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第130話:エピローグ

「……とまあ、こんなことがあったわけです」


 そう言ってルークは締めくくった。


「クリート村ねえ……そんな村に行ったことあったかな?」


 ソファに寝転がりながらイリスが首をかしげる。


 アロガス王国に戻ってからしばらくしてルークとアルマはイリスの元を訪れていた。


 当然クリート村のことを説明するためだ。


「あんたねえ……覚えてないわけ?信仰の対象になってるってのに」


 アルマが呆れたようにため息をついた。


「そうは言っても1000年も前の話だぞ?他にも色々旅してんだしちっぽけな村のことなんかいちいち覚えてないっての」


 イリスは手に持っていたグラスをあおった。


 中にはクリート村から持ってきた酒が入っている。


「この酒だって美味いことは美味いけど、どこかで飲んだ記憶はないんだ」


「それならこちらはどうですか。これなら覚えてるかもしれませんよ」


 ルークは別の瓶を前に出した。


 こちらは火入れをしていない昔からの製法で作った酒だ。


「そうかあ?酒くらいで思い出すかなあ……」


 疑わしそうな顔をしながらグラスをあおるイリス。


「ふむん、悪くはないけど味としてはさっきの方が……いや、この味はどこかで飲んだことがあるぞ……確か……あ!あそこか!」


 イリスの眼が大きく見開かれた。


「思い出した!確かに行った行った!行ったよ!あそこね!そういえば確かに獣人たちの村があったあった!」


「思い出してくれましたか」


 首を大きく振りながら身を乗り出したイリスを見てルークはにっこりと笑った。


「いやぁ~すっかり忘れてたよ。そういやこの酒が美味かったからしばらく滞在してたっけ。そうかぁ~まだあそこに獣人たちは住んでるのかぁ~元気にしてた?」


「ええ、みんな元気にしていますよ。それに師匠のことを信奉してます。これが村で祭ってる師匠の像です」


 そう言ってルークはバッグの中から紅角姫の像を取り出した。


 それを見たイリスの顔が一変する。


「ちょっと待て、なんだその像は!あたしはそんなに太ってないぞ!」


 確かに紅角姫の像は身体のあちこちがイリスよりもふくよかになっている。


「1000年前にはこのくらいだったんじゃないの?」


「そんな訳あるかぁ!あたしの体形はずっとこのままだ!」


「いやまあその辺はおそらく周囲の地母神信仰と混ざり合ったのかもしれません。五穀豊穣の女神は大抵ふくよかですから」


「納得できない!抗議してやる!その獣人たちをここに連れてこい!」


 イリスはなおも憤慨している。


「まあまあ、それよりも師匠はあの地で黒斑熱の治療薬や魔獣避けを伝えたんですよね?やはり病苦に苦しむ獣人たちを(おもんぱか)ってのことなんですよね?」


「いや、別に」


 感動したような口ぶりのルークにイリスはあっけらかんと否定した。


「あそこの酒が上手いと評判だったから行ってみたらさ、なんか病気だの魔獣だので酒を造ってる場合じゃないって言ってきたから薬と魔獣避けの作り方も教えてやったんだよ。そしたらなんかえらく感謝されちゃってさ」


 イリスは大したことじゃないと言うように肩をすくめた。


「あたしは美味い酒が飲めればそれで良かったんだ」


「そ、そうだったんですか……」


 ルークは肩から脱力しながら息を吐いた。


(まさか酒が飲みたいがための行動だったとは……クリート村のみんなには真相を黙っていた方がいいかな)


「で、でも黒斑熱の原因だった半魔法生物(シング)を倒したんですよね。今回も半魔法生物(シング)が外に出てきて大変だったんですよ。師匠も黒斑熱を鎮めるためにあの水門を作ったんですよね」



「うーん……確かあそこで造ってる酒がえらく不味くなった時があって、水が悪いんだろうと水源に様子を見に行ったんだよ。そしたらなんか黒いのがいたからちょいと潰してついでに水を綺麗にする仕掛けを作ったんだよ」


「そうなんですか……」


 ルークは呆れると同時に改めてイリスの凄さを実感していた。


 料理を美味しくするためのひと手間くらいの感覚であれほどの魔導施設を作り上げてしまうとは……


 イリスは昔を思い出すように頭を天井に向けながら嬉しそうに笑っている。


「いやー、そう言われてみると懐かしくなってきたなぁ。もう1000年も前だもんな。あの辺もずいぶんと変わっているんだろ?」


「流石に1000年前がどうだったかは知りませんけど、はいあの森の周りには大きな街ができていますよ」


「そうかぁ、そうなるとちょっと見てみたくなってきたな。ここにいるのもいい加減飽きてきたしな」


「必ず師匠をクリート村に案内しますよ。みんなも会いたがっていますし」


 ルークはそう言うと懐から魔石を取り出した。


 ポーマン村からもらったバルタザールの魔石だ。


「これは今回の収獲物です。師匠が欲しがるんじゃないかと思って」


「おおっ!これは古代竜バルタザールの魔石じゃないか!いいもんもってきたねえ!」


 魔石を見たとたんにイリスの顔が輝く。


「良いねえ良いねえ、これはなかなか物が良いじゃないの。結構年経たバルタザールだったんじゃないのかい。ルークが倒したんだろう?なかなかやるようになったじゃないの」

 嬉しそうにルークを胸に掻き抱くとその頭をさするイリス。


「良いねえ、弟子の成長を見れて師匠冥利に尽きるよ」


「ちょ、ちょっと、師匠……」


「オホンッ!ちょっとイリス、それくらいで良いんじゃないの」


 大きく咳払いをするアルマだったがイリスは全く気にしていない。


「何言ってんだい、弟子を褒めて伸ばすのは師匠の役目だろ。それに忘れたとは言わさないよ、山でのルークの所有権は……」


「ああもう、わかってるわよ!」


 アルマはルークの隣に腰を下ろすとテーブルの上のグラスに酒を注いだ。


「とにかく、まずは乾杯でしょ。こうして久しぶりに会ったんだからさ」


「それもそうだな」


 にやりと笑ってイリスがグラスを持ち上げる。


 グラスを打ち鳴らす涼やかな音が山の中へと消えていった。



いつも読んでいただきありがとうございます!


これにて第2章は終了です。


一旦しばらくお休みした後、できれば3月頃に第3章を始められればなと思っています。


「面白い」「もっと読んでみたい」と思われたら是非とも広告の下にある☆☆☆☆☆を★★★★★へとお願いします!


モチベーションアップにつながりますので何卒よろしくお願いします!


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