第150話:再びの海賊
船が真っ青な大海原を進んでいく。
ルークとアルマはイアムへ戻る船の上にいた。
オステン島はもはや水平線の彼方に消えようとしている。
「いろいろあったけど良い島だったね」
「そうだね、いつかまた来たいね」
彼方を見やりながらぽつんと漏らすアルマにルークが相槌を打つ。
「でしょ?いつだって遊びに来てよね!」
そんな2人の間にキールが割って入ってきた。
「でもいいのかな、結局僕らは何もできなかったけど」
「いいんだって!言ったでしょ、島の問題は島民でなんとかするって」
心配そうなルークにキールが笑いながら手を振ってみせる。
「このくらいの危機、島は何度だって乗り越えてきてるんだから。今回だってきっとうまくいくよ」
「そう……だといいんだけど」
ルークはため息とともに船べりに肘をついた。
キールはああ言ったものの、ルークの胸の奥にはなんとも名状しがたいざわつきが燻っている。
島を二分する権力争い、これは島だけの問題ではない気がする。
もっとこう、アロガス王国にも関りがあるような。
フローラはそのことを知っていたから自分をここに呼んだのではないだろうか……?
「ルーク、どうしたの?」
アルマが心配そうに覗き込んできた。
「あ、ああ、ちょっと考え事をしてて」
「ひょっとして、ゲイル殿下のこと?」
「あれは驚いたね」
苦笑を浮かべながらルークは水平線に消えていくオステン島を眺めた。
「まさかゲイル殿下とあんな場所で出会うなんてね」
「でも大丈夫なのかしら。セントアロガス守備隊も辞めてしまったということになるのかな」
「うーん、それはどうなんだろう」
「なになに?何の話をしてんの?」
2人でゲイルのことに思いをはせているとキールが間に入ってきた。
「あ、いや、大したことじゃないんだ……」
「そういえばルークって今回は船酔いしてないんだね」
「言われてみれば確かに……大丈夫なの?」
キールの指摘にアルマも驚いたようにルークを見る。
「うん、それならもう大丈夫、船が揺れるパターンを掴んで体の方を調整したからね。体を動かすのだってこの通り」
ルークはにっこりと笑うと左右に揺れる甲板の上で何度もとんぼ返りをするとマストの上にするすると登って見せた。
「へえ~、やるもんだねぇ!いつの間にそんなことできるようになったのさ」
熟練の船乗りのような慣れた動きにキールが目を見張る。
「これが僕の特技なんだ……って今何かが光ったような……」
マストの上にいたルークは額に手を当てながら水平線の彼方に目をやった。
明らかに日の照り返しとは違う光が点滅している。
やがて赤い煙が立ち上るのぼってきた。
それを見たキールの顔に緊張が走る。
「あれは……救難信号だよ!取舵いっぱい!全力で救難信号のところに向かうよ!」
船は大きく左に旋回しながら立ち上る煙の方へと向かっていった。
水平線から立ち上る救難信号の下に1隻の船が見えてきた。
その船に並走する別の船も見える。
そこに翻る旗を見てキールが目を吊り上げた。
「クソ、あれはドーキンの奴じゃないか!あいつまだ凝りてなかったのか!」
「キール!襲われてるのはアロガス王国の商船だぜ!」
櫓で見ていた船員が声を張り上げる。
その声にルークとアルマは顔を見合わせた。
「キール、なるべく急いでくれ、助けないと!」
「わかってる!でも逆風のうえに逆潮なんだ!」
商船からは救難信号ではない煙まで出始めていた。
ルークはマストから降りるとキールの元に駆け寄った。
「このままじゃ間に合わない……キール、帆を下してくれ!」
「でもそんなことをしたら風をまともに受けちまうよ」
「大丈夫、僕を信じてくれ。絶対に今よりも早くあの船に着いてみせるから」
「……わかった、何か策があるんだね」
キールは大きく頷くと船員たちに向き直った。
「今すぐ帆を下すんだ!全部だよ!」
それを船員たちが一斉に動き出す。
ルークは甲板の真ん中で詠唱を開始した。
青白い魔方陣がルークを中心に浮かび上がる。
「こ、こりゃあ一体……?」
船員たちが驚く中、ルークの魔法が完成した。
「割雲飄風!」
船の上空に雲が渦を巻いて集まっていく。
「な、なんだこりゃあ?」
「嵐が来たのか?」
渦巻く雲は風を呼び、その風が船を突き動かした。
「す、凄え!とんでもねえ速さだ!」
「だが速すぎる!このままじゃ船がバラバラになっちまうぞ!」
船体を軋ませながら船は猛烈な速度で進んでいった。
みるみるうちに2隻の船に近づいていく。
近づいてくる船に気付いたドーキンの海賊船が船を返り討ちしようとした時には既に遅く、3隻の船はルークの風魔法に包まれて並走することになった。
「ドーキン、貴様まだこんなことをしているのか!」
船べりから身を乗り出してキールが叫ぶ。
「キール!またてめえか!すっこんでいやがれ!」
ドーキンの怒鳴り声とともに矢が降ってきた。
「フッ!」
気合一閃、キールに向かってきた矢は全てアルマによって切り落とされる。
「ハァッ!」
アルマはそのまま10メートルはあろうかという距離を一足飛びに飛んでドーキンの船へと移っていった。
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