心霊好きの男友達
これまで私は、怪異やオカルトを信じたいけど信じられないと何度も言ってきた。
それには、ある理由がある。
私には心霊好きの男友達がいた。
彼のことは雑話でも紹介していて、「世界線」という雑話でYと表記した人がそうだ。
中学生の時、私はYと交際していた。
交際していたといっても、中学時代の話なので、ただ一緒に遊ぶ程度の関係だったけど、私はYのことが好きだったし、Yも私のことが好きだったと思う。
中学生だと基本的に金欠なので、私とYのデートは公園で会話をするというのがほとんどだった。
そして、私とYの話題は、ほとんど怪異やオカルトの話が中心だった。
私もYも心霊好きだったので、お互いに怪談を語ったり、一緒に心霊系の本を見たり、今思い返すと完全に恋人らしくない感じだったかと思う。
若いんだから、ちょっとしたスポーツでもすればいいのに、お互い運動音痴だからと避けていたし、とにかく私とYは会話するというのがほとんどだった。
でも、私はYとの時間が何よりも大切で、ずっと一緒にいたいと思えた。
それこそ、一生一緒にいたいと思えるほどだった。
ただ、中学校を卒業した後、高校が別になることが確定したところで、私とYの関係性をこのままにしていいのだろうかと、私は本気で悩んだ。
そして、そのことをYに相談したところ、私の伝え方が悪かったのか、私から別れ話を切り出したことになってしまい、そのまま私はYと別れることになってしまった。
誤解なんだから、すぐに違うと言えば良かったのに、Yがあっさりと別れを受け入れたこともショックで、その程度にしか思われていないならと、私も意地になってしまった形だ。
それから十年近くの時が流れて、私はYと偶然の再会をした。
でも、Yと再会した時、Yの近くには誰が見てもお似合いといった感じの女性Mがいた。
だから、多少の嫉妬もあったけど、私はYの恋愛を応援しようと決心して、それは成就した。
Mは変わった人だったけど、私とも親友と呼べるほど仲良くなってくれたから、Mと知り合えたことも私にとって幸せそのものだった。
そんなYとMだから、私は心から二人の幸せを願うことができたわけだ。
私はYからオカルトライターのエリさんを紹介してもらい、おかげで今もこうしてオカルトライターとして活動できている。
ちなみに、Yとは再会した後も色々な怪談を語り合ったけど、そこで怪異やオカルトを信じているかという話になった。
実をいうと、当時の私は怪異やオカルトを信じている方だった。でも、Yは一切信じないといった感じだった。
信じていないなら、何で怪異やオカルトに興味を持っているのかと質問したら、とにかく楽しいし、信じたいとは思っているといったことを話していた。
ただ、Yは怪異やオカルトと言われている存在がどういうものか、色々と調べたようで、そうしてYなりにある結論を出したようだ。それは、Yや私が思っている怪異やオカルトが存在しないという結論だったそうだけど、よくわからない言い方だった。
当時、怪異を信じたいと思っていた私としては、当然Yの話に納得できなかった。
そうした私の気持ちを受けて、Yはある約束をしようと提案した。
それは、もしもどちらかが亡くなって幽霊になった時、何か不思議なことが起こせるなら、それを生きている相手に示すというものだ。
バカらしいと思うかもしれないけど、私とYは結構真剣で、どちらかが先に死んでも幽霊になって再会しようだなんて約束をした。
そして、十年前にYとMが亡くなったというのは、以前の雑話で書いた。
当時、Yは仕事が二年目に入り、一方MはYと同じ職場に入ったばかりだった。
しかも、Yが住む部屋の隣にMが引っ越してくるという、そこまでするなら同棲すればいいのにといった感じの半同棲状態になり、本当に幸せいっぱいといった感じだった。
これは余談だけど、私もY達と同じアパートの別の部屋に住んでいて、今も引っ越しすることなく、そこで暮らしている。
思えば、もう十年以上同じ部屋で暮らしていることになるわけだ。
さて、Yとした約束の件だけど、私はまだYの幽霊に出会えていない。
