第120話:決着!
水門が完全に起動したのを確認したルークがぐらりと崩れ落ちる。
アルマが慌ててその身体を支えた。
「ルーク?ルーク!……酷い顔色……しっかりして!」
真っ青な顔になりながらルークの顔にこびりついた血を拭い去る。
「大丈夫……ちょっと力が抜けただけだから」
「大丈夫か!」
そこへミランダが駆け寄ってきた。
「ミランダさんも無事でしたか」
「むしろそっちの方が深刻じゃないか。それで首尾はどうなったのだ?」
心配するミランダにルークが親指を立てる。
「半魔法生物は魔素へと帰ってきました。これで当面は大丈夫のはずです」
「……まさか、太古の水門を修復したのか!?」
「いえ、流石に修復は無理なので稼働できる範囲で稼働させただけです。上手くいったみたいで安心しました」
「いや、それでも十分凄いんじゃないのか。私にはその凄さすら想像できないほどだが」
驚きに眼を見開きながらミランダが水門を見上げた。
水門は刻まれた魔導紋を淡く点滅させながら清らかな水を流し続けている。
ルークは水門の口から流れでる水に手を当てて頷いた。
「魔素の混入もなくなったようです。少なくとも黒斑熱がこれ以上広がることはありません」
「そうか……良かった……」
ミランダはほっと息をついた。
「お、終わったのか?奴はどうなったのだ。倒したのか?」
「……クラヴィ殿」
後ろからヨタヨタとやってきたクラヴィを見てミランダがうんざりしたような表情を浮かべた。
「う、うむ、貴様らよくやってくれたな。流石は儂が見込んだ者共だ。これに免じて先ほどの無礼はこれで帳消しにしてやろう」
汗を拭きながらにんまりと笑うクラヴィ。
「そ、そういえば貴様らは商売をしにこの街に来ていたのだったな。これは確かにメルカポリスに対する大きな貢献だ。よかろう、貴様らとの商いを認めてやろうじゃないか」
ルークは大きなため息をついた。
「クラヴィ殿、そこまでにしておくのだな」
呆れたようにミランダが言葉を挟む。
「あなたのやったことがこれで帳消しになるとは思わないことだ。黒斑熱が収まったら浄水場のことも含めて徹底的に洗わせてもらうから覚悟してもらおう」
「なんだとおっ!?」
ミランダの言葉にクラヴィが一気に気色ばむ。
「当然だ。貴様が《蒼穹の鷹》に指示をして太古の水門を破壊したのはこの国に対する重要な反逆行為だ。評議委員だからただで済むと思ってもらっては困る」
「ふ……ふざけるな!よ、よくもそのようなことをこの儂に……」
クラヴィは完全に激怒していた。
禿頭が真っ赤になり、幾筋も血管が浮き上がっている。
しかしミランダは全く動じる様子もない。
それどころか面白がっている節すらある。
「ふざけてなどいないさ。これだけ証拠が残っているのだから逃げられるなどとは思わないことだ。それとも今ここで私たちを亡き者にして証拠隠滅を図るかね?後ろの3人で」
「さ、3人?」
クラヴィが驚いたように振り返るとそこにいたのは《蒼穹の鷹》の3人だけだった。
兵士たちは影も形もない。
「半魔法生物が消えて領域封鎖が解除されたから帰ったみたいですね」
「ルーク、あの人かなり人望がないんじゃ?」
「ク……クククゥ……」
クラヴィはわなわなと震えるしかなかった。
「ああ~!なんなのこれえっ!」
そこに大声が響き渡った。
声の方に振り返るとエセルが手鏡で自分の顔を覗き込んでいるところだった。
その首元から頬にかけて青黒い筋が残っている。
半魔法生物に巻き付かれた跡だ。
「やだもう!洗っても落ちないじゃないの!」
水路に跪いて何度も水をかけているが青黒い痣は全く落ちる様子がない。
「私もです」
そういうレスリーの顔には斜め十文字に痣がついている。
「クソ、あの忌々しい化け物め!こんなものを残していきやがって!」
ランカーは右腕と目の周りだ。
「嘘、何あれ?」
アルマが驚いて口元を手で覆った。
「たぶん半魔法生物に吸収されかかった時に魔素が体と同化したんだろうね。いずれ消えるとは思うけど……」
「おい!それは本当なんだろうな!」
ぽつりと漏らしたルークの言葉を聞きつけてランカーが食ってかかってきた。
「本当にこの痣は消えるんだな?絶対だな!?」
「さ、さあ……僕にも正確なことは……ただ魔素がこれ以上身体深くに進行することはないと思うので……いずれ垢となって落ちていくんじゃ……ないでしょうか」
顔をすくめながら返事をするルーク。
その肩が微かに震えている。
「ちょっと、ルーク。笑っちゃ失礼でしょ」
そういうアルマも堪えすぎて目尻に涙が浮かんでいる。
ミランダに至っては背を向けて声を殺してはいるものの完全に笑っている。
「グウゥゥ……クソ!こんな所来るんじゃなかった!貴様らにもこんなかび臭いところもうんざりだ!」
ランカーは顔を真っ赤にしながら叫ぶと踵を返して去っていった。
「あ、ちょっと待ってよ。こんな恥ずかしい恰好じゃ街に帰れないってば」
「全く、何の得にもならないどころかマイナスじゃないですか」
レスリーとセシルもその後に続く。
「……こ、これで勝ったと思うなよ!貴様のような木っ端警備兵如きが儂をどうこうできると思うな!」
おろおろした顔で3人の去っていく様子を見ていたクラヴィだったがミランダを憎々しげに一瞥する捨て台詞を残してその後を追いかけていった。
「やれやれ、あれがメルカポリス一の大商人にして評議委員様の言うことかね」
ミランダは大きくため息をつくと肩をすくめた。
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