隠された真実
前回の件があった後、私は知り合いの刑事であるKさんに連絡した。
そして、私が考えていることをそのままKさんにぶつけた。
それは、Kさんが私に何か隠しているんじゃないかということだ。
心霊好きの男友達Yと、その恋人のMが亡くなった件について、詳しいことをKさんは知っている。
白いもや――今は真っ白な顔が写っている写真。そこに写る男女二人がどこの誰なのか、Kさんは知っている。
もしかしたら、本物の霊能力者と紹介している彼女や、急に帰ってしまった降霊術師といった、連絡が取れない人達の情報も、Kさんは知っている。
それなのに、Kさんは私に何も教えることなく、今も隠している。
そんな気がしたのだ。
こうして書いてみたけど、いったい何を言っているんだという感想を私自身持っている。
それこそ、被害妄想だとか、混乱しているんじゃないかとか、そんな風に感じる人が多いと思う。
でも、私は間違っていなかったようだ。
Kさんは観念したように、私と会う約束をしてくれた。
当日、そこにはKさんだけでなく、先輩であり師匠でもあるエリさんもいた。
ただ、私は特に驚くこともなかった。
Kさんが知っているなら、エリさんも知っているはずだ。
つまり、二人とも私に隠していることがあるのだろう。
そうしたことを理解しつつ、私は二人から話を聞いた。
まず、例の心霊写真に写る男女二人について、Kさんは話してくれた。
この二人は、十年前――2011年4月1日に起きた、ある事件で亡くなっている。
そして、その事件というのは、私が雑話で紹介した「名前を付けられた怪異」という噂になっているものだ。
これは「残されたメモ」という雑話などで、以前から話していたし、私にとって既に知っていることだった。
でも、Kさんの話はそこで終わらなかった。
この事件は、夫が妻を殺害した後、自殺したとされているけど、この夫はYとMが働いていた会社の社長だったそうだ。
そして、Y達はこの事件のことを知った時、社長の性格などから、そんなことするわけないと考え、独自に事件のことを調べ始めたらしい。
ただ、警察の見解としては、単に一家心中を図ったんじゃないかという見方が強かったそうだ。
というのも、事件を起こした夫は、かなり無理をして会社を興したらしい。
自分に合わないからと元いた会社を辞め、新たに会社を興したそうだけど、元いた会社の客を奪うことになるからと、相当な攻撃を受けていたそうだ。
そして、元いた会社の客を奪うことはしないという契約を強制的にさせられ、その結果、かなり経営が苦しいことになっていたようだ。
つまり、経営難に悩んだ末、一家心中を図ったものの、娘だけが見逃されたのか助かったということだ。
ただ、こうした警察の見解にY達は納得しなかったようで、この時、KさんとエリさんはY達に協力して、様々な情報を伝えたそうだ。
その中で、Y達は何かに気付いたようで、調査しに行くといったことをKさんとエリさんに伝えたらしい。
それから少しして、Y達が行方不明になり、後に亡くなっているのが発見されたとのことだ。
YとM、それぞれの死因や、どういう状況だったのかという部分は、結局教えてもらえなかった。
ただ、Kさんの様子を見る限り、相当悲惨な状況だったのかなと思う。
Kさんは刑事として事件を追う立場なので、現実的な視点でY達に起こったことを調べた。
一方、エリさんはオカルトライターとして、別の視点でY達に起こったことを調べた。それは、Y達が何か危険な怪異の霊障を受けたんじゃないかというものだ。
ただ、そうして調べても有力な情報が一切なく、エリさんの方はすぐに調査を断念したそうだ。
その後、エリさんは知り合いのオカルトライターが亡くなった件について不審に思い、調査を始めた。
そして、エリさんは「名前を付けられた怪異」という噂をいつの間にか知っているという、おかしな事態に直面した
この辺りは、「自覚なき霊障」という雑話で話したことでもある。
ただ、その時には話してくれなかったものの、知り合いのオカルトライターが亡くなった件と、Y達が亡くなった件に妙な共通点のようなものを感じたそうだ。
だからこそ、エリさんは身の危険を感じて、オカルトライターの仕事を辞めてしまったとのことだった。
混乱もありつつ、私はKさんとエリさんの話を頭の中で整理した。
とりあえず、危険なことをしようとしていることは重々承知している。
ただ、私はそれで止まるつもりなんかないわけで、Kさんとエリさんに知っていることを少しでも多く教えてほしいとお願いした。
二人は困った様子を見せたけど、私の強い思いが伝わったようで、色々と教えてくれた。
まず、Kさんから一家心中事件の生き残りである娘に関する情報をもらった。
この人物については、怪異に名前を付けた少女として、私もずっと調べていた。
その答えが明らかになったわけだけど、Kさんの話を聞いた時、さすがの私も驚いてしまった。
怪異に名前を付けた少女は……この雑話で本物の霊能力者と紹介している彼女だそうだ。
聞いた時はただただ驚きしかなかった。
でも、思い返せば、彼女はある少女が生み出してしまった怪異を浄霊したいと話していた。
このことは「タルパ」という雑話で書いたけど、当時、何でそんな話をしたのだろうかと疑問を持ったことは覚えている。
だから、その少女というのは彼女自身のことなんじゃないかと鎌をかけてみたものの、特に反応もなかったし、そこまで気にしなかった。
よくよく考えてみれば、あの時彼女が話してくれた話も「名前を付けられた怪異」によく似ている。
つまり、怪異に名前を付けた少女というのは彼女のことで、あの時彼女が話してくれたことは、少女の視点から「名前を付けられた怪異」の話をしてくれたということなのかもしれない。
この彼女については、今も行方不明というか、Kさんが調べても消息不明だそうだ。
