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第122話:見えた光明

「クソ……」


 ミランダが膝を地につく。


「私は……どうしたらいいんだ……」


「気を確かに持ってください。まだやれることはあるはずです」


「しかし……人の手も足りなければ薬もないんだ……私は……あまりに無力だ」


 ふらりとミランダが立ち上がる。


 その顔には思いつめた表情が張り付いていた。


「やはり奴のいう通りなのかもしれない。私さえ我慢すれば……」


 肩を落としよろよろと歩くミランダの顔が巨大な壁に挟まれる。


 見上げるとそれはアルマの胸だった。


「すまない、前を見ていなかった……」


「このお馬鹿!」


 アルマのデコピンがミランダに炸裂した。


「ぐわっ!」


 のけぞって吹っ飛ぶミランダ。


 ルークがそれを慌てて受け止めた。


「ア、アルマ、もう少し優しく……」


「なに勝手に絶望してんのよ!」


 アルマは完全にぶちきれていた。


「あんなエロ爺にいいように言われて悔しくないの!ダンジョンであれだけ威勢が良かったあなたはどこにいったのよ!」


「し、しかし……」


「しかしもお菓子もない!だいいちなんで一人で抱え込もうとしてるのよ!私たちがいるじゃない!」


「アルマのいう通りです」


 ルークが頷く。


「ミランダさん、あなたはまず落ち着いた方がいいですね。お茶でも淹れるから一息つきましょう」


 ルークの言葉にミランダは大きく息をついた。


 まだ顔色は悪いが多少気持ちが晴れたようだ。


「そ、そうだな……少し思いつめ過ぎていたようだ。すまない……」


「いいんですよ。僕らはもう志を同じにする仲間じゃないですか。もっと頼ってくれていいんですよ。」


 バッグをテーブルに置いて中のものを取り出しながらルークが微笑む。


「第一あの男が約束を守ると思いますか。まず間違いなく反故にしますね。僕の左腕を賭けてもいい」


「私もそう思う。ああいう奴の言うことなんか聞いちゃ駄目」


 2人の言葉にミランダは力が抜けたように椅子に腰を下ろした。


「そうだな……君たちのいう通りだ。私は自分だけでどうにかしようと思っていたみたいだ。すまなかった、おかげで目が覚めたよ」


「こちらこそ怒りに任せてごめんなさい……じゃなくてすいませんでした」


 頭を下げるアルマにミランダが笑いながら手を振る。


 その顔に先ほどの思いつめたような表情はなかった。


「いや、構わないよ。先ほどルークも言ったように私たちは仲間だ。仲間だったら遠慮なんかいらない、そうだろう?これからもその調子で頼むよ。私のことも呼び捨てで構わない」



「それじゃあまずはお茶でも飲みながら今後のことを考えましょう。確かここにナミルさんからもらった薬草茶があったはず……あれ、もう1つ入ってる」


 バッグをまさぐっていたルークはけげんな表情で2つの包みを取り出した。


「1つは黒斑熱に効くというチリンの葉で、もう1つはレリブ茶……これは確か師匠が伝えたんだっけ……ひょっとして!」


 ルークは何かを思いついたように立ち上がった。


「どうしたのルーク?」


「ちょっと思いついたことがあるんだ。火炎(ファイヤ)


 水が入ったヤカンを持ったルークの左手が炎に包まれる。


 ほどなくしてお湯が沸き始めた。


「べ、便利なものだな」


 ミランダが感心したように眺めている。


「見せたいのはこれじゃないんだ。ちょっと急須を借りますね」


 ルークは戸棚から急須を2つ持ってくるとチリンの葉とレリブ茶をそれぞれの中に入れてお湯を注いだ。


「ルーク、まさか……?」


 何かを思いついて驚くアルマにルークが頷く。


「うん、師匠がクリート村に魔獣避けの魔法薬、エルデ材料になるエヴァーデの樹皮とカンムリギクの花弁を伝えていたよね。でも時と共にその製法は失われてしまっていた。ひょっとしたらこの2種類の薬草茶もそうなんじゃないかと思って」


 ルークが淹れたチリンのお茶は炭のように黒く、レリブ茶は鮮やかな紫色をしている。


「問題は比率だけど……まずは半々でやってみるかな」


 2つのお茶を1つのカップで混ぜ合わせると透き通った赤色へと変わっていった。


 しばらくその液体を見ていたルークはやがて大きく頷いた。


「うん、やっぱりこの2つを混ぜ合わせると大きな薬効を得られるみたいだ。特に魔素中毒に対する効果が高い。これなら黒斑熱にも効果があるよ」



「本当なのか!」


 ミランダが息を呑む。


「間違いないよ。最大限の効果を得るために比率を色々変えてみる必要はあるけど、このままでも使えると思う。毒もないよ」


 そう言ってルークはその液体を一口含んだ。



「……味はお勧めしないけどね」


 ぺたんとミランダが地面に腰をつけた。


 その眼から涙が溢れだす。


「よ……良かった……本当に……良かった」


 顔を覆った手から涙が零れ落ちていた。


 その肩をアルマが優しく抱いた。



「すぐに生産に取りかかろう。病気は待ってくれないしクラヴィに知られたらどんな邪魔をされるかわからない。ここからは時間が勝負だ」


「そ、そうだな。喜ぶのはみんなが治ってからだ」


 目尻を拭きながらミランダが立ち上がる。


「今すぐクリート村に行ってありったけのお茶をもらってこよう。事情を話せばきっとわかって……」


「クリート村が何?」


 突然ドアから声がした。


「ナターリア?」


 そこにいたのはクリート村で療養をしているはずのナターリアだった。


「もう体調は大丈夫なの?」


「大丈夫大丈夫、ルークのおかげですっかり元気だよ」



 力こぶを作りながら笑みを返すナターリア。


「それよりクリート村がどうとか言ってたみたいだけど?」


「うん、ナミルさんからもらったチリンの葉とレリブ茶が急遽必要になったんだ。しかも大量に。今からもらえないか頼みに行こうと思ってて」


「それならあたしが持ってきてるよ」



いつも読んでいただきありがとうございます!


「面白い」「もっと読んでみたい」と思われたら是非とも広告の下にある☆☆☆☆☆を★★★★★へとお願いします!


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