私に霊感がないのか、何か目に見えて不思議なことを起こす力がYにないのか、幽霊になったYと再会するなんてことは起こっていない。
できれば、Mの幽霊と一緒に現れて、「死んでも一緒だから幸せだ」なんて言ってほしいのに、そんなことは起こっていないわけだ。
だから、私は怪異やオカルトを信じなくなった。
当時のYは幸せな生活を送っていたように見えたし、それが急に命を落とすことになったわけで、絶対に大きな未練を残しているはずだ。
それだけの未練があれば幽霊になって、私のところにやってくるぐらい容易いはずだ。
それなのに、それがないということは、亡くなった人が幽霊になって現れるという話――怪異やオカルトが嘘なんだろうと思ってしまう。
もしかしたら、Yも私と同じで、幽霊になったとしても会いに来てほしいなんて約束を誰かとしたけど、その約束が果たされることなく時間が過ぎていくうちに、怪異やオカルトを信じなくなったのかもしれない。
でも、信じたいという気持ちは消えていない。
今この瞬間、Yの幽霊が目の前に現れてほしいとすら思っている。
それなのに、Yの幽霊は未だに現れてくれない。
だから、私は怪異やオカルトを信じたいけど信じられない。
今回、こんな話をしているのは、Yが残したブログを全部読み終えて、色々と思うところがあったからだ。
Yは一年間、日記のような形で当時あったことを毎日ブログに書いていた。
そこには私のことも書いてあって、そんな風にYから思われていたのかということも知りつつ、あんなこともあったなと懐かしい気持ちになった。
でも、そのブログは2010年4月1日で止まっている。
この日は、Yが仕事を始めた日で、「プロローグでエピローグ」だなんて、妙にカッコつけたタイトルを付けていた。
ブログを読んだら、Yは今も幸せに暮らしているように思えた。
きっと、苦労しながらも仕事を頑張って、恋人のMといつか結婚して、息子か娘といった家族が増えて、そんな生活を今もしていたはずだ。
でも、実際はそうじゃなくて、YとMは亡くなってしまった。
Yが書き残したブログを全部読み終えて、当時のことを思い出したからか、私は改めて気持ちの整理がつかなくなってしまった。
そんな私の心境を理解してくれているのか、前回紹介した黒猫のクロが私を慰めるように体を寄せてくれて、少しずつ救われている。
ただ、何故YとMが亡くなったのかという疑問をさらに強く持つようにもなった。
心のモヤモヤは、YとMの死因すらわからないという今の状況が生んでいる。
以前、別の世界線があったんじゃないかなんてことを雑話で書いたけど、私は何をすれば良かったのか、全然わからない状態だ。
もしかしたら、私が何かすることで変わったのかもしれない。でも、その手段が見当すらつかないという状態なわけで、私にとって決して解決されない悩みなわけだ。
そんな風に考えていたからか、私は不思議な夢を見た。
夢の中で、私は見知らぬ部屋にいた。
そこは真っ暗だったけど、目が慣れてきたところで気付いた。
何故かすぐ近くで、Yが寝ていたのだ。
ただ、Yは何か悪い夢でも見ているのか、うなされている様子だった。
大丈夫だろうかと眺めていると、そこでYが目を覚ました。
相当悪い夢だったのか、Yはしばらく放心状態といった感じだった。
それを見て、私は自然と口を開いていた。
「どんな夢を見たの?」
素朴に疑問だったし、こんな質問をしたけど、よく考えてみればもっと話すべきことがあったと思う。
ただ、夢なんてそんなもので、よくわからない行動をしてしまうものだ。
私の質問に、Yは少しだけ悩んだ様子を見せた後、答えてくれた。
「何か心霊写真を追っていて、写真の裏には『1991年4月1日』って日付があって、色々観光地とか回ったけど何もわからなくて……」
それを聞いた瞬間、私は意識が覚醒した。
それは目を覚ましたというわけじゃなく、私の伝えるべきことが何かわかったという意味だ。
今、Yは危険なものに近付こうとしている。
とにかくそれを止めたかった。
「その写真、調べちゃダメ!」
