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噂はどうやって広まるのか?

 これまで、「名前を付けられた怪異」について調べたところ、色々とわかったことがあった。

 それを知り合いのオカルトライターに報告した際、向こうも色々とわかったことがあったと報告してくれた。

 それで、お互いに情報を共有しつつ整理しようと、急遽会うことになった。

 今回は、そこで話したことを中心に紹介しようと思ったけど、その前に「彼」のことを改めて紹介したい。


 これまでの雑話で、「知り合いのオカルトライター」とか「他のオカルトライター」と表記した人物は、すべて同一人物で、同業者の男性を指している。彼のことを最初に雑話で書いたのは、「呪いは存在するか?」という雑話だったかと思う。

 私は雑話を書く際、先輩であり師匠でもあるエリさんだけ特別扱いといった感じで、他の人は基本的にイニシャルを表記するようにしている。

 あと、本物の霊能力者と紹介している彼女については、彼女自身が名前を付けられたくないと言ったので、単に「彼女」とだけ表記している形だ。

 そんな中、彼について「知り合いのオカルトライター」といった表記にしているのは何故かというと、彼が決まった名前を使用していないからだ。


 どういうことかというと、まず彼は本名を名乗らず、いわゆるペンネームを名乗るようにしている。

 それなのに、ペンネームをコロコロと変えてしまうので、会う度に名前が変わるのだ。

 また、彼はオカルトライターとして活動するだけでなく、オカルト以外の記事を書いたり、小説も書いたりしているようで、その際にまた別のペンネームを使っているらしい。

 そういった理由から、彼をどう呼べばいいか、現実でも困っているぐらいで、この雑話でも「知り合いのオカルトライター」といった表記になったわけだ。


 でも、それだと不便ということもあり、この雑話で彼のことをどう表記しようかと今更ながら考えてみた。

 それで、彼の了承も得たうえで、「ナナシ」と表記させてもらうことにした。

 わかるかと思うけど、彼に決まった名前がない=名無しということで、ナナシにさせてもらった形だ。


 ちょっと余談が長くなったけど、ここから本題に入ろう。

 ナナシには「名前を付けられた怪異」の噂がどういった形で広まったのか調べてもらっていた。

 この辺りは「残されたメモ」という雑話で書いたことだけど、十年前に起こった事件が基になっているはずなのに、所々事実と異なる部分がある点や、どこでこの話を知ったのか私やエリさんなどが覚えていない点など、そうした疑問を解決する答えを探してもらった形だ。

