降霊術師との再会
以前、「降霊術師」という雑話で、降霊術師を名乗る者と会ったことを話した。
でも、実際に降霊術を行ったところで、何故か降霊術師が帰ってしまい、それ以降、何の連絡も取れなかった。
そんな状態がしばらく続いていたわけだけど、刑事のKさんからもらった情報……独り言のおかげで、この降霊術師の行方がわかり、会うことができた。
なので、今回は、そうして降霊術師と再会してわかったことなどを紹介したい。
まず、Kさんの独り言によってわかったことを伝えておきたい。
この降霊術師――ここではNと表記させてもらう。
Nは、元々精神病患者を相手にするカウンセラーだったそうで、特に催眠療法を行っていたそうだ。
そんなNがある日突然仕事を辞め、新たに始めたのが降霊術師の仕事だったわけだ。
そんな経緯があるので、Nが催眠術を使って、あたかも降霊術を行っているかのように見せかけているんじゃないかといった疑惑があるそうだ。
それは詐欺行為になるわけで、被害の報告などが何件か警察にあったようだ。
なので、Kさんは私が詐欺の被害にあわないようにと、これまでNの行方を話さないようにしていたらしい。
ただ、私がどうしてもNに会って、話を聞きたいとお願いしたので、Nに関する独り言をKさんはしてくれたのだろう。
ちなみに、Kさんの意見を否定するわけじゃないけど、降霊術を行う際に催眠状態を利用するといった話も聞いたことがあるので、Nが催眠術を行えること自体はそこまで不思議じゃない。
この辺りは「コックリさん」という雑話でも触れたことだ。
とはいえ、どこかのタイミングで催眠術をかけられ、何か変なことをされる危険もあるので、警戒は必要だろう。
しかも、現在Nは家に引きこもってしまっているようで、Kさんのおかげで何とか会う約束ができたものの、Nの自宅で会うことになってしまったから、尚更警戒が必要だ。
というか、さすがに男性宅に一人で行くというのは抵抗があり、そもそもで行っていいか考えてしまった。
そんな私に助け舟というか、なんとKさんも一緒に来てくれることになった。
さすがにまずいんじゃないかと思ったけど、Kさんの話だと、まだNに対する捜査が始まったわけじゃないし、あくまでプライベートで私に付き添うだけという形だから、問題ないとのことだった。
本当にそうなのかと心配だけど、Kさんがそういうなら、そういうことなんだと思いたい。
そんなわけで、Kさんと待ち合わせてから、一緒にNの家へ向かった。
Nの家は、少し高級そうに見えるアパートだった。
部屋のチャイムを鳴らし、少しして出てきたNを見た時、私は思わず驚いてしまった。
先日会った時、Nはいかにも好青年といった感じで、若く見えた。
それが今は随分と老けたというか、具合も悪そうに見えるし、心配になってしまった。
「……Nさんですよね? 本日はお忙しい中……」
「入ってください」
Nは素っ気ない感じでそれだけ言うと、奥へ行ってしまった。
私達は若干戸惑いつつ、Nの後をついていく形で部屋に入った。
雨戸などを閉めているようで、昼間訪れたにもかかわらず、部屋の中は薄暗かった。
中はそこまで散らかっていないというより、むしろ物が少なくて、それなりに広い部屋なのもあって、殺風景に見えた。
それでも一応テーブルと椅子はあって、そこに案内された。
「先日はすいませんでした。今日も会うか迷ったんですけど……あなたの催眠状態が解かれていない可能性もあったので、それだけ済ませようと会うことにしたんです」
Nはそんな風に切り出してきたけど、何を言っているのかわからなかった。
そこでさらに詳しく聞いたところ、Nは降霊術を行う際、依頼者を催眠状態にするそうだ。
この辺りは想定していたことだし、やはりそういうこともあるのかといった感じだった。
ただ、先日会った際、私にも催眠術をかけていて、しかもそれを解くことなく中断してしまったという話には少々驚いた。
とはいえ、二ヶ月以上過ぎた今も私は特に異常などもないし、これについては問題ないと答えた。
でも、Nは納得していない様子だった。
