第119話:再現
ダンジョンを半壊させるほどの魔法でも半魔法生物は全く堪えていなかった。
それどころか力を増している様子すらある。
「そ、そんな……私の魔法が……効かな……」
触手に巻き付かれたエセルが宙に吊り上げられた。
「ひいいっ」
逃げようとしたレスリーの足にも触手が絡みつく。
「あああああっ!!!」
半魔法生物に絡み取られた2人の身体がみるみるうちに黒く変色していく。
2人を救ったのはルークの剣だった。
「魔法停止」
身体に絡みつく半魔法生物の残骸もルークの魔法で動きを停止させる。
「やっぱり魔力そのものに干渉する魔法なら有効なんだ」
ルークは納得したように頷くとアルマに振り向いた。
「アルマ、しばらくこの3人を頼めるかな?10分、いや5分でいいから半魔法生物を引きつけてほしいんだ」
「任せて」
巨大化したアルマが《蒼穹の鷹》の3人を抱え上げた。
「な、何をするんだ!離せ!」
「あんまり叫んでると危ないよ。こっちもそっちに気を使ってる余裕はないんだから」
アルマは3人を抱えながら半魔法生物の触手攻撃をかわしていく。
「ミランダさんはこれを」
ルークがアダマンスライムの剣をミランダに手渡す。。
「これなら半魔法生物の腐食にも耐えられます。これでアルマをサポートしてやってもらえますか」
「わかった。しかしルーク、君は何をするつもりなんだ?」
「僕はあれを解析してみます」
ルークが指し示した先には破壊された太古の水門があった。
「師匠が残したものだから倒し方もわかるかもしれません」
「わかった……頼んだぞ!」
ミランダはそう言うと怯えて固まっている兵士たちの前に飛び出した。
兵士たちに向かって伸びてくる触手を切り落としていく。
「こちらは私に任せてくれ!」
「お願いします!」
ルークは太古の水門へと向かっていった。
水門には複雑な魔導紋が描かれている。
それはまるで狂気に陥った画家が描いた絵画のようですらあった。
おそらく全てを解析するのは1カ月かかっても無理だろう。
「それでもやるしかない」
ルークは水門に手をかざすと魔力を流し込んだ。
「人工精霊回路、第一門から第三門まで開放」
ルークの左目が赤い光を放つ。
頭の中に魔導紋を流れていく魔力の道筋が浮かんでくる。
通常の魔導士であれば100年掛かっても解析できない魔導紋の構造が、機能が一気にルークの頭に流れ込んできた。
常人であれば発狂してしまうほどの情報量をルークの左眼が解析していく。
しかしその負担にルークの身体も無事では済まなかった。
左目、左耳、鼻から血が伝っていく。
それでもルークは止めなかった。
いや、ルークの顔には笑顔すら浮かんでいた。
「これが……師匠の技能なのか……」
今では魔神しか使えなくなった根源魔法、この水門はそれを単独で発動できるようになっている。
太古の水門は対象の魔力を取り込んで動力源とし、根源魔法でもってその相手を純粋な魔素へと還元するようになっていた。
しかも経年劣化する魔石も使わずに実現しているため効果は魔導紋が使えなくなるまで半永久的に持続する。
いうなれば水門が存在する限り半永久的に半魔法生物を魔素へと還元していくのだ。
これほどの技術は旧帝国にも存在しなかっただろう。
「これがあれば僕にも……人工精霊回路……第四門から第九門まで開放!」
ルークの瞳が更に光を増していく。
今やルークの両目から血が流れていたがルークは気に留めるそぶりすら見せなかった。
水門に刻まれた魔導紋に亀裂が走る。
《蒼穹の鷹》に破壊された部分を迂回するように新たな紋が刻まれていく。
「アルマ!半魔法生物をこちらに!」
「わかった!」
ルークの叫びにアルマは一瞬の躊躇も見せずに半魔法生物に掴みかかった。
イリスの作った展鎧装輪ですら半魔法生物の触手に巻き付かれると煙を立てて崩れ落ちていく。
それでもアルマは止まらない。
「とりゃああああっ!」
汚泥の山のような半魔法生物に組み付いたまま強引に水門の奥に押し込んでいった。
「アルマ!」
「ルーク!」
半魔法生物に飲み込まれそうになる直前に展鎧装輪を解除したアルマがルークの伸ばした手にしがみついた。
それでも黒い触手が2人へと伸びてくる。
アルマを抱きしめたまま水門の外に転がり出たルークが左手を使って水門を閉じた。
「還元の門再起動!」
流し込まれたルークの魔力で水門に刻まれた魔導紋に光が走った。
水門の亀裂から漏れ出てきた触手がキラキラと輝きながら魔素へと還元されていく。
それは地下へと堆積した魔素から生まれた半魔法生物の最期の輝きだった。
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