 こうして書くと、随分難しいお願いをした気がするけど、ナナシはある程度その答えを見つけてくれたとのことだ。

 ナナシによると、事実と異なる噂が広まることは頻繁にあるそうで、その仕組みを理解していると、今回の話も理解しやすいそうだ。

 それで、ナナシはこんな話をしてくれた。


 根拠を示したうえで、事実をわかりやすく多くの人に伝えた場合、事実と異なる噂が広まることはない。

 これは当たり前の話で、事実と異なること=嘘と多くの人が認識するので、噂を聞いた人が他の人にそれを伝えることなく、噂が広まることはないわけだ。

 その前提で考えると、事実をわかりやすく多くの人に伝えられていない時、事実と異なる噂が広まってしまうということだ。


 今回、ナナシに調べてもらった「名前を付けられた怪異」の噂も同じとのことだ。

 一家心中を図ったとされる事件の詳細は伏せられ、大きく報道されることもなかった。

 それはつまり、多くの人が事実を知らないということで、そうなると根拠のある事実でなく、推測によって何があったのかを考える必要がある。

 その結果、事実と異なる噂が広まるのは当たり前だとナナシは言った。


 そんな前置きをしたうえで、ナナシは「名前を付けられた怪異」の噂がどう広まっていったか、調べた範囲でわかったことを教えてくれた。

 まず、発端は怪異に名前を付けた少女――この雑話で本物の霊能力者と紹介している彼女で、ほぼ確定とのことだ。

 両親が亡くなるという、ショッキングな出来事を体験したわけで、彼女は事実に基づいた証言ができなかったことが予想できる。

 また、彼女が元々怪異やオカルトに興味を持っていたとしたら、現実に起こってしまった非現実的なことを怪異のせいにしてもおかしくない。

 そうして、彼女は父親が一家心中を図ったという事実でなく、怪異によって両親が殺されたという証言をした。


 この証言は、警察だけでなく、事件に興味を持って調べた人達にも伝えられたはずだ。

 その中には、心霊好きの男友達Yや、その恋人だったMもいたかもしれない。

 そうして、今も事実と異なる噂が広がり続けているというわけだ。


 ちなみに、ここでナナシは、二ヶ月ほど前から広まり出した妙な噂として、全国各地で突如現れる霊能力者の話をしてくれた。

 内容としては、怪異によるものと思われる問題を抱えている人の所に、ある女性が突然現れ、解決してくれるというものだ。

 その際、女性は礼などを一切受け取らないで、その代わり「ある話」をしてくるそうだ。

 その話というのは、今私達が調べている「名前を付けられた怪異」の噂にそっくりらしい。


 ナナシの話を聞いて、私はまず本物の霊能力者と紹介している彼女のことじゃないかと感じた。

 今、私は彼女と連絡が取れない状態が続いているけど、全国を回って浄霊しているんだとしたら、それも納得できる。

 ただ、彼女はなるべく怪異に近付かないようにしていたはずで、どういった心変わりがあったのだろうかといった疑問も残る。

 なので、もしかしたらナナシの話に出てきた女性と彼女はまったくの別人かもしれない。

 とはいえ、女性が「名前を付けられた怪異」の噂を広めているというのは気になるところだ。

 ナナシが調べた限り、これ以上の詳細はわからなかったそうだけど、私も調べてみようかと思う。


 それからナナシは、私やエリさんが「名前を付けられた怪異」の噂を誰から聞いたか覚えていないという点についても話してくれた。

 これについて、ナナシは複数の説を考えているようで、まず現実的な説を教えてくれた。

 それは、この噂を断片的に聞いたんじゃないかという説だ。

 例えば、単に霊感のある少女の話だけ聞いた後、名前を付けたことで怪異と仲良くなった少女の話を聞き、それから怪異に両親が殺された少女の話を聞いたんじゃないかということだ。

 これらの話は、それぞれ一つ一つ別々の話として聞いても違和感がない。

 でも、少女という共通点があり、すべて同じ少女が体験したこととして繋げることは簡単にできる。

 私やエリさんはオカルトライターとして、時に似たような話を聞くことがある。その中で、これらの話をどこかで聞き、無意識のうちにすべての話を繋げてしまったんじゃないかというわけだ。

 その後、「名前を付けられた怪異」という噂が存在すると知った時、既にこの噂を知っていると錯覚したようだ。


 ナナシに言われてみて、その可能性も十分あると感じた。

 生まれつき霊感を持つ人の話や、幽霊と仲良くなった人の話、怪異に家族を殺された話、どれもよくある話で、オカルトライターとして仕事をしていれば、数え切れないほど聞いてきた話だ。

 それらに共通点を感じることも当然あるし、そうして本来は何の繋がりもない別々の話を自分の中で繋げることもある。

 実際、「名前を付けられた怪異」について調べて行く中で、何の関連もなさそうな点が線で繋がっていくのを感じている最中だ。

 ただ、私は断片的というわけでなく、完全な形で「名前を付けられた怪異」の噂を知っていたという認識なので、このナナシの説を受け入れることはできなかった。


 そんな私の思いを受けて、ナナシは別の説として、オカルト的な説も話してくれた。

 人の記憶は脳にあるとされているけど、その仕組みについては不明な点が多い。

 だから、突拍子もない仮説が多く、これも先述した通り、事実と異なる噂が広まるという話と一緒だ。

 そうした仮説の一つに、記憶というのは脳じゃなくて、何もない空間に保存されているんじゃないかといった説がある。

 この空間というのは、基本的にその人のすぐ近く――頭の周辺といわれている。

 だから、時に他の人の記憶に触れて、お互いに記憶を共有することもあるらしい。

 これは身近な人同士で発生しやすく、時にはお互いに何の話もしていないのに、同じ記憶を持つこともあるそうだ。


 そして、時にそうした記憶を保存している空間に怪異が介入して、ありもしない記憶を持たせることもある。

 特に怪談は、そうした現象を起こしやすい。

 人から聞いた怪談を他の人に話した時、相手の方から既にその話を知っていると言われた経験はないだろうか。

 それは単に有名な話だからというわけでなく、怪談そのものが怪異として、相手の記憶に影響を与えたケースもあるらしい。

 もしも、怪談を話した時に相手が知っていると言ったら、どこで話を聞いたのか確かめてみるといい。

 もしかしたら、誰から聞いたか覚えていないけど、何故か知っていたという、今の私と同じような状態になっているかもしれないからだ。

 そうした視点で考えた時、私やエリさんなどが「名前を付けられた怪異」の噂を知っていたのは、空間に保存された記憶が怪異によって操作されたか、あるいは単に身近にいたからという理由で、お互いに記憶を共有してしまったというわけだ。

 記憶に作用する怪異の話は、最近エリさんから聞いて知っていたけど、まさか記憶そのものが空間に保存されているという発想はなかった。


 ナナシは突拍子もない話ですらありえるかもしれないという、私と違った考えを持っているようで、話を聞いてもなかなか理解に苦しむことが多い。

 でも、そうした視点もあるというのは興味深く、私はまだまだ頭が固いし、多くの視点を持てていないんだろうなと反省した。

 これ以外にもナナシは様々な説を話してくれたり、調べてわかったことを報告してくれたりしたけど、それは次回以降に紹介する。


 噂というか、情報が人から人へどう広まっていくかというのは、怪異と同じように不思議なもののようだ。

 私も情報を人に伝える仕事をしているので、改めて情報というものに向き合ってみたいと思う。


 そんな雑話でした。

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