていない。むしろ貴様らのしたことは明らかな越権行為だ」
「言いがかりだ!そんなことを言いだしたら……」
「落ち着いて」
ルークは抗議の声を上げるキールの口を慌ててふさいだ。
「しかし我々は商船からの救難信号を見た以上行動せざるを得なかったのです。閣下は越権行為と言われましたが危険を排除するのも救助行為の範疇に入るはずです」
「小賢しいことを……」
バルバッサがルークを睨み付ける。
「だが貴様らの行為を救助と認めたとしてもすぐに帰すわけにはいかん。まずは徹底的に調査をすることになるだろう。1か月は覚悟しておくのだな」
その言葉にキールが悲鳴を上げる。
「そんな!あたしはいいけどせめてこの人たちだけでも帰しておくれよ!ルークとアルマはあたしの決定に巻き込まれただけなんだ!」
「駄目だ。それでは周りのものにも示しがつかん。法治国家である以上
よほどの例外措置がなければこれを覆すことはできぬ」
「そんな……」
歎息するアルマの前にルークが進み出た。
「ということは例外措置もあるということなのですね?」
「ふん、思った通り乗ってくるか」
ルークの問いに不敵な笑みを浮かべるバルバッサだった。
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