今、最も話を聞きたい人物は誰かというと、彼女になるわけで、何の話も聞けないのは残念だ。
それに、もしかしたら、万が一の状況になっているかもしれないなんて言われて、私は複雑な気持ちだったけど、今も彼女が無事なことを祈った。
それからエリさんもオカルトライターとして活動していた時の知識を基に、この怪異がどういったものか推測してくれた。
エリさんはこの怪異が、記憶に作用する怪異なんじゃないかと考えているそうだ。
人の記憶というのは、案外いい加減で、記憶違いというものがよく起こる。
その中に、怪異による霊障が含まれているんじゃないかというのが、エリさんの考えだそうだ。
それはつまり、体験したことのない記憶を持ったり、何故か特定の部分の記憶だけ忘れたりといったことが、怪異による霊障として引き起こされたものじゃないかということだ。
これについて、Yも同じような霊障を受けていたんじゃないかとエリさんは話した。
それは、Yが「心霊写真を追う夢」という話をしたタイミングが妙だという理由から、そんな仮説を立てたとのことだ。
私もエリさんに指摘されて気付いたけど、Yは亡くなった当時、一人暮らしを始めてから、それなりに長い期間が過ぎているところだった。
それにもかかわらず、実家で家族と暮らしていた時に体験した話を、あのタイミングで突然言うのは確かに妙だ。
つまり、Yも霊障を受けて、実家で暮らしていた時にあんな体験をしたという、実際にはなかった記憶を持った可能性があるということだ。
今起こっていることを分析した時、エリさんの話は興味深いものだった。
どこで聞いたかわからない「名前を付けられた怪異」の噂を何故か知っていたこと。
本物の霊能力者と紹介している彼女から、「名前を付けられた怪異」を連想させる話を聞いたにもかかわらず、そうした話を一切彼女にしなかったこと。
心霊好きの男友達を何故かYじゃなくてSと紹介して、しかもつい最近まで彼が生きていると勘違いしていたこと。
すべて、私の記憶違いだけど、ここまで記憶違いが起こるだろうかという疑問を持っていた。
ただ、エリさんの話を踏まえると、これらの記憶違いは、怪異によって引き起こされていたことで、それはつまり私も霊障を受けたということだ。
とはいえ、私は頭が良くないので、ここまでひどい記憶違いを起こす可能性が低確率で一応あるということだけ付け加えておく。
そこで、エリさんは深刻な表情になった。
そして、エリさんは個人的な見解として、ある推測を私に話してくれた。
ただ、このエリさんの推測については、私の中で上手く納得できない内容だったので、今回は割愛させてもらう。
そのうえで、エリさんはまた前にしたのと同じ忠告を私にした。
それは、怪異やオカルトを信じるようになったら、すぐにオカルトライターの仕事を辞めるようにということだ。
ただ、私はこれだけ不思議なことが起こっているのに、未だに怪異やオカルトを信じていないので、まだまだ進むと答えた。
私の答えにエリさんは困った表情を見せつつ、そのまま突き進んでほしいとも言ってくれた。
エリさんも、これまで起こっていることについて知りたいという気持ちがあったそうだ。
だから、怪異やオカルトを信じていない=霊障を受けづらい私のまま、調べてほしいとお願いされた。
あと、Kさんからの情報として、突然姿を消してしまった降霊術師の行方については既に判明したとのことだった。
それだけでなく、Kさんはこの降霊術師について調べて、色々わかったことを教えてくれた。
ただ、この辺りは降霊術師と会う予定を作ることができたので、後日、降霊術師と会ったことを雑話に載せる際、Kさんから何を聞いたのかというのを併せて紹介したいと思う。
とはいえ、Kさんも私のことを心配していて、YやMのように万が一のことがあるんじゃないかと思っているそうだ。
そして、刑事として現実的な捜査をしたKさんから、こういった可能性もあるといった話を聞かせてもらった。
ただ、こちらも私の中で上手く納得できない内容だったので、割愛させてもらう。
エリさんとKさんが、私にこれ以上「名前を付けられた怪異」を追わないでほしいといった思いを持っていることは、わかっている。
でも、何が事実なのか知りたいと思っていることもわかった。
だから、私はここで引かずに前へ進もうと決めた。
暴走という言葉は、悪い意味で使われることが多い。
ただ、私は時に何も考えずに暴走するのもありと思っている。
そして、今この瞬間こそ、私が暴走するべき時だと思っているのだ。
とりあえず、先述した通り降霊術師と会う予定は作れた。
Kさんが調べてもわからなかったけど、本物の霊能力者と紹介している彼女の行方も引き続き調べる。
言い忘れていたけど、Kさんは刑事なので、捜査の過程で知った情報を他者に話すことができない。なので、Kさんの話はすべて作り話と思ってほしい。
大事なことなので、数百回ぐらい言いたいけど、これを読んでいる人には理解してもらえると信じて、一回伝えるだけにする。
最後に、私の今の考えを伝えたいと思う。
私は怪異を信じたいけど、信じられない。
そんな私が、怪異を信じることになるかもしれないことが、今起こっているわけだ。
そして、怪異を信じることになった瞬間、恐らく私は無事じゃ済まないだろう。
でも、たとえ私がどうなろうと、それで構わないという考えを持っている。
こうした考えは、さすがにエリさんとKさんに伝えたら反対されると思ったので、伝えなかったところだ。
ただ、私は自分が死のうとも、最期の瞬間に怪異を信じられるようになりたいと思っている。
問題は、何かが起こったとして、それを皆さんに伝えられるかどうかという点だ。
とりあえず、ある日突然、何の挨拶もせずにこの雑話を書かなくなるという状況にだけはならないようにしたい。
そんな雑話でした。




