何故人は洗脳されるのか?
前回から引き続き、知り合いのオカルトライターであるナナシから聞いた話を今回も紹介する。
前回、「名前を付けられた怪異」の噂がどう広まったか、何故私やエリさんがどこでこの噂を聞いたか覚えていないのかという疑問にナナシは答えてくれた。
ただ、後者の私達がこの噂をどこで聞いたのか覚えていないという点について、ナナシは前回と別の話もしてくれた。
それは、一般的に「洗脳」と呼ばれるものに関する話だ。
いきなり洗脳と言われて、若干の戸惑いはあったけど、先日降霊術師のNと会った際、催眠術についても色々と話を聞いたので、似たようなものだろうと判断した。
ただ、ナナシの話は私のそうした浅い認識だと理解に苦しむものだった。
ナナシ曰く、洗脳されている人は、世界中の人ほぼ全員だそうだ。また、洗脳されている人は、自分が洗脳されていることに全員気付いていないとも言った。
普通なら、そんなことあるわけないと全否定するけど、妙にナナシが冷静な感じで淡々とした口調で言うので、私はそんな話もあるのかと受け入れて、ナナシの話を詳しく聞くことにした。
ナナシによると、人は洗脳されやすい生物とのことだ。
というのも、人は常に知っているという状態を維持したい生物だ。
知らないという状態をとにかく嫌い、真偽が不明でも、とにかく知っているという状態にしたい。
それが人間という生物だ。
だからこそ、これが事実だといった情報を繰り返し伝えることで、人は簡単に洗脳されてしまう。
洗脳の手順は単純で、具体的な数といった事実でなく、感想や感情をとにかく多く伝えればいい。
それは不安だとか、怖いとか、ネガティブな感情を煽るほど効果的だ。
具体的な数を伝える際も、例えば百という数をそのまま言うのではなく、少ないと思わせたいなら「百しかない」と伝え、多く思わせたいなら「百もある」と伝える。
これだけで、簡単に人は洗脳され、事実と異なることでも信じてしまうらしい。
ただ、この話は前提として、そうした情報を流すものを、受け取り側が信用しているかどうかによって変わるらしい。
例えば、以前の雑話でも紹介したけど、霊感商法という詐欺も、洗脳と似たようなものだ。
不安や恐怖を煽ることで相手を騙し、大金を奪うというのが一般的な霊感商法の手口だけど、これは典型的な洗脳の手口と同様だ。
この時、自称霊能力者を信用していない人なら、洗脳されずに済み、大金を騙し取られることもない。一方、自称霊能力者を信用している人だと、簡単に洗脳されてしまうわけだ。
つまり、人が誰か――何かに洗脳される時、それは信じる気持ちがある時というわけだ。
反対に、言われたことや入ってくる情報などを、信じることなく疑っている人は、洗脳されにくいことになる。
その点、私は基本的に入ってくる情報を疑う人なので、洗脳されにくいタイプの人間というわけだ。
そう安心したけど、ナナシによると、私の方が危険だそうだ。
というのも、多くのことを疑う人は、極一部のことだけ信じてしまう傾向があり、それによって他の人よりも強い洗脳を受ける危険があるらしい。
ここまでナナシの話を聞いて、私は何を信じているかと思い返してみた。
そして、この雑話で本物の霊能力者と紹介している彼女のことを思い出した。
私は怪異を信じたいけど、信じられない。これは何度も言ってきたことだ。
でも、私は霊能力者だという彼女のことを信じている。
以前こう書いた時、自分でも矛盾していると思ったけど、ナナシからすると、私は彼女に洗脳されている可能性があるということになる。
ただ、さすがにそんな馬鹿げた話があるのだろうかと、考えてしまった。
ナナシは洗脳に関する話として、こんな話もしてくれた。
その日、女子大生のUは、小学生時代の親友Mと話していた。
幼い頃、UとMは家が近所で、ほぼ毎日一緒に遊んでいた。
でも、ある日Uが引っ越すことになり、それ以来、二人は会うこともなければ、ほとんど連絡し合うこともなくなってしまった。
そんな二人が再会したのは本当に偶然で、買い物をしていた時、丁度同じ店に二人がいて、会った時はお互いに驚きつつ、すぐに連絡先を交換した。
その後、会って話そうということになり、この日それが実現したわけだ。
二人は近況報告をした後、昔一緒に遊んだ思い出などを話し始めた。