自覚がないだけで、何かしらか影響が残っている可能性もあるから、しっかり催眠状態を解いた方がいいと強く言ってきた。
そんなことを言って、反対に催眠状態にされるんじゃないかと勘繰ったけど、そこはKさんもいるし、Kさんからも解いてもらった方がいいと助言があったので、Nの提案を受けることにした。
先日と同じで、Nはまず目を閉じるように言ってきた。
そして、言われるまま目を閉じると、今度は聞きなれない呪文のようなものが聞こえてきた。
それから少しの間だけ意識がなくなり、次に気付いたのは、Nから目を開けるように言われた時だった。
一瞬、時間が飛んだかのような変な感覚を持ちつつ、これでしっかりと催眠状態は解けたとのことだった。
別に、これまで催眠状態だったなんて自覚はないけど、実際に解いてもらったところ、何だか眠気が覚めたような、スッキリした気分になった。
なので、Nの言う通り、何かしらか影響を受けていた可能性はあるかもしれないと感じた。
催眠状態を解いてもらったところで、Nは私達に帰ってほしいといった雰囲気の態度を示してきたけど、そこでKさんから「聞きたいことがある」と言ってくれたので、もう少し話を聞くことができた。
Kさんは、Nが催眠術を使い、詐欺を働いていたんじゃないかという疑惑をそのまま伝えた。
そのうえで、Nが行っている降霊術について、実際のところ何をやっているのか詳しく聞いた。
Nの話によると、依頼者を催眠状態にした後、呼び出してほしい霊の情報を聞くそうだ。
その後、繰り返し呪文のようなものを唱えながら精神を集中させると、Nの頭の中に直接語りかけてくるような声が聞こえるらしい。
それが霊を呼び出すことに成功した合図で、それから頭の中で霊に質問すると、霊が依頼者に何を伝えたいのか答えてくれるそうだ。
そうして霊の言葉を聞いたら、依頼者の催眠状態を解き、その霊の言葉を伝えるというわけだ。
ここまでNの話を聞いて、私は思うところがあった。
Nが行っていることは依頼者だけでなく、自己暗示のような形で、N自身も催眠状態にしている可能性が考えられた。
催眠術をかける者自身が催眠状態になってしまうというのは当然危険で、場合によってはそこにいる全員が催眠状態になってしまう可能性もある。
催眠状態の人が自分の意志とは関係なく、他の人に危害を加えるケースもあるし、Nの降霊術は危険そのものだったわけだ。
そうした指摘をしようとしたところ、Nの方から、もう二度と降霊術を行うことはないと言ってきた。
それに、Nは遠く離れた実家の方で暮らすことにしたそうで、現在引っ越しの準備中だそうだ。
随分と突然なので、心境の変化でもあったのだろうかと聞くと、何か憑き物が落ちたのかもしれないといった、意味深な答えが返ってきた。
それから、Nは少しだけ悩んだ様子を見せた後、降霊術師になろうと思ったきっかけを話してくれた。
元々、Nは亡くなった祖父に会ったり、親友の母親の幽霊を呼び出したりといったことができたと話していた。
でも、降霊術師として、それを仕事にしようという考えにはならなかったようだ。
これについては、N自身が怪異に対して本当に存在するのだろうかと疑問を持ったのが理由だそうだ。
一応この時点でNは不思議な体験をいくつかしていたものの、すべて幻覚のようなものだったんじゃないかと考えるようになっていたらしい。
ただ、Nには悩んでいる人を救いたいといった気持ちが強くあり、先述した通り、催眠療法を行うカウンセラーという仕事を選んだ。
カウンセラーをしていた当時、相手にするのは精神病患者で、過去にトラウマを抱えてしまった人も多かったそうだ。
そんな中、ある女子高生の催眠療法を行っていた際、Nは不思議な体験をしたとのことだ。
いつも通り、患者を催眠状態にしようとしたところ、突然患者が「白」とつぶやいたそうだ。
一瞬、Nは何のことだろうかと思いつつ、気にしていなかったようだけど、少しして、目の前が真っ白になってしまったという。