夢の中なのか、現実だったのかわからないけど、私は叫んだ瞬間、目を覚ました。
何故か涙が溢れてきて、混乱しかなかったけど、私はすぐに起き上がると、自分がこれまで書いた雑話を読み返した。
私が雑話を始めたきっかけの一つは、Yのブログを読み始めて、Yのことを思い出して、Yが話してくれた怪談などを紹介したいと思ったからだ。
そのはずなのに、私はそのことを何故か忘れていた。
そして、これまでの雑話を読み返して気付いた。
私は、雑話で知り合いを紹介する時、基本的にその人のイニシャルを表記するようにしている。
エリさんは例外というか、特別扱いで普段呼んでいるままエリさんと表記したけど、刑事のKさんや、大学生のDなどは、どちらも本人のイニシャルだ。
そして、私は心霊好きの男友達のことを「心霊写真を追う夢」という雑話で初めて紹介した。
この話は、Yが亡くなる少し前に話してくれたもので、思えばYが最期に話してくれた怪談だったことになる。
心霊写真が出てくるとはいえ、そこまで怖くなく、悪夢と呼んでいいのかすらわからない夢を見たと思ったら、目覚めた後も変な声がしたといった話で、私は聞いた時にゾクッとしたのを覚えている。
それに、結構思うところがあったから私の印象にかなり残ったし、それでYを紹介する初めての雑話として、この話を選んだほどだ。
私が見た夢と、Yのした話は、とてもよく似ている。
それも気になるといえば気になるけど、単にYのことを思い返していたから、あんな夢を見たんだということで説明できるし、今は考えないことにした。
というか、問題はそこじゃない。もっと問題にしないといけないことがある。
私は、この話をしてくれた心霊好きの男友達のことを雑話で書く際、何故かYじゃなくてSと表記しているのだ。
それも一度だけじゃなくて、何度も「心霊好きの男友達S」と書いていた。
Yの姓も名前も、イニシャルはSじゃない。
それなのに、何故かYじゃなくてSと書いていたわけだ。
もしかしたら、Yがイニシャルの人が多くて、実際雑話でも何度かYというイニシャルを使っているし、それで変えたのかとも考えた。
でも、それならイニシャルとして多そうなSを使うわけがないし、被ったなら姓のイニシャルを使うとかすればいい。
結局、いくら考えても、YをSに変えた理由はわからなかった。
Sが話してくれたといった形で紹介した雑話の中には、Yが話してくれたことをそのまま書いているものもあった。
ただ、それだけじゃなかった。
少なくとも、「同じ女の幽霊」、「深夜に響く声」、「二度と行きたくない心霊スポット」、「百物語」の四つは、Yから聞いた話じゃない。
それだけでなく、私はつい最近まで心霊好きの男友達と会い、話をしていたような気でいた。
でも、実際はそんなことあるわけがなく、すべて私の記憶違いということになってしまう。
いったいどうなっているのかと、私はただただ混乱して、気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした。
こうして深呼吸をするのはYの癖だったのか、時々しているのを見たことがあった。
それと同じことをしてみて、本当に気持ちが落ち着いた。
そして、まだ整理はついていないけど、私のするべきことがはっきりした。
私は今、「名前を付けられた怪異」について調べているけど、Yが夢で見た心霊写真は、以前「真っ白な顔」という雑話などで書いた、問題の心霊写真だった可能性が高い。
これについては、写真の裏に書かれた日付が同じだし、何で今まで気付かなかったのだろうかといった感じだ。
それに気付いた今、私が追うべき一番の対象は、きっとYの死に関することだ。
それなら、誰に何を聞けばいいかは明白だ。
Yのブログを読み終えて、若い頃の自分を思い出すきっかけになったのかもしれない。
正直いって、若いからこその暴走を今の自分がしてしまうかなといった不安もある。
ただ、それならそれでいい。とにかく突き進もうと私は決心した。
私は私らしく、オカルトライターとしてやりたいことをやらせてもらう。
そんな雑話でした。