その際、Mからよく一緒に遊んでいたもう一人の親友Aの話があった。
でも、UはAのことを覚えていなくて、戸惑ってしまった。
Mの話だと、いつも三人で遊んでいたというけど、Uの記憶だと、いつも二人で遊んでいたという認識だった。
ただ、MがAのことを詳しく話すので、Uは自分の記憶違いだろうと納得した。
そして、Mと色々と話しているうちに自然とUもAのことを思い出し、Aは今どうしているだろうかといった話題になった。
それから、Uは昔のアルバムが家にあることを思い出し、今から家に行って一緒に見ようと提案した。
その提案をMが受け、二人はUの家に行った。
本棚から久しぶりに出したアルバムを二人で見て、お互いに懐かしいと話し合った。
昔一緒に遊びに行った公園で撮った写真。お互いの自宅でゲームをした時の写真。お互いの家族と一緒に旅行した時の写真。すべて大切な思い出を写したものだ。
ただ、そうしてアルバムを見ていく中で、少しずつMの顔が険しくなっていった。
「M、どうかしたの?」
「何で、Aの写真がないの?」
Mに言われるまでUは気付かなかったけど、写真に写っているのはUとMだけで、Aが写る写真は一枚もなかった。
あれだけ一緒に遊んだのに、Aが写る写真がないというのは確かに変だった。
Uがそんな風に思っていると、Mはただただおかしいと言い続け、次第に大きな声で叫ぶほどの興奮状態になってしまった。
そして、しばらく叫んだ後、Mが突然気絶してしまい、Uは慌てて救急車を呼んだ。
その後、UはMの両親に会い、Uが引っ越した後のMについて話を聞くことができた。
Mにとって、Uは唯一の友人といった感じだったらしく、Uが引っ越した後、Mは一人きりになってしまったそうだ。
そうした状態に耐えられなかったのか、Mはずっと前からAという友人がいたんだといった妄想をしてしまったらしい。
これはイマジナリーフレンドと呼ばれるもので、精神を安定させるために空想の友人を作り出すというのは、そこまで珍しいことじゃない。
ただ、そんな話を知らなかったUとしては、そんなことがあるのかと複雑に思いつつ、その後もMとは定期的に会うようにしようと決めたそうだ。
そんなUとMは今でも友人同士で、時々会っているようだ。
その中で、Uは一つだけ不思議に思っていることがある。
Mが空想で生み出したというAとの記憶が、何故かUの中にもあるそうだ。
Mと会った時には、よくAの話題になり、Aに対する認識もUとMは一致している。
果たして、Aが本当にMが空想しただけの、存在しない人なのだろうかと、Uは今でも疑問に思っているらしい。
この話は、いわゆる洗脳によって記憶が変わってしまった例じゃないかとナナシは言った。
あまりにも自然にAの存在を話すMに洗脳されて、UもAが存在したといった記憶を持つようになったというわけだ。
また、この話はAを生み出したM自身が、そもそも自己暗示のような形で自らを洗脳してしまった話でもある。
そうした話をしたうえで、ナナシは私に質問をしてきた。
それは、「この前、アッキーが話していた『名前を付けられた怪異』の話をまた聞かせて」といったことを、誰かが言っていなかったかというものだ。
この時、「名前を付けられた怪異」の話を私がしていなかったとしても、私の記憶違いで、実は話したのかもしれないと錯覚する。
その結果、私が元々知らなかった「名前を付けられた怪異」の噂を何故か知っていたと洗脳されてしまうとのことだった。
ナナシの話を聞いて、私は過去に何があったかを改めて思い返してみた。
でも、私はそこまで頭が良くないし、実際のところどうだったかというのは、いくら記憶を探っても思い出せなかった。
だから、ナナシが示した説も十分あり得るかもしれないと感じた。
前回も書いたけど、ナナシは私と違う視点や考えを持っているようで、理解に苦しむことが多い。
私は、自分が洗脳されているなんて思っていない。
でも、ナナシによると、洗脳されていると自覚していない=洗脳されているということらしい。
どうにも受け入れがたい話だけど、現状それを否定する根拠は持っていない。
なので、話半分でも受け入れつつ、私は絶対に洗脳なんかされていないという根拠を今後探したいと思う。
そんな雑話でした。




