第118話:決戦
ルークとアルマ、ミランダの目の前に半魔法生物が山のようにそびえている。
触手を切り落とされたとはいえその身体にダメージは見られない。
いや、切られたことを感知すらしていないのかもしれない。
「どうするのだ。このままだと脱出することも叶わないぞ」
ミランダの声が緊張に震えている。
しかしルークは落ち着いていた。
「いえ、むしろこれは好機と見ましょう。ここであれを倒せば黒斑熱の蔓延を止められるのですから」
「……まったく、君は大した奴だな」
意外な言葉に一瞬唖然としたミランダはやがて破顔すると改めて剣を取り直した。
おかげで肩から余分な力が抜け、冷静に状況を観察する余裕ができるようになった。
「ルーク、確かに君のいう通りだ。なんにせよ黒斑熱を止めるにはあれを倒さなくてはいけないのだな。そう考えればシンプルで済む」
「うう、鎧を着てるとはいえあれと戦うのは気が進まないなあ……」
ぼやいてはいるがアルマも戦闘態勢を整えている。
「アルマ、あれに肉弾攻撃をしかけるとグスタフやランカーのようになってしまうかもしれない。なにか武器を使った方が良いだろうね」
「そ、そう?じゃあこれで」
どこかホッとしたようにアルマはグスタフの遺した戦槌を拾いあげた。
「ひとまず動きを封じれないかやってみる。2人は防御に徹しつついけそうなら攻撃を!」
「「了解!」」
ルークは左手を前に突きだすと詠唱を開始した。
「拘禁噛砕!」
魔力の縄が半魔法生物に絡みついた。
「いけるかっ!?」
「いや……これは……」
嬉しそうに叫ぶミランダだったがルークは浮かない表情だ。
全く手ごたえがない。
例えるならまさしく泥を縄で縛っているようなものだ。
おそらくこのまま拘束を強めても全く効果がないだろう。
不意に半魔法生物の全身が大きく震えた。
(攻撃が来る!)
ルークの左目が警告を発する。
その向かう先はおそらく背後に兵士と《蒼穹の鷹》を庇っているアルマだ。
「アルマ!そっちに行くよ!」
ルークの警告で盾を構えたアルマに触手が襲い掛かってきた。
半魔法生物の触手を受けた盾がみるみるうちに黒化していく。
「アルマ!盾を離して!」
「この……っ!」
アルマは盾ごと半魔法生物へと体当たりするようにぶつかっていくと戦槌を振りかぶって手放した盾へと叩きつけた。
衝撃が地面へと伝わり半魔法生物を中心に巨大なクレーターを作る。
戦槌はアルマの力を吸収しきれずに粉々に砕け散った。
「どうだ!」
大地も穿つほどのアルマの攻撃だったが半魔法生物には全く変化が見えない。
相変わらず不気味に脈動を続けながら前進を続けていた。
「どうなってんの!?あれでも効果がないなんて!」
半魔法生物が再び体を震わせてアルマに向かって触手を伸ばす。
「フッ!」
気迫一閃、ミランダがそれを剣で切り飛ばした。
「断絶結界!」
ルークの結界魔法が半魔法生物を閉じ込める。
結界は半魔法生物と触れ合あってバチバチと火花を散らしている
「おそらくあの結界もそう長くはもたない。それまでに対処方法を見つけ出さないと」
ルークは足元で蠢く半魔法生物の残骸に手をかざした。
「火炎弾」
火炎弾を受けても残骸は燃えるどころかその動きに激しさを増すばかりだ。
「やっぱり中途半端な魔法攻撃は効果がないどころか半魔法生物に力を与えるだけみたいだ。となると物理攻撃しかないのか……」
「だが物理攻撃も容易ではないぞ」
そう言って前に出してきたミランダの剣はたったの一撃で刀身がボロボロになっている。
「耐魔効果を持った剣ですらこの有様だ。これでは武器がいくらあっても足りないだろう」
「飽和攻撃を仕掛ければ倒せるかもしれないけど、そうなると水源まで潰してしまうことになるか……困ったな」
「うおおおおっ!!」
ルークたちが悩んでいると奥から鬨の声が響いてきた。
振り返ると半魔法生物に向かって兵士が突進する所だった。
「奴は身動きできない!倒すなら今のうちだ!」
いつの間にか元気を取り戻したランカーが兵士たちを先導している。
レスリーの補助魔法が兵士たちを包み込んだ。
「攻撃力五倍増!今の軍勢は兵士100人に匹敵します!これだけの力があればあんな魔獣如き!」
「こんな奴、結界ごと私の最大魔法で吹っ飛ばしてやるんだから!」
エセルが詠唱を唱えた。
膨大な魔力がエセルの手の中に集まっていく。
「いけない!そんなことをしたら……!」
「壮絶爆裂!」
ルークの警告も空しくエセルの攻撃魔法が半魔法生物に向かって放たれた。
耳をつんざくような音と共に衝撃波がダンジョン内を貫いていく。
兵士たちはその衝撃にまとめて吹き飛ばされた。
「エセル!何をしてるんですか!私の強化魔法を施した兵士たちに任せておけば良かったのに」
「うっさいわね!そんなちんたらやってたら結界が破られちゃうでしょ!こういうのはね、スピードが命なのよスピードが!」
「何をやっているんだ……」
流石のルークもこれには頭を抱えるしかなかった。
「あんな泥山、私の魔法で粉々だっての」
無造作に爆煙の中に足を踏み入れようとするエセル。
「逃げるんだ!」
ルークの声が響いた時、煙の中から伸びてきた黒い触手がエセルの首元に巻き付いた。
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