言霊
先日、ナナシと話した中にあった「洗脳」というキーワードが、どうも私の中で引っかかり、個人的に調べてみた。
その中で、言葉には力があるといった表現があり、そこで「言霊」に関する話を思い出した。
言霊というのは、言葉が持つ霊力のことで、以前仕事でちょっとしたコラムを書いたこともある。
もしかしたら、また改めて調べることで、何か新しいことがわかるかもしれないと思い、当時の取材でわかったことを振り返ってみた。
そうしてわかったことを今回紹介したい。
言葉に力があるというのは、その通りだと思う。
これは怪異とか関係なく、人からかけられる言葉によって、心が穏やかになったり、傷付いたりというのは、誰しも経験していることだろう。
例えば、「ありがとう」とか「好き」とか言われれば、嬉しくなる人の方が多いだろう。
反対に、「死ね」とか「嫌い」とか言われると、人は気持ちを落ち込ませてしまう。
言い方によっても変わるけど、そうして人の心を変える言葉というものには、力があるということだ。
ただ、そもそもの話として、言葉を伝える時には、まず相手にどう伝わるかを意識しないと、伝わるものも伝わらなくなってしまうので、注意が必要だ。
これはライターの仕事をする中で、先輩であり師匠でもあるエリさんが、何よりも意識するべきだと教えてくれたことだ。
ただ、私はこれをライターに限らず、大手を含むマスメディア、小説家や漫画家、アニメや映画の製作にかかわる人、こういった不特定多数の人に何かを伝える人全員が、一番に意識するべきことだと感じた。
それだけでなく、これは個人に何かを伝えるうえでも意識するべきことだと思うので、是非皆さんも意識してほしい。
とはいえ、私も意識しているだけで、実際に皆さんにどう伝わっているかというのはわからない部分もあるし、誤った形で伝わっているかもしれないという不安が常にある。
会話はキャッチボールといった言葉があるけど、キャッチボールはボールを取れなかった人じゃなくて、取れないボールを投げた人が悪いといった話がある。
つまり、話をしたのに上手く伝わらなかった時、それは話を伝えた人が悪いというわけだ。
今、私は皆さんに対して、一方的にボールを投げ続けているわけで、それをキャッチできない人がいたら、完全に私の責任だと受け止めている。
だから、上手く伝わっていないんだとしたら、本当に申し訳ない。
大分話が脱線してしまったけど、それだけ言葉を伝えるということが難しいと伝えたくて、こんな脱線話をさせてもらった。
さて、ここまでは現実的な視点で言葉というものを考えてきたけど、ここから怪異的な視点で言葉=言霊というものを考えていこう。
先述した通り、言葉が霊力を持つといった言い伝えのようなものは、古くからある。
例えば、お経を読むことで除霊を行うといったものも、言霊によるものと考えられる。
また、言霊を使った呪いというのもあるそうだ。
具体的な例として、嫌いな人の写真に、毎日何度も「死ね」と言い続けた結果、その人が交通事故で亡くなった。
これは、亡くなった本人に「死ね」という言葉を伝えていないわけで、気持ちを落ち込ませたからという話じゃない。
単なる偶然と考えることはできるけど、「死ね」という言葉が言霊となって、何かしらかの呪いになったと考えることもできるわけだ。
そして、言霊は霊力のある者――霊能力者だと、より大きな力を持つとされる。
時には「タルパ」という雑話で書いたように怪異を生み出すこともあれば、怪異を操ることもできるそうだ。
それだけでなく、人を操ることすらできるといった説もあった。言葉で人を操るというのは、もはや洗脳そのものだ。
以前、「信用できる霊能力者はいるか?」という雑話だけでなく、それ以外でも何度か霊感商法という詐欺について触れてきた。
この時は、すべて詐欺と捉えて、現実的な視点でしか考えなかったけど、今は怪異的な視点でも捉えてみたい。
つまり、詐欺師と言われた霊能力者が、本物の霊能力者だった可能性を考えるということだ。
例えば、言霊によって、人を操ることができる霊能力者がいたとしよう。
一応、自殺しようとしていたり、犯罪を犯そうとしていたりする人を止めるといった使い方もできるけど、人を操ることができる能力というのは、はっきりいっていくらでも悪用できる能力だ。
お金を手に入れるために「金を出せ」と伝えたり、殺したい相手に「自殺しろ」と伝えたり、そうすることで実現されるなら、言霊を悪用してしまう人もいるはずだ。
そうした、いわゆる悪い霊能力者が詐欺師と同じことをしている可能性があり、時にそれが明るみになって事件として伝えられた時、犯人のことは詐欺師と報道される。
でも、実際は言霊を悪用した、本物の霊能力者だったかもしれないわけだ。
昔、言霊について取材した時、ある宗教団体にいた人の話を聞くことができた。
でも、当時は信憑性がないと判断して、コラムに書くこともなかった。
それを今回、ここで紹介したいと思う。
話をしてくれた人は絶対に身分を明かさないでほしいと言っていたので、イニシャルだとありえないXと表記しよう。
Xは元々、霊感商法を行う会社に所属していたそうだ。
それは、いわゆる詐欺を働く会社に所属していたというわけで、Xが絶対に身分を明かさないでほしいと言った理由でもある。
Xは依頼者から受けた仕事を誰に割り振るかといった、事務的な仕事をしていたそうだ。
基本的にこうした会社は、人を洗脳してお金を稼ぐのが目的で、鳴かず飛ばずの役者を採用して、洗脳の手口を教えるなどしていたらしい。
