第144話:クランケン氏族とリヴァスラ氏族
竹を組み合わせて建てられた屋敷の中をいくつもの魔石ランプが照らしている。
「それで、大変なことというのはなんなんですか?見たところ先ほどやってきた氏族の方たちとは折り合いが悪いようですけど」
ルークとアルマはエラントの家に招待されていた。
キールも加わって4人でテーブルを囲んでいる。
「それを説明するためにはまずこの島のことから話した方が早いでしょうね」
エラントは壁にかかっていた島の地図を取り出すとテーブルの上に置いた。
島は中央部分が歪んだ楕円形をしていて中心には2つの頂を持つ大きな山がそびえている。
「我々が住むこのオステン島は作物を育てることも難しい痩せた土地です。ですが昔から高純度の魔石が採れるために島民は貧困に苦しむことなく暮らしてきました」
「なるほど、それで……」
ルークは天井から吊り下がる魔石のランプを見上げた。
簡素な屋敷には不釣り合いなほどに数多くのランプが輝いていたのはそれが理由だったのか。
エラントが言い淀むように両肘をテーブルにつく。
「この島は女神が2体の神獣が封印した地であり、そのおかげで良質の魔石が採れるのだと言われています。伝説はともかくこの島が魔石で食べているのは事実です。事実ではあるのですが、そのことで最近少々問題が起きていまして」
「先ほどのリヴァスラ氏族ですね」
ルークの言葉に頷くエラント。
「地理的な話をするとこのオステン島は魔界のバーランジー領と人族の国であるアロガス王国のちょうど中間に位置しています。歴史的な経緯もあり長年両国とは距離を置いて中立を保ってきたのですが、最近はその二国間の緊張の高まりが島にも影響を及ぼしてきているのです」
エラントは重いため息をついた。
「この数年二国は小競り合いを繰り返していてそのための魔石の需要が急増しているんです。なるべく安く魔石を手に入れようと島への圧力も強くなっていて、遂には島を二分するまでになってしまいました」
エラントの説明によると元々エラントたちクランケン氏族とガストンたちリヴァスラ氏族は仲が悪いわけではなく、むしろ同じ島の一員として力を合わせて魔石採掘にいそしんでいたらしい。
歴史的に中立を守っていたオステン島は魔族と人族に等しく魔石を売るという暗黙の了解があった。
「しかし数年前からリヴァスラ氏族は魔族との独占契約を結ぶべきだと主張するようになったのです。これは魔族による裏工作のせいです」
魔界と近いオステン島の島民はわずかではあるが魔族の血を引いているという。
「リヴァスラ氏族はそのことを誇りにしている親魔族派も多く、そこにつけこまれたのです。一方我々クランケン氏族は歴史的に人族との付き合いが多いためにリヴァスラ氏族の意見は受け入れがたく、こうして話がこじれてしまっているのです」
「つまり魔族と人族のどちらにつくかで島が二分されてしまったわけですか」
「二分じゃない」
ルークの言葉にキールがむっつりと答える。
「私はどちらにつくのも反対だ。この島は昔から独立独歩でやってきたんだからこれからもそうするべきなんだ」
「キールは中立派なんです」
エラントが軽いため息とともに肩をすくめた。
「キールの祖父はこの島の大族長だったんです。彼女は前大族長の意思を継いでいるつもりなんでしょうが、すでに時勢がそれを許していないんですよ」
「そんなことない!本土の諍いにあたしたちまで付き合う必要なんかないじゃないか!やりたいなら勝手にやらせておけばいい!島まで巻き込まれる謂れはない!」
「キール、現実を見るんだ」
いきり立つキールにエラントがため息をつく。
「僕らの暮らしが本土に支えられていることは君だってわかっているはずだろ。本土がくしゃみをしたら島は風邪をひくという言葉もあるじゃないか。理想を持つのはいいけどいい加減現実を見ないと、婚約者としての僕の立場というものも……」
「婚約なんて親が勝手に決めたことじゃないか!あたしは了承してない!」
怒りに任せてキールが立ち上がる。
「エラントが欲しいのはあたしじゃなくて大族長の孫娘というあたしの身分だろ!島民の人心を集めるための御旗が欲しいだけじゃないか!そんなことに利用されてたまるか」
「キール、そんなことはないよ。僕は純粋に君のことを……」
「上辺だけの言葉なんか聞きたくないね!」
キールは肩を怒らせながら部屋を出て行った。
「はあ~~~~~」
エラントが深いため息とともに頭を抱える。
「なんでいつも……こうなってしまうんだ。僕の気持には気付いているはずなのに……」
「あの……2人はお付き合いをしてるんですか?」
アルマが控えめながらも興味津々といった様子で尋ねる。
「どうでしょう。僕はそのつもりなんですけど、彼女の考えていることがわからなくて」
エラントが自嘲気味に答える。
「僕たちは子供のころから一緒に育ってきたんです。彼女は島の歴史に名を残す大族長の孫娘で僕はしがない一島民、身分的に釣り合うわけなんかないんですけど、それでも彼女に見合う男になろうと頑張ってきました。その甲斐あって今は若衆頭という大役を任せてもらえるまでになり、彼女の両親も僕らの仲を認めてくれたのですが彼女はなかなかうんと言ってくれなくて」
エラントがルークとアルマに頭を下げた。
「ルークさん、アルマさん、お願いします。キールを説得していただけませんか?この島を1つにまとめるためにはまず僕らがわかりあえなくては駄目だと思うんです。キールはあなた方をかなり気に入ってるみたいです。僕の言葉は届かなくてもあなたたちなら彼女を説得できるかもしれない」
「そ、そんなこと言われても……」
ルークは慌てて手を振った。
部外者である自分たちに仲介などできるとはとても思えない。
「お願いします!アロガス王国派である僕たちクランケン氏族がリヴァスラ氏族を抑えることができればそれは王国にとっても利益になるはずです。これはお願いではなく双利共得となる提案なのです」
頭を下げ続けるエラントにルークとアルマは顔を見合わせるしかなかった。
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