それからどれぐらいの時間が経ったかわからないものの、突然聞こえた大きな叫び声と、体を押さえつけられるような衝撃によって、Nは我に返った。
その時、Nはボールペンを自らの首に突き刺そうとしていたそうで、それに気付いた看護師が必死に止めたそうだ。
おかげで、特に怪我人なども出なかったものの、Nはこの体験が怪異によるものじゃないかと感じたらしい。
それから少しして、Nはカウンセラーの仕事を辞めたそうだ。
そして、怪異が本当に存在するんじゃないかと考えを変えた後、Nは怪異について可能な限り調べたらしい。
その中で、Nは催眠状態を用いた降霊術の存在を知った。
これを知った時、元々霊を呼び出すこと――降霊ができるし、催眠療法もできるNは、自らが降霊術師になることが運命なんじゃないかと確信したそうだ。
そして、Nは降霊術師として、これまで活動してきたわけだ。
ただ、そのことについて、Nは間違っていたという考えを今持っているそうだ。
色々と振り返ってみると、そうして降霊術師になろうと思ったことも含め、何か憑き物に操られていたかのような感覚をNは持っているそうだ。
なので、今は何であんな危険なことをしていたのだろうかという思いしかないようで、だからこそ降霊術師の仕事を辞めるだけでなく、ここを離れることにしたらしい。
何でそこまで大きな心境の変化があったのかNに詳しく聞いたところ、先日私が取材した際に行った降霊術がきっかけだと話してくれた。
あの日、私は催眠状態だったようで何も覚えていないけど、何故か「白」とつぶやいたそうだ。
そんな私の声を聞いた瞬間、Nは先述した女子高生の催眠療法をした時と同じように、また目の前が真っ白になっていく感覚があったらしい。
それでNはさすがに怖くなると、無理やり降霊術を中断したようで、それがあの時聞いた大きな音の正体だったようだ。
そして、今度またこの「白い何か」に遭遇したら、自分の命はないんじゃないかと心配になり、辞める決意をしたとのことだ。
そこまで話を聞いて、色々と気になるところがあったけど、私の質問は一つだけだった。
それは、催眠療法を行った女子高生に関する詳細な情報についてだ。
これについては、守秘義務もあるだろうから、話せる範囲で構わないとも伝えた。
そのうえで、Nが話してくれたことは、ある程度予想していたものだった。
Nが催眠療法を行った女子高生は、一家心中事件の生き残りで、既に両親を失っているという話があったらしい。
それを聞いて、私とKさんは今行方を捜している、この雑話では本物の霊能力者と紹介している彼女のことだろうと推測した。
ずっとNは私達に早く帰ってほしいといった態度を示していたので、さすがにここまでにして、そこを後にした。
その後、私とKさんは、少し話そうと喫茶店に入った。
そして、私からKさんにはっきりと伝えた。
「Kさんは怪異を信じないで、現実的な視点で調べてください。そのうえで、『彼女』の行方を追ってください」
これまで、Kさんに頼りすぎな気がしていたので、少し距離を置く意味も兼ねて、そんな言葉を伝えた。
これには、Kさんが多少なりとも、怪異と呼ばれる存在を信じていると言っていたことも関係している。
怪異を信じることで霊障を受ける可能性があるというなら、Kさんを怪異と呼ばれるものから遠ざけたいと思ったわけだ。
「わかった。何かあったら知らせてほしい。俺も何かあったら知らせる」
さすがのKさんというか、そんな私の思いを受け取ってくれたようだ。
特に質問をすることもなく、すんなりと受け入れてくれた。
ずっと連絡の取れなかった降霊術師のNから話を聞くことができて、また多くのことがわかった。
とはいえ、現状はわからないことばかりだ。
だから、私の中で様々な推測を立てる必要があるし、そうして推測を立てても、どれが正しいか見当もつかない。
そんな混乱状態のまま、今回の雑話を書いたので、相変わらず伝わりづらいことになっているかもしれない。
でも、少しずつ整理して、近いうちに私なりの推測をなるべくわかりやすく伝えたいと思う。
そんな雑話でした。