ただ、ある日、Xが割り振った仕事をやった人が「本物の幽霊が出た!」と事務所で大騒ぎした。
何か幻覚を見たのだろうと他の者が落ち着かせて、その場は落ち着いたけど、少しして騒いだ者が辞めた。
それからすぐ、事務所では物が宙に浮くといった明らかにおかしな現象が多発した。
そうしたことがあって、会社はすぐに潰れた。
でも、社長は怪異を信じるようになってしまい、そのまま自らを教祖として宗教団体を立ち上げると、Xを幹部にした。
この宗教団体は、言霊を信仰するもので、言葉によって人や怪異を操るといった活動をしていたらしい。
それは過激なもので、悪魔崇拝に近いものでもあったようで、神を超える存在として悪魔を作り出そうといった試みが行われていたそうだ。
具体的には、一人の人に対して大勢の人が「おまえは悪魔だ!」と言い続けることで、その人を悪魔にしようとしていたらしい。
そんなある日、真っ白な服を着た少女が連れてこられたそうだ。
教祖によると、この少女は悪魔になる素質があるとのことだったけど、無理やり連れてこられたんだろうと、Xは感じたそうだ。
でも、Xは教祖に従うだけで、特に何もしなかった。
ある日、少女を縛り上げ、全員で「おまえは悪魔だ!」と言い続けるように教祖から指示があった。
先述した通り、こうしたことは以前からあったけど、Xまで含めた全員でというのは、初めてのことだった。
全員で取り囲み、「おまえは悪魔だ!」と他の者が叫んだけど、Xは何だかいたたまれない気持ちになり、声が出なかった。
それだけでなく、こんな状況にもかかわらず、まったく表情を変えない少女を不気味に感じて、思わず目を閉じた。
「そこの人、縄を解いてください」
みんなが叫ぶ中、か細い小さな声が、確かにXの耳に届いた。
でも、みんなの叫び声が相変わらず続いていて、Xは目を閉じたまま、今の異常な状態がすぐに終わるのを祈った。
「みんな、今すぐ死んでください」
もう一度、か細い声が聞こえた瞬間、「おまえは悪魔だ!」という叫び声が一斉に消えた。
Xは何が起きたのかと驚き、目を開けた。
その時、Xの目の前には、自らの手で首を絞める大勢の人の姿があった。
首の骨が折れるんじゃないかというほど締め付けているのか、全員首の色が変わり、それから少しして次々と人が倒れていった。
何が起こっているのかわからないまま、そこには縄を解かれた無表情の少女と、Xしかいなかった。
少女はXの方を見ると、ゆっくり近付いてきた。
自分も殺されてしまうと思ったけど、少女は何もすることなく、Xの横を通り過ぎていった。
ただ、その時に少女から聞いた言葉を、Xは忘れられないそうだ。
「このことを一人でも多くの人に伝えてください」
少女が最後に残した言葉の意味はわからないけど、Xは少女が言った通り、私にそれを伝えたというわけだ。
Xは、強力な言霊を扱うことができる少女によって、宗教団体を潰されたんだと強く主張した。
でも、あまりに荒唐無稽で、事実確認もできなかったので、当時の私は、これをコラムに書かなかった。
とはいえ、取材で聞いた内容はそのまま残っていたので、今回ここで紹介した形だ。
この話がいつどこであったのかということはわからないし、本来雑話に書くまでもない内容だと思う。
それなのに、私は雑話に書こうと思った。
その理由は、Xの話に出てきた少女と、本物の霊能力者と紹介している彼女が、どこか似ていると感じたからだ。
さすがに同一人物とは思っていないけど、やろうと思えば彼女にも同じことができる。
今は、そんな気がしている。
実は、これまで私の中で納得できなかったので、紹介しなかったことがいくつかある。
その一つは、「隠された真実」という雑話で、エリさんから言われたことだ。
それは、「本物の霊能力者と信じている彼女を疑え」というものだった。
最初にそう言われた時、エリさんが何を言っているのかわからなかった。
でも、今は少しずつ、わかり始めてきた。
これまで、私は彼女を信じすぎていた。
本来なら、疑うことの方が多い私なのに、彼女だけは何の疑いも持つことなく信じていたわけだ。
それはどう考えてもおかしい。
何がきっかけだったのかわからないけど、そうしたことに私は気付いた。
別の視点として、彼女に疑いを持とうと思った時、彼女に対する疑いは案外色々とあることにも気付いた。
今回は言霊や洗脳に関する話をしているので、それだけに絞ったものだけ挙げてみる。
彼女は私を洗脳しているのかもしれない。
言霊で人を操ることができるというなら、それによって彼女は私を操っているのかもしれない。
そんな推測を立てた時、それを否定する根拠は一切ない。
それなのに、何故彼女のことを信じていたのだろうかと、私は疑問を持った。
私は怪異に対して、「信じたいけど、信じられない」という思いをこれまで伝えてきた。
今、私は彼女に対しても、「信じたいけど、信じられない」という思いを持っている。
聞きたいことがたくさんあるけど、未だに連絡が取れない状態が続いているし、今何が起こっているかを知るためにも、彼女から話を聞くことは必須だろう。
そうしていつか再会した時、私は彼女を信じるべきかどうか、改めて考える必要があると思っている。
人を疑うことは良くないなんて言葉がある。
でも、本当にその人を大事に思い、信じたいなら、時には疑うことも必要だ。
私は、より彼女のことを信じたいので、直接話を聞くまで、彼女のことを疑いたいと思う。
そんな雑話